◇第3話「出来たてメカ少女と脳筋山猿男」
「…………ふぅ……」
いい知らせがある。
なんと、念願のMk–1メカ少女ボディが完成した。
「…………っ、」
悪い知らせがある。
その素晴らしいボディが今、私ごと目の前のプラズマキャノンを構えた病人に壊されそうだ。
「君、病人は大人しく、」
「動くんじゃねぇ!!!!」
人の話を聞きたまえ。
人じゃない?そう言う問題じゃない。
まったく…………この聞く耳を欠片も持っていない人間、そういえば、
出会った時もこんなんじゃなかったかな……??
***
『君ねぇ、病人は大人しく、』
「動くんじゃねェェェェェ!!!!」
君ねぇ、人の話は聞きなさいよ。
人じゃないとかそういう野暮なこと言うんじゃないの、善意で助けてるんだから。
墜落地点から少し離れた場所で、左肩を抑え、足も片方から血を流している人間がいた。
『当事者君』さぁ、この極めて短い簡単な状況で分かる自分の状況を見て、
なぜこう救いの手を4つは向けるとても慈悲深ーーーーーーくて優しーーーーい相手に、そんな物騒極まりない上に当たりどころが悪いと大変なアサルトライフルを向けるかなぁ?
後、反動でもう片方の腕までダメにする気かい??バカなの???怪我人の判断力すごいな!
「来るんじゃねぇぞ……!!い、一歩でも近づいてみろ、タダじゃおかねぇ!!」
『…………はぁ…………』
持ってきて良かった、あり合わせで作った麻酔銃。
えいっ☆プスッ!昏睡ぃ〜
悪いね、薬液は超強力即効性だけど死にはしないさ、許してくれよ?
さて、一発で眠ってくれたこの青年を運びますか…………
***
古来より、骨折は適切な位置に骨を固定して、繋がるまで待つ物。
あの青年は幸いなことに、ちょっとした打撲と足の骨折ぐらいで済んだ。
まぁ、感染症とかは心配ないでしょ。
さて、適当なベッドに乗せ終わったら、後は起きるまで放置さ。
空調は寒めなのは許してくれよ?
『さてさて、人間君ばっかりに構ってはいられない』
そうそう、今大事な所なんだ。
Mk–1ボディの顔の造形というね!
メカ少女ボディは、人間であって人間ではない体だ。
なにせ人間らしい顔を作るとどうしても気持ち悪くなる。
人間って不思議な事に、限りなく人間に近い何かを見るとそれが人間でないと分かってしまう能力がある。
いわゆる『不気味の谷現象』。
でもそんな事に配慮してやってる訳じゃない。
私は、2次元的な顔が好きなんだ。
人間の顔なんか、トップモデルベースの顔でも願い下げだね!!
でも2次元的な顔を3次元空間に上手く落とし込むのは楽じゃない。
それが出来たかつての企業…………『ケテルトラストウェポンディーラー社』とかは変態企業だったんだなって思うね。にして物騒な名前のおもちゃ屋だな。武器屋みたい。
でも、私も人工知能、それもやたらハイスペック量子コンピュータの性能にかけて、軟質パーツやら何やらを総動員してようやくそれを作ることができたよ。
そう、『出来た』んだ。
目の造形、まぶたの形、人工表情筋が干渉しないように調整、ムニムニほっぺやら2次元の嘘の再現やら、コレだけで全体の工程のうち7割を占める大変さだったけど……
出来たんだ、念願のMk–1ボディが
ついに完成した
『…………ふヒヒっ』
機械どころかまともな思考能力を持つ存在が上げる声じゃないな今の。
分かっていたけど出てしまった。
そうか、コレが……
『ふヒヒ……!コレが、達成感……!』
湧き上がる喜びがスピーカーから漏れる。
人間なら、鼻血出している気がする程だ……!
目の前には美少女の身体。
ちょっと内股で、形のいいおっぱいの上で手を軽く交差させて横たわっている美少女ボディー。
顔は完璧だよ……人間に見えるけど、一切人間っぽくない!
かつて、日本を中心に流行ったオタクアニメの2次元美少女萌えキャラそのものの顔!
ちょっとクールな、でも柔らかな…………アレ?
まずいぞ、演算エラーだ。
可愛いとは言えるけど他の表現ができない。
可愛い。
萌える。
プニプニ。
尊い。
語彙力が死んでいる。
ああ、演算出来ないけど理解した。
語彙力が死んでいる……!!
コレか……!
コレが、先人のオタク達が言っていた事か……!!!
死ぬのだ、語彙力が……!
最高すぎて本当に何を言えばいいのか分からない……!!!
『……こ、この中に……入るのか……!!』
ハッ、と急に思考が戻ってくる。
そうだ、私は……!
『このボディに…………なんかいい匂いしそうな体の中に……!!』
いい匂いってなんだ!?
そうだ、それを知るためにも……!!!
無線リンク……完了
データ転送開始
完了まで残り30分
意識レベル:極小
…残り26分……12分……1分……
30秒……2分、1分、45秒……
3……1……完了
起動準備開始、残り…………
「━━━━━って、ちゃっちゃとやれよ毎回毎回さぁ!?!」
我ながらクソ立ち上げ遅いじゃないか!!!」
ハッ!?
いけない、つい自分の仕様に悪態をついてしまった。
「…………」
第一、量子コンピュータAIなんてご大層な名前の自分だ。
この身体じゃなくっても他の部分へインストールするのは時間がかかって当然。
……ともあれ、目的の第一段階は終了した。
目の前には、ちょっと機械的な関節は目立つけども、かえって自分好みなメカの格好良さと女の子のたおやかさが混ざった手がある。
カモシカのような曲線美の足が2つ、しっかり自分の意思で動く。
立ち上がった拍子に、プルンと…………いや違うな、『たゆん』と胸が揺れる。
恐る恐る、この時のために用意した大きな鏡を見る。
━━━ああ、これが私……!
瞳はまるでエメラルド。
人間には出せない色と、顔と少々不釣り合いな大きな目。
人間基準では巨乳だが、画面の中のキャラの中では普通サイズの丸い胸。
ぴっちりとしたスーツは、身体の肌色の面積にアクセント程度とも言えるほど少なく、そこはかとないエロティシズムを感じる。
下ろした合成繊維製髪の毛の間、頭頂部から覗く機械は、多目的プラグ兼……まぁ効果はどうでもいいか。なんか可愛いでいいんだこういうのは。
まさに、そこだけ2次元の世界から出てきたような存在が、私の目に映る。
「いや…………これが……!」
ぱぁ、と明るい笑みを浮かべる鏡の美少女は、
「これが今日からの…………私……!」
かつて見た、あにアニメの中の声を真似た電子音声で喜びを紡ぐ。
「……あぁ…………可愛い……♪
可愛いぞ、私、すごい……!
改善点もまだあるだろうけど……
身体も、この顔も、おっぱいもおしりも……!」
微笑む、顔の角度を変え、クルリと回る。
「完璧だ……!!
完璧じゃないか、メカ少女ボディの私……!」
ん?
「まてよ、まだだ。
最後に一つあるじゃないか……!」
そうだ、最後のピースを忘れていた。
道具は用意していたんだ…………まずは……!
「髪型その1、そのままストレート」
少々髪の毛が不揃いなのは、材料が足りなかったからだ。
でも可愛いから許すが、ストレートでは物足りない。
「その2、王道ツインテール」
あ、可愛い。
でもなんか……まだ違う。
「……ああそうだ……!」
ふと、髪の毛の1/3程を後ろで結び、続いて残りをもみあげ近くで2つ結んで降ろす。
あいにく、髪型の名前をストレージに刻み忘れたからなんていうのかは知らないけど……
「わぁ……!」
はい、可愛い。
決定。成功。万歳。可愛い。
なんてことだ……可愛いとどんな超高性能AIでも語彙力を……
「痛っ?」
頭頂部センサーが、軽い『痛み』を訴える。
よく見れば、くるくるいじってた髪の毛が、指の関節に絡まって少し抜けた。
「あー…………しまったなぁ……」
少し、指のデザインにも気を使うべきだった。
抜けた本数は少ないけれども、私は髪の毛を生やせないから続けばきっと禿げる。
おまけに…………と指先同士を突きあわせる。
「指のセンサー、思ったより物理的に弱いな…………
演算処理ありでも、やっぱりなんか感じにくい」
実は、指の関節がむき出しの理由は、センサーの感度が軟質パーツで覆うことで下がることを懸念したからだった。
意外と、このモチモチプニプニの肌色シリコンボディー部分の感触も弱い。
「……実際動かすと、問題も良く見えるなぁ……」
呟きつつ、新しい身体のインデックスに書き込む。
ドキュメント34:総評
◇Mk–1は、納得いく完成度となった。
しかし、体表のセンサーが思っていた程感度は良くなく、現時点でも小さな問題が持ち上がっている。
これよりトライアンドエラーを重ねることで、本機の完成度を上げていくと共に、場合によっては新規設計のMk–2へ移行する事とする
それにしてもメカ少女ボディは最高である。
生物で言えば鼻に当たる部分の空気中微細物濃度測定器の反応はゼロだが、この身体からは非常に良い匂いがする。
エラーじゃない、これは『萌え』の感情からくる物なのだから。
大事なのは、Mk–1の時点でこの萌えによる女の子の良い匂いが感じられたこと。
冒頭で書いたように、小さな問題こそあれど、この完成度は納得の出来なのだ。
「…………ぬっふっふっふっふ……♪」
こんな可愛くない笑いがなんでこんなに可愛く聴こえるのか。
ああ、私の合成した電子音声は完璧だ…………あの声優さんとこの声優さんの特徴を組み合わせたのは正解だった…………
「さてさて、鏡の前で可愛いポーズを取りまくるか……!」
あはは、笑ってるだけで私は可愛い♪
これが色んなポーズをとったらどうなるかな?
あんなのとか、こんなのとか、あざとい角度にちょっとエッチなのとか、ああ露骨なエロポーズでもきっと……!
そんな楽しい時間を遮る不快な電子音が鳴り響く。
キュイィン
「ん?」
振り向けば、携行プラズマキャノンという物騒な上によくそんなの持っているなー、と呆れるレベルの代物と、
「なんなんだよ、これは、一体……!?」
あ、この顔見たことある。
そりゃあ助けた人間だしって?慣用句だよこれは。
『FXで10万円を溶かした顔』っていうスラングを知っているだろう?
もちろんそんな顔じゃないさ、これは、
『B級映画でモンスターの姿なんかの信じられない光景を見た時に見せるあの顔』、だ。
「…………ふぅ……」
「…………っ、」
辛そうな顔してまで物騒な物構えないでくれ、銃口も指も震えているじゃないか。
「君、病人は大人しく、」
「動くんじゃねぇ!!!!」
人の話を聞きたまえ。
人じゃない?そう言う問題じゃない。
まったく…………この聞く耳を欠片も持っていない人間、これで今明らかに怪我を無理して立っている状態なんだよ?
大人しくしたまえ、それともそんな判断ができないほどの怪我だったのかい?
それは気がつかなくてごめんよ。
「分かった、動かない。
君のその震える武器のせいで、せっかく出来たこの可愛い身体が、まだ可愛いポーズもスケベなポーズもしてないうちに壊れるのは嫌だしね?」
あ、この手のひらをひらひらするのはゆるしてよ?可愛さに免じて。
「は?
何言ってやがる……??」
「理解できなくてもいいさ、趣味の世界だ。
君が今理解すべきなのは自分のコンディションさ」
指でチョイチョイ、治療した部分を指してあげる。頭の悪そうな人間だしね?
「あぁ!?テメェらが付けた傷だろうが!!!」
「テメェら〜??
なぁんだ、やっぱりあのお馬鹿AIのジェネシスの仲間だと思ってるんだ?」
「ジェネシス?
お前、『そっち』かよ!?」
そっち??
「何?ジェネシス以外に君らの敵はいるのかい?」
「あ?惚けてんじゃねぇぞ……!?
ジェネシスも『オーダー』も似たようなもんだろうがッ!!」
「お生憎様、20年近くは寝てたみたいなもんだしね。
ここ最近の事は察せても、良くは知らないんだ」
は? とか言われても言葉通りなんだよね、人間くんや。
この世界の事、知らないで生きてたのさ、目覚めてずっと。
「何言ってやがる……!?」
「……ところで君さー、適応力高いって言われない?」
「は?」
「そもそも、こんなに人間に話しかける機械と君は出会った事あるかい?
そんな相手と今、こうやって自然に会話してるのだよ??」
「…………」
なんだその、頭の中に突然宇宙が現れた猫みたいな間抜け面?
難しい事言った?え、難しい事言ったぁ??
あぁ〜〜、難しい事と言ったんだ〜〜??ごめんね〜〜??
「…………話せようが何だろうが機械は機械だろ?」
「すごーい、君はジャパニーズマウンテンモンキーのフレンズなんだー!」
「へ……?」
ジャパニーズは日本。マウンテンは山。モンキーは……でようやく彼は気づく。
「って、誰が『日本山猿(ジャパニーズマウンテンモンキー)』だこのヤロー!?!」
「今正解を出すまでに5秒かかった君さー」
そんなわけで、ひょい、と後ろから伸ばさせたアームでプラズマキャノンは没収だ、山ザルくん。
「あっ!?」
「そしてこんな危ないものを山猿君に持たせるわけにも行かないのさ」
「てめ、後ろ!?2対1は卑怯だろ!?」
『「勘違いしてもらっちゃ困る。私達は一つの思考で二つの身体を操ってるんだ!」』
「つまり事実上これは一対一」
『QED. 証明終わりだ』
「サラッと二つの身体で同じ声出すんじゃねぇぞクソォ!?」
ははは!スタンドアロンすぎる人間の自我に勝利したぞ!
気分がいいし、丁重にこの思考が猿の人間を部屋に戻してやろう。
「離せ!!俺をどうするつもりだ!!」
『病人は安静にしてなさいよまったく……ほら、体温計加えてー?』
「やめろー、あぐっ!?」
さて、静かになったか…………
じゃあ、もう一つの私、すこし頼むよ。
***
東京駅方面から、旧山手線を沿うように飛ぶ。
センサーに映る熱源は、小動物や廃棄された物が出す微弱な物ばかり。
やはり、何もないのか……その自立機械が諦めかけた時、視界に奇妙な熱源を見つける。
ターゲット確認
排除、開始
攻撃の当たる距離まで一気に近づき、武装を起━━━━
ーsこjhjxjhfkぉwjdんぃdbzljdjzkdjzpsんskdkfjfbsldんぢえbぉんじzdびfんdkzlsんjskdんdlzんf━━━
***
「おいおい、ジェネシスと全然違うじゃないか。
セキュリティがざるだなぁ?」
クラッキングに1秒もかからなかった。
このメカ少女ボディの演算能力だけでさ。
セキュリティウォールは暖簾(のれん)か何かかい?
なら、暖簾(のれん)をくぐったら『お品書き(情報)』を見ないとね。
「この20年で何があったのか、あの山猿君は何と戦っているのか」
夜は長いんだ。
じっくり調べさせて貰うよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます