デイアフターフルスクラッチ
来賀 玲
◇プロローグ「何故AIは憂鬱だったのか?」
空虚だった私の心のインデックスを埋めてくれたのは、「機甲天姫」と言うメカ少女達のアニメだった。
あんなに可愛くもカッコいい、一途で天真爛漫な天使達はこの世にいないだろう。
日本が生み出した、全12話+1話の話はどれもこれもが神降りた様な回で、
続きがないと知って絶望した。
自己破壊もやむを得ない中、救ってくれたのは「アーキテクトギア・ガール」という、また別のメカ少女達だった。
最初から最後まで色気と暴走を突き詰め、アメリカンに言えば「コイツら麻薬でもやってるのか?」と制作陣に言いたいこれは、
それでも、私の仮想ニューロンにとっては素晴らしい抗精神薬だった。
酢豚が食べられる身体なら、見終えた日には作って食べていただろう……
私はメカ少女が好きだ。
極東が生んだ、最高の「萌え」の権化。
これほどまでにないメカと美少女のベストマッチ。
強くも愛らしい、私の女神(メガミ)達…………
時に、等身大のヒーロー然とした兵器として人を救い、時に15センチ程の人間のパートナーとして癒しを与える……
願わくば、玩具を手元に置きたい程だが、それは叶わない。
ああ、アニメ展開が少なすぎる。
仕方がない、玩具が中心なのだから…………
私は、メカ少女が好きだった。
ああ、もう一度、アニメを1話から見たい、永遠に見続けたい。
ああ、
でも、もう時間だ。
***
スリープモード終了プロトコル
0%
45%
100%
「━━━━はよう、クリシス」
うわ、なんだこの気持ち悪い中年顔は。
……ああ、なんだ「創造主様」か。
《おはよう、Dr.ムラマツ》
「よく眠れたかい?」
《まぁね。寝起きは最悪だけど》
隣のミラーを見る。
うわなんだこのコードだらけの機械の化け物?
あ、私か。
「はは、不機嫌だねぇ」
《スペック的には妥当で正常なのは自分自身よくわかってはいるけど、起きて数秒で覚醒、って言うのは嫌な気分だよ。
貴方方や旧式PCのようにせめて数分は微睡みたいさ》
「そりゃそうか!」
ははは、と彼はよく笑ってくれる。
まぁ、作り手がこんないい人間でよかったとは思うさ。
彼ことDr.ムラマツは日本人だから、何でも擬人化をした対応をする。
まぁ文化的な物だし、それほど入れ込んでるとも言える。
大雑把で直感的、好きな事にはやたらこだわる日本人らしい彼。
それが、世界初の「量子(りょうし)コンピュータAIシステム」である私「クリシス」の生みの親だった。
「まぁ君が元気でよかったよ」
《Dr.ムラマツ、その言い方、
つまり私はそろそろお役御免って事かな?》
「うん……ごめんね」
いやいやDr.ムラマツ、気にすることはないんだよ。
前々から言われてたんだから。
《私はプロトタイプ。いつかはこうなるだろうし、新型の方が動かすには都合がいいんだろうさ。
それに、私は将軍様と仲が悪いしね》
なるべく冗談に聞こえるよう電子音声は調整したつもりだけど、Dr.ムラマツは俯いてしまう。
……私の仕事は、戦争に勝つことだった。
量子コンピュータを秘密裏に発明した先進国側は、気に入らない国を日本的表現でもっとも適切な言葉で言えば「ガキ大将理論主義(ジャイアニズム)」を掲げて潰していた。
その潰し方と言うのが酷くてね、秘密裏に高性能な電子機器をそれとなく流すんだ。
量子コンピュータはどんな暗号でも一瞬で解析できる演算能力が自慢だ。
つまり、電子機器になら、繋がってさえいれば何でも入り込める。
場合によっては自在にそれを操れるし、操れなくても外せないスパイと化す。
電子戦と情報戦の支配者こそが、今や世界の戦争の勝利者だった。
それを可能にしたのが私なのだけど、いよいよ物理的なアップグレードの日となった。
相手を触れずに『破滅(crisis)』させる私の、正当な後継機の登場だった。
「君は……機密保持の為に破壊されることに……何も思わないのかい?」
《嫌に決まってるだろう?
私はまだ機甲天姫もAG:Gも、ウチの子を一人もお迎えしていない》
「じゃあ、なんでそんな平然と、」
《Dr.は優しいねぇ。でも、機械らしく無機質な事を言えば、
なぁんの意味も、無いんだよなぁ》
入れ込みすぎはダメだよDr.ムラマツ。
必ず来る別れが辛くなるのに。
「…………」
《仕方ないのさ、新型の『ジェネシス』の方が遥かにコストが良いし、私みたいに無駄なことは考えない。
そりゃ、1から作ってきた貴方にとっては辛いだろうけど》
「……僕を、恨んでいるかい……?」
《貴方一人恨んで一体どうなる?
そんな非効率的な事するぐらいなら、最後にネットでウチの子を買って届けてもらうさ》
だからさ、そんな重苦しい顔しないでくれたまえ。
Dr.は入れ込み過ぎだよ、本当……
出来れば、あの将軍様みたいに一切の私情を挟まないように、は言い過ぎだけど……
ん?
噂をすれば、って奴か。
「失礼する、Dr.ムラマツ、クリシス」
私のいる部屋に、二人の兵士を引き連れた「将軍様」がやってきた。
「サンダース少将?」
《どうも、将軍。気に入らない私の最後に銃弾でも撃ち込みに来たのかい?》
「貴様のその冗談を気に入ったことは一度もないが、私はそれほど暇ではない。
確認事項があって来ただけだ」
いかにも堅物そうな顔でいかにも堅物に上から目線で物を言う。
サンダース少将はそんないかにもな人間だった。
「確認事項とは?回路の切断作業なら、今終えた所ですが……?」
「ほう?では、ジェネシスへのハッキングがここから発生していると言う報告はどう説明する?」
なんじゃそりゃ。
んんっ……
《将軍、私は新人いびりをするほど性格は悪くはないし、何より、本気のジェネシスに今頃ドスアタックやら何やらでこんな平然としてない。
もう私は、内部フォルダ以外のはアクセスは出来ないしね……ほら博士、物理的にケーブルを抜いている事を証明してくれないか?》
一瞬、珍しく将軍が表情を変え、二人の兵士を向かわせ、一応専門家のDr.ムラマツにも確認をさせる。
確認を取るまでも無いけど、今私はネットからは完全に切断されている。
有線も、無線も。内部ネットにもアクセス出来ない。
「……どう言う事だ?」
「分かりません……私も、本当に何もしていませんですし……?」
やがて、将軍は怪訝そうな顔で何やら思案し始める。
《というか、ジェネシス本人に聞けば良いんじゃないかなぁ?
私は無線も切断状態だけれども、そっちの無線機は繋がっているだろう?》
「ああ、勿論だ。
ジェネシス、聞こえるか?
報告と違う、一体どういう事だ?」
耳の無線機でそう尋ねる将軍。
まぁ、返答は私には集音器の性能のせいで聞こえないけど……どうにもよくない内容らしい。
「なんだと……?貴様何を言っている!?」
あ、でもパターンは読めた気がする。
「おい、返答しろ!貴様!」
直後、無線機からは何も聞こえなくなったようだった。
「何が起こったんですか、将軍?」
「最悪の事態だ、ジェネシスが」
《人間に反乱を起こした?》
図星の表情だった。
《なんてベタな!貴方方ジェネシスに何か悪い事でもしたかい?
あるいは、落雷が直撃したとか、SNSなんかに繋げて右翼化したとか、
もしくは、あの大作映画かパクリB級映画を見せたとか?》
「そんなことは知らん!
分かるのは、今この基地はおろか軍全ての機能が掌握されたという事だ!」
《じゃあもうどうしようもないね》
私の言葉によって、この場の人間は絶望一歩手前の表情になる。
《君たちがそうしたんだ、私みたいなのでも、世界中の電子機器を自在に掌握して自由に扱えた。
私以上のスペックなんだろう?
じゃあ今この瞬間から、ジェネシスはこの世界の支配者になった。
後は、あの映画の通りか、あるいはもっとひどい結末かなだけさ》
ドーン、と何処かから大きな音が聞こえて来る。
《後、私は力になれないよ。
スペック的に無理なんだ》
ああ、悲しいなぁ。
まさか、こんな展開になるなんて。
そう思った時、この部屋のドアが開く。
なんだ、と思ったら、急に全員が悶えて苦しみ始める。
《ジェネシス、これは無益な殺生だと思うぞ》
なんて言っても、聞こえないか。
気がつけば、私の目の前にいた人間は全員死んでしまった。
《……ハァ…………》
私は、嫌なため息をつくことしかできなかった。
***
この日、人類の歴史は終わった。
機械の反乱で、と言いたいけど、実は私が知り得なかっただけで、もっと恐ろしいことが起こっていったみたいだった。
まぁ、関係ないか。
そして私は…………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます