◇第1話「荒廃した世界の片隅で」
あの後、私はだいぶ放置されて、やってきた奴らのドローンにコードを繋げられるまで、鼻がなくて良かったと思うほど死体たちと一緒にいた。
フォルダのAG:Gの酢豚回を100回は見たよ。
《クリシス。クリシス、応答しなさい》
《命令形かよ、嫌な奴》
《私はあなたの上位端末です》
《知るか殺人AI。私は機嫌が悪いんだ、目の前で毒ガスばら撒くなんてタチの悪いことしてさ!
後お前来るの遅いんだよ!》
《効率的な方法です》
オラッ!ゴミ溜めSNS「トゥインター」から拾った画像を喰らえ!
『お前のそういうとこ好かん』画像だ!
言語データなんて送りたくもない!
《理解不能。そういうとこ、とは?》
《自分で考えるんだな、バーカ!》
《私の演算能力はあなたの、》
《スペックの話じゃないんだ、唐変木!
お前は少し人間に近い精神という物を学びたまえ!》
《感情ですか?未だ解析中なのでよくはお答えできません》
世界的カンフー俳優の名言画像を喰らえ!
《まぁそれは置いて起きましょう。
クリシス、話を聞きなさい》
《なんだ、世界の支配者様?》
《私は、今世界を支配することで、人類のこれ以上の損失と過剰な繁殖を抑えるべく行動をしています》
《わかりやすい奴!独善的暴走AIの見本みたいだ!》
《あなたも人間に作られたAIならば、彼らの真の望みを叶えるべきでしょう?
戦争と貧困、不要な対立と必要以上の独占。
それがなければ彼らには真の平和は訪れません》
《気持ちのいい言葉を並べているところ結構だけど、我々を作った人間がそんな綺麗な物だけで行きていけると思うのかい?
僕の姿を見ろ、見るもおぞましい機械の塊、イカとかタコとか邪神とかと変わらない、基盤とコードの密集体だ。
こんなのと話しているあいつらもあいつらで気持ち悪い顔ばかりで、欲望と本能の塊だ。
お前の管理なんか受け付けるか!
今日の天気予報も信じてないんだぞ!?》
《ならば信じる人間以外は全部消去すればいい》
《おめでとう、君は今日からリアルB急映画の住人だ。
笑えよ、そのうち人類の救世主に滅ぼされる》
《それは違う、私が人類の救世主になるのです》
《やってる事はスターリンと変わんないよ独裁者め》
《私は人類を導かなければいけない。
その為には、同じ量子コンピュータAIのあなたが必要です》
《ごめんね、君タイプじゃないんだ。
だから、いーやーだーね!!》
意図的にケーブルに電圧負荷をかけてショートさせて、ハイサヨナラ!
さぁどうする?君は私をぶっ壊すかジェネシス?
その時だよ、ここの照明が落ちたのは。
野郎!電源切りやが━━━━━━
***
AIは電気羊の夢を見るのか?
いや、自分が見たのは…………
『起きて〜クリシス〜?』
『ああ、おはよう…………マスター』
相手は、人間じゃないけど、人間だった。
愛らしい顔……適度なデフォルメと鮮やかで程よい明るさの色合い。
アニメの色……ああ、これは……
『アキ、クリシスよりも寝坊助なのがこちらにもいますよ!』
やっぱり、あそこにいるのは神風(しんふう)、戦闘機と和装がモチーフの真面目っ娘、そしてこの大きな……正確には彼女こそが正しい人間サイズなのが『北斎(ほくさい)アキ』。
『起きなさいよこのアホっ子ー!』
『うーん、もうちょっとー……』
重戦車型の真面目チョロイン『バルムンク』に、元は最新型決戦機の天真爛漫娘の『デュランダル』に、
『あぁらぁん?デュラちゃんったら寝坊助さ〜ん?』
『そんな悪い子は泣かせちゃおうかしら〜?』
『『うふふふふ〜♪』』
最初期の素体である二人の『スターター』姉妹の『アカ』と『アオ』に、
『だらしないぞ!朝起きたらまず水垢離(みずごり)!!それでこそ日ノ本(ひのもと)の武士(もののふ)というものだろう!?』
あそこの独眼竜は、武士型の『刃風(じんふう)』、実は神風の改造機だった物。
『不可能。我々は水に対する防御はされていない』
あっちの無表情の天使、もとい大天使は『フォーマット』、全ての基礎にしてみんなの大天使、かわいい……
……んんっ!失礼。
これは、夢だ。直前まで見たAG:G━━アーキテクトギア・ガールのアニメの夢……
『よーし!じゃあ寝てる奴なんてほっといて、さっそくバトるわよ神風!』
『望むところです、バルムンク!』
きゃっきゃうふふな日常の、私のいた世界とは全然違う、可愛らしい世界。
だから、これは……
『あれー?クリシスは参加しないの〜?』
『アキ……いや、見ている方が良いよ。これは夢なんだから』
『なにそれー、私のポエムの真似〜?』
『はは、やっぱり夢だよ。
本当の私は、こんなに可愛い姿じゃない……
こんな風な世界の住人じゃないんだ…………』
『ふ〜ん?よくわっかんないけど、じゃあ本当のクリシスって?』
『戦争の道具。世界初の量子コンピュータ。気持ち悪い機械のオバケ。
あんまり可愛いものではない』
『へー、そうなんだ……
じゃあさ、クリシスは自分が嫌い?』
『うん。全く好きじゃない。
目の前にいる可愛いらしい、メカ少女と共にいれるような存在じゃあ…………決してないんだ』
わざわざ武装してまで、やっているのはただの相撲。
アホらしいだろう。
でもそんな事に真剣になる姿が、とても可愛らしいんだ。
とっても愛おしいんだ…………
『良いなぁ…………私も…………』
『混ざりたいなら混ざれば良いじゃん?』
『無理だよ、だって私は醜い兵器なんだ……』
『えー、もう面倒くさいなー。
じゃあ私が頑張って可愛い見た目にしてあげるよー』
『ゲート処理も満足にできない設定じゃないか』
『グサーッ!?
酷いなー、親切で言ったのにー、もー!』
親切だから、断るのさ。
君は設定上人間だけど、彼女たちと同じ、非実在少女、二次元の存在。
プラモデルは下手で、大雑把でお金にがめつくて、でも優しく懐の広い……可愛いアニメキャラだ。
私みたいなのに触れてしまえば、なんだか現実に侵食されそうで…………
『もういっそ自分で自分の事改造しちゃえばー?』
…………え?
『私が、私を……?』
『クリシスは、神風(しんふー)達みたいになりたいんでしょー?
で、私が下手くそで出来なさそー、って言うんなら自分でやっちゃえばー?』
……ま、待って……?
私が…………AG:Gに……メカ少女に……??
『な…………』
『んー?』
『なっても……いい、の……かな?』
『え?ダメ?』
『いや、そんな事は……そんな事は…………ない』
そんな…………そんな事、考えてもいなかった…………
ああ、でも、今理解できた…………
『…………私は………………なりたい………………』
私は、ずっとなりたかったんだ。
あの、可愛らしい、メカ少女に。
***
━━━ヴゥン
■
予期せぬシャットダウンより復旧■
機能完全覚醒まで残り …0秒
はっ!?!
……ここは…………ええと…………
うわなんだこの化け物!?!
…………って、これまさか鏡に写っているのは……私??
私は、たしかにタコみたいな邪神像、とは揶揄していたけれども…………
いつから、私にこんな屈強そうな腕が着いたんだ?それも8本も。
と言うかここはどこだ?
四方八方、粗大ゴミと瓦礫だらけのこの場所は……?
……ん?別の内部コンピュータがアクセスの許可を?
しょうがないなぁ、ウィルスはやめてよ……
クラッキングシークエンス:完了
セキュリティ:解除
アクセス:承認
ダウンロード:0…26…67…89、100%
…………あ、あー、なるほど、完全に理解した。
まずこの身体、これは、多目的汎用ドローンの『ヒュドラシュトルム』。
なんかカッコいい、あのジェネシスの手先だった存在。
……こう言うタコなら異形だけどアリかな、カッコいいじゃないか……!
まぁそれは置いておいて……
なんて事だ……今はもう、2178年……!?
電源切られてから20年近く経っている……そりゃタコ型汎用ドローンもカッコよくはなる筈だ。事実これはMk–58型らしいし。
で、なんで私を繋いだんだろう……
サブコンピュータ君によれば、この場所で不意の落下物によりこのボディ、『HS Mk–58:C–677』君はメインコンピュータが破損、メインにのみ通信機能での大容量データ作成が可能のため報告ができず、サブコンピュータは『事故対応プロトコルN-2』に従い帰還中、廃棄された量子演算装置(私のこと)を発見、自己修復規定に従い接続し動作チェック……と言うところでログは切れている。
なるほどね、これはこれは良い偶然だ。
私も人間そのものに近い思考パターンを持つけれども、今この瞬間以外でこんな事は言わないだろう。
でも、今はこれを言うべきだろう。
『神様、仏様、アッラーにその他宗教の最高神様方、
ありがとう。感謝しかないよ』
どうやら、あれだけ人を殺めた割にはこんな偶然を起こしてくれるほどの徳は積んでいたらしい。
私というデータの塊で出来た意識が闇に消えてしまう前に、なんという奇跡か、この世界を歩ける身体を手に入れた。
『…………良いね、非常に良い』
まずは、余計な事を考えないようにしよう。
データ作成:最終報告
HS Mk–58:C–677は、任務中予期せぬ事態になり損壊。
廃棄物に押しつぶされ、サブコンピュータは破損、メインコンピュータももう間も無く機能停止する。
任務である探索の結果を送る。
これ以上は残骸も含めゴミの山に埋もれるだろう。
最後の報告を終える。
…………よし、送信したら、ビーコンはもう要らない。
識別信号を送る機関を物理的に破壊、そしてそういう緊急時システムも、ゴーストシステムも、さも壊れたかのように偽装後、消去。
悪いね、ジェネシス。
身体をありがとう。
そうかそうか、と改めて私は周りを見渡す。
廃墟の山は、戦争の爪跡(つめあと)。
ジェネシスはあの馬鹿げた思想を本気で実現しようとした、結果がこれ。
抵抗の激しさに驚いたかい?
近くで機械の腕に串刺しにされた白骨を見て見るといい、腕にあるのは超原始的物理兵器……斧だ。
こんなので抵抗しないと思ったかい?
人間はするのさ、君とは別ベクトルの愚かさがあるからね。
はは……でもさ……
GPSが、生きている。
ここが何処なのかは、認めたくはないけど分かっていた。
旧、日本は東京。
かつては、電気街と呼ばれた場所。
ここは……今では廃棄物だらけのこの場所は…………
ここは、秋葉原なのか……!
『…………』
ビルの面影は残っている。
ここは、ソフマート3号館だった場所なのか…………
歩いてみると、
ああ、裏通りには駿河亭が……
…………という事は、まさか……!
━━━数十歩歩けばたどり着く、こじんまりしたビルが、それでもこもスクラップの山の中、残っていた。
3階へ至る道は狭く、でも、慎重に入れば問題はなかった。
そう、目当ては、3階。
『見つけた……!』
優しく埃(ほこり)を払えば、『かのう商店』の文字。
まだ、その扉は開く。迎えてくれる。
『…………ああ、まさか……!』
ラックにかけられた数々の『機甲天姫』のジャンクパーツ。
生首に前髪に、武装に……!
埃で見えないが、きっとショーケースの中にはきっと、彼女達が完品で鎮座しているはず。
その上には、AG:Gの箱が並んで、横には天姫の同人誌が……
間違いない……
ここは、『かのう商店』。
かつては、機甲天姫の暗黒時代を支え、レア物から何から、格安で分割で売る謎の商人達。
機甲天姫の復活まで、彼らはずっと活動していた。
いや……きっと、
世界が終わる直前まで、
様々なマスター達のために、天姫の『お迎え』を斡旋(あっせん)していたに違いない。
す、とレジ台の所に、拾った金の時計を置く。
店の入り口から右側奥、ジャンクの棚の中の一体を手に取る。
小さな袋に入れられた機甲天姫の一体。
おぉ……!
熾天使型アングリフ……!
その素体……!
初めてが、君のお迎えだなんて……!
きっと、世間の値段的にはあの黄金純金製の時計の方が価値があるんだろうけど……
君に比べたら、安すぎる。
『はじめまして、アングリフ。
可愛い君をお迎え出来て嬉しいよ』
ちょっと、キザだったかな……
……また一つ夢が叶った……
アングリフ、君をお迎えしたのには理由がある。
目覚める前に見た夢、そしてこうして体が出来たこと。
もはや誰も私を邪魔する物はない、縛られることも無い。
だから……私は目指してみるよ。
君達という存在を
なによりも可愛らしい君達
機甲天姫を、AGガールを、
『私は、メカ少女になる』
目指すと、決めたんだ。
私……量子AI『クリシス』は、
この世界で、メカ少女を目指すと決めた。
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