第4話 放課後
「
放課後の教室で
「うんいいよ。引っ越してきてから、まだゆっくりと街を見て回れてなかったし」
沙羅は快諾した。歓迎会が延期になってしまい少し寂しい気持ちだったところへの誘いだ。断る理由は無い。
「俺も行っていい? 今日は暇だし」
二人のやり取りを聞いていた
「もちろんだよ」
「そうこなくっちゃ! 舞花だけだとお堅い感じのつまらない場所ばっかり案内しそうだしさ。俺が若者向けのスポットとか色々紹介しちゃうよ」
「……私が案内する場所は全てつまらないと言ったかしら? 楽人」
静かな迫力を感じさせる声で舞花が楽人に詰め寄り、その迫力を前にして楽人の頬を冷や汗が伝う。
「あっ、いや。今のは言葉のあやというか、何というか……」
「市長の娘の権限で、市内の全ての娯楽施設をあなたの言うお堅いつまらない場所とやらに変えてあげましょうか?」
「権力の乱用は良くない! ごめんなさい、俺が悪かったです」
S気のある瞳で言い放つ舞花と震えながら謝罪を続ける楽人。そんな二人の様子を沙羅は微笑ましく眺めていた。今日の街巡りも楽しくなりそうだ。
「そうだ、
沙羅は帰りのホームルームの途中からずっと机に突っ伏していた
「別にいいけど、夜まで予定無いし」
そのままの体勢で気だるそうに灯夜は答えた。
「えっ、本当に?」
自分から誘っておいて失礼な話ではあるのだが、灯夜があっさりと承諾したのが意外で沙羅は思わず聞き返してしまった。マイペースな彼のことだから、断るまでいかなくともかなり渋るのではと思っていたためだ。
「そんなに驚いてどうした?」
「ううん、何でもないよ」
灯夜が承諾してくれたのは嬉しい誤算だった。初対面の時には灯夜のマイペースさに翻弄されて自己紹介すらも曖昧になってしまったが、これで親交を深める良い機会が出来た。
「おっ、灯夜も行くのか? 珍しいな。流石のお前でも沙羅ちゃん程の美少女のお誘いは断れないってか」
「ちょっと、楽人くん」
楽人の発言に沙羅は頬を紅潮させた。
「いや、暇だっただけだから。それに、俺の好みのタイプは
灯夜は迷うことなく即答した。遠回しにではあるが、沙羅には女性としての興味は無いと言っているのと同義だ。
「瑠璃ちゃん?」
即答されたことに地味にショックを受けながらも、沙羅は名前の挙がった女性に興味を示した。出会って間もないのであくまでもイメージだが、灯夜は人前で好みの女性の話をするタイプには見えなかったので少し意外だった。
「世界史の
「雨音先生?」
今日は世界史の授業が無かったので、授業で顔を合わせたことはない。職員室で見かけている可能性もあるが、顔が分からない以上は誰が雨音先生なのか分からない。
「若くて可愛くて、それでいて親しみやすい。いわゆるマドンナ教師ってやつでさ。本気で惚れちまう男子が多いんだよこれが」
「久世くんも、その雨音先生のファンなんだ」
マイペースで掴みどころが無いと思っていた灯夜の、年頃の男子らしい一面が垣間見えた気がして、沙羅の中に親近感が湧いた。
「ファンとは違うんだけど……何と言っていいやら」
「灯夜と先生は、相思相愛みたいなものじゃない」
「はい?」
舞花の爆弾発言に沙羅は目を丸くする。どちらかと言えば恋愛に年齢や立場は関係ないと思っているタイプだが、リアルに間近でそんな話を聞くことになるとは思ってもみなかった。
「妙なことを吹き込むなよ。俺と瑠璃ちゃんはそういうんじゃないから」
「ふふ、ごめんなさい。ちょっと言ってみたくなっただけよ」
「なーんだ。冗談か」
灯夜と女性教師の間にロマンスがあるというのも面白い展開だなと思ったりもしたが、流石にそれはドラマの観過ぎだったかもしれない。
「それよりも街を見るんだろ? そろそろ行こうぜ」
意外にも灯夜が率先して言い、教室の出口へと向かった。
「待ってよ久世くん」
アクティブな行動を見せた灯夜に驚きながらも、沙羅はどこか嬉しそうに灯夜の背中を追いかけた。
「私達も行きましょうか」
「そうだな」
舞花と楽人も後に続いた。
只今より、沙羅に街を案内するツアーの開始である。
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