クリスマスローズに祈りを込めて

はくのすけ

第1話

クリスマスローズの花が咲いた。

毎年、花を咲かせようと育ててはいるもののなかなか咲いてくれなかった。

今年ようやく花が咲いた。

あれほど望んでいた開花なのに……


「クリスマスローズって冬の時期に咲く花じゃないの?」

僕が聞くと

「そうね。冬から春に掛けて咲くのが一般的かしら、でもこの辺りだと大体3月から4月に掛けて咲くのよ」

妻が答えた。


「良く知っているね」

「だって好きだもん」

妻は笑顔で好きだと答える。

「だからね、ちゃんと育ててね」

「う、うん。頑張るよ」

僕は苦笑いを浮かべながら承諾する。


「そうそう、クリスマスローズの花言葉って知ってる?」

「いや、知らない」

「クリスマスローズには花言葉が色々あるんだけど、『慰め』や『私の不安を取り除いてください』と言った意味と『中傷』や『中毒』と言った良くないのもあるのよ」

妻が自慢気に話す。

「『中傷』や『中毒』ってあんまりイメージ良くないね」

「うん。でも『慰め』や『私の不安を取り除いてください』と言ったいたわりの花言葉もあるから、私はそっちのほうが好きだな」

そう話す妻をじっと見つめる。


それからの僕はクリスマスローズが咲くように育てた。

しかし農芸など全く興味が無かった僕には上手に育てられなかった。

その度に、妻に申し訳ない気持ちになった。


やがて仕事も忙しくなり、あまりクリスマスローズに構っている時間を取れなくなっていった。

妻は顔を合わせると、

「忙しいのに無理させてごめんね」

と申し訳なさそうな表情になる。

「こっちこそごめん。またクリスマスローズ失敗しちゃって」

「ううん。いいの。それよりもお仕事大変なんでしょ?無理しないでね」

妻のいたわりの言葉に自然と涙が流れそうになるのを必死で堪える。


初めて育て始めてからどれぐらい経ったのだろう。

遂に念願のクリスマスローズが咲いた。

しかも、妻の誕生日の直前に。

「詩織、やっとクリスマスローズが咲いたよ。君が望んだ花が……」

僕は涙を流しながら、ピンク色に咲いたクリスマスローズを眺める。


「君は喜んでくれるかい?それとも遅いと怒るかい?」

空を見上げ僕は言う。

「そう言えば、君は知っていると思うけど、クリスマスローズはね『冬の貴婦人』とも呼ばれることもあるんだよ。まるで君みたいだね」


妻の写真を胸に、そっと祈る。

君がもし今度、生まれ変わったら大好きな花に囲まれて、幸せに暮らせますようにと。

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クリスマスローズに祈りを込めて はくのすけ @moyuha

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