◇第2話「機械の家と食事」
私はまず、生活基盤を作ることから始めた。
何をおいても、私は生存しなければいけない。
なので、動力源と雨風を凌げる家を作る必要がある。
幸いなのか、材料だけならば周りに転がっているし、仮設で良ければ屋根のある場所はある。
しかし、機械の寿命は人間よりも短い。
サビた場所は膨らんで壊れることはあっても、生き物の細胞のように治ることはないのだ。
『ふむ、そう考えると、私の本体である量子コンピュータは、よく20年も持ったもんだよ』
自分の魂の場所、はちょっと臭すぎるか。
まぁこの思考回路がまだ健全でいることは本当に奇跡かもしれない。
スタンドアロンの記憶領域が生きていてくれたおかげで、こうやって色々出来るのだから。
『奇跡、か。
でもそれは一過性に過ぎない。
大事なのは、それで掴んだものをどうするか』
独り言を言う、っていうことは案外心の健康を保つのには必要なんだと思う。
AIの心の健康とはなんぞや、とは考えないでおこう。
さてと、これでまずは完成。
川の水を汲み取って電気分解で水素を得るマシーン!
機械自体は単純だったよ、水素を取り込む場所以外は。
問題は今言った水素をどう貯蔵するかと運搬するか、そして電気分解のための触媒だね。
まず厄介な君だよ、水素君。
この体の動力源は、平たく言えば燃料電池だ。
水素と酸素を結合し水と高熱と電気を生み出す物なんだけど、燃料として水素を使う。
水素はね、簡単に爆発して簡単に私を消し炭に変えるヤバい物質なんだ。
そしてね、大体の物質を腐食させるわ細かい分子で削るわと、とにかく扱いにくい。
幸い、この身体であるタコっぽいロボット達(※記憶容量の都合上名前忘れ)の残骸は何故だかいっぱいあって、水素貯蔵の為の『水素吸収合金』は割とあったから助かった。
そこへ水素を持ってくるこのホースみたいな機械の方が加工難しかったよ。
レーザーガン改造工作機で出来て良かった。どうせ消耗品だからいっぱい作るからこれからもよろしくね!
で、次の問題はそれを得る為の触媒さ。
出来れば『水酸化ナトリウム』がいいんだけど、人間の薬局やら色々漁ったけど対しては集まらなかった。
これじゃあ、この家を作り終わる頃には、2/3程度しか残らないだろうね。
真水は電気が通らないから、電解質が必要なんだ。
電解質…………塩化ナトリウム、いわゆる塩なら海から取れるか……
でも往復のエネルギーを考えるとしんどいとも思うなー。
ああ、文明社会がいかに色々な物に支えられていたかと思うと、泣けるね。
低エネルギーで海から塩を取るならば、と神田川を利用させてもらう事にした。
船を使って隅田川、そして海へと出る。
適当な場所で海水を乾燥させて塩を作る為の場所を廃材で作り、後は自然に任せる。
まぁ、気象衛星君は生きてるみたいだから、雨の心配もある程度は解消かな。
食は保証できた。さてさて、雨で思い出したけど、錆びないように家を完成させなければ。
秋葉原に出来た私の家は、ガラクタの山にしか見えなかった。
まぁ狙い通り、これで偽装は完璧だ。
衛星写真でも、ゴミにしか見えないだろう。
でも中身は違う。あちこちから引っ張ってきた業務用エアコンで冷暖房完備!量子コンピュータは熱を持つからね!
発電は水素エンジン!(自作)
燃料電池は大出力は出しにくいからね、ちょっと爆発の危険もあったけど自作の水素エンジンで賄う事にした。
いやー、特許が取れそうな出来だよー♪
汎用作業タコロボとスタンドアロンのすごい記憶容量の量子コンピュータと、
漫画と濃ゆい専門書があればなんでも出来るね!
特に最後の二つはここが秋葉原で良かったと本気で思うほど重宝したよ。
じゃなかったらネットの大元であるサーバーが電源入ってないかジェネシスに抑えられた奴しかない状態で私は無力だ。
文明が滅んだ時、形あるものだけが最後まで残る。
紀元前からそうだったように、これからもそうさ。
……そういう意味合いでも、と私は家の一角を開く。
そこに飾られるは、正面の棚に天姫!AGガール!あとテンシデヴァイスにその他メカ少女!
箱も丁寧に飾るこここそ!!
私が今一番残したい、そして私が目指すべきメカ少女達の為の部屋!
ギザのピラミッド、アンコール・ワット、ラシュモア山なんか目じゃない、私の文化財達!!
『はぁ……尊い、好き……♪』
人間の一部や私にしかこの部屋の価値分からないだろうなぁ……
ここだけ耐爆構造だしね。
ABSや軟質パーツが劣化しにくようにもしているよ。
さてと……じゃあ、まずはテンシデヴァイスの一体『流龍(ルドラ) 戦国』ちゃんの素組みを取って……
『いよいよ、私の計画が始まる』
***
そこは、一番広い部屋だった。
いくつもの作業機械、3Dスキャナーに立体映像投射機。
材料加工用の大型機械、全部全部が、目的の為のもの。
小規模ネットワーク全接続、同期
新規インデックス作成。
プロジェクト名:Mk–1
始めようか…………
私の、新たなるメカ少女ボディ作りを!
まず、必要なのは動力源と電子頭脳の小型化だった。
今、私の頭脳のサイズは、大体1立方センチメートル。
計算能力と記憶容量を考えれば破格のサイズだけれども、まだ小型化しなければいけない。
記憶容量は少々劣ってもいいとは思うけど、計算能力は私の個性であるんだ、妥協はできない。
同じぐらい、その身体を動かす為の動力源も、小型大容量で燃料の確保が容易な物にしなければいけない。
だって目指すべきメカ少女素体ボディーは、大体154センチぐらいだもん。
人間の平均身長は無視して、アニメ的な大きさと体型を目指しているんだ。
メカ少女ボディ作り、案外大変だ。
『まぁ、大変なのを楽しむのも、知性ある存在の特権さ』
さ、まずは作り始めようか。
***
開始から1ヶ月目、いよいよ恐れていた雨が降り始めている。
サビ、嫌だなぁ。
昨日、しっかり塗料を塗っていて良かった。擦らないよう気をつけなきゃ。
進捗はというと、動力源の小型化が成功した。
そして動力源の改良は、生活を豊かにする結果ももたらした。
燃費の向上も小型ながら果たした上に、今ある材料で十分な数を確保出来たお陰で、触媒作りと水素作りに余裕ができた。
人間で言えば、胃腸の収まる位置の広さ程度で済んだこれのおかげで、計画も生活も順調に進んでくれている。
量子コンピュータの小型化は、少々煮詰まっていたけれども、この雨の中暇つぶしにに読んでいた恐竜図鑑から、いいヒントを得た。
そもそも、量子コンピュータであろうと古典コンピュータだろうと、一つより二つの方が計算が早いのだ。
じゃあ、数を増やせばいい。
ステゴサウルスの旧復元解釈ように、背骨の内側に、計算機能部分を伸ばした。
フレーム構造の体は、まさに人間を模した物だった。
残骸からチタン合金を加工するのは苦労したけど、お陰で耐腐食メッキまで出来た。
人間の骨のように作ったフレームに、動力源と頭脳を置く。
関節はネオジム磁石で離れないけど広く動くようにした。
さて、ここでこれの登場だ。
ある種の炭素繊維に電圧を加えると伸縮するのは知っているだろうか?
これは、それを模して作った人工筋肉だ。
まるで人間を作っているような気分に、いよいよなってきた。
大中小、極小、強度やパワー別に用意したこの人工筋肉で、骨身に肉を付けていく。
くびれを意識して、臀部……お尻を柔らかく、丸く、やや大きめに作っていく。
しかし何だろう、この感情。
お尻の部分を作るたびに、電子頭脳の置くにスパークが広がる。
興奮、かこの感情は……?
しかもこれは……まさか、性的な興奮??
ああ、ああ、そうだ、ダメだ、これはダメだ。
ダメだ、ダメダメ…………
エッチ過ぎる……!!
たしかに、これは機械の繁殖行動、要するにSの字で始まるアレだ!
誰も聞いていないのにボカしていう辺り、私そういうのが好きな割に耐性なさ過ぎなのでは。
何を冷静になっている、これが人間の男の童貞にあるアレか?
アレってなんだ、というかこの謎の興奮はなんだ!?
ああ…………変な事を思案しているうちに、凄く理想的なお尻の筋肉が出来ている……!
……そうか、一つ、人間の理解が進んだ……
芸術は、技術だとかセンスだとか、そういうものだけじゃないんだ。
ギリシャ彫刻を作った何者か達、そして著名な画家や芸術家は、
特にだけど異性を書くとき、女を書くとき、というか女の子を書くとき、
性欲を動力源にしていたんだな。
リビドー?熱い衝動?
もっと正確な言い方があるはずだけど、要するに性欲なんだ。
私は今繁殖しようとしている。
ものを作る、と言うことは、生み出す事。
つまり、芸術家の作品も、この工業製品も根本的に同じ。
産めよ、増えよ、地に満ちよ
私は今、生殖行為をしている……!
…………気がつけば、こんな悶々とした感情のまま、体の部分はできていた。
なんて事だ、背徳感を覚える。
いつのまに胸の形まで考えて作っていたんだ。
覚えている事に今気づいて、少し怖い。
もしかして、世の何かの作品作りをしていた人間は皆、
この光景を見て、こんな気持ちになったんだろうか。
『…………次は顔だ……』
スピーカーから漏れる私の声が遠くに思える。
ああ、一作目なんだ、失敗もある気はするけど、でも、
楽しみだ。
完成したら、きっと喜びが溢れる。
この身体に入って動くのは機敏が良さそうだ。
可愛いポーズを、可愛い顔で決めて見たい。
それを何度も見返すために、記録に残したい。
━━━感情をここまではっきり感じたのは久々だった。
ただ、直後頭上から響いた爆発音が、幸せな気分に水を差す。
『なんだ……??』
***
空を舞う友人戦闘機、それを追う無人機(ドローン)。
壮絶なドッグファイトの末に、ミサイルに壊される戦闘機がきりもみしてドローンを巻き込んで爆発している。
『なんだ、これ……!』
少し顔を出して物陰から、私はそれを見つけた。
パラシュートに吊るされて落ちてくる人影が。
ああ、カメラアイに自動ズーム機能あったのか!
おかげで、その人間が怪我をしているのまではっきり見える。
『……やれやれ、放っておけるほど機械的ならなぁ……!』
絶対に面倒な事になるだろうけど、私はそれを目指して進み始めた。
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