10話 3人がかり
「アーリィ!」
「ミッツ君!」
町中で戦っているアーリィを発見、合流することができた。彼女は両手に剣を持ち、背中には羽のように剣を2本携えていた。
それにしても薄い刃だ。横から力を加えたら簡単に折れてしまいそうなガラスみたいな剣。これがカゲロウと呼ばれる所以か。
「きみと戦えるんだ! 嬉しいな!」
「そんなことより服、服!」
一瞬なんのことを言っているのかわからなかったアーリィは、自分の下を見てから顔を真っ赤にし、手で顔を覆ってしゃがみこんだ。
ボロボロだし、大切なところはかろうじて見えない程度だ。
「……ひとに見られる前でよかったよぉ」
僕は見てしまったけど。
持ってきた布を腰に巻かせ、結び目をベルトに固定した。靴は……戦いながら服屋まで誘導しよう。
アーリィの準備が整ったところで、再び戦闘開始だ。
「バックアップは僕がやる! だから遠慮なくやって!」
「う……うん! とってもやる気が出て来たよ!」
アーリィは軽くジャンプし、体を横に回転させながら魔物の群れに突っ込んだ。
「必殺、無茶斬りぃっ」
遠心力で背中の剣が外へと開き、4本の剣で切り刻む。着地したあとでも回避などで体を振り、後ろの敵を背中の剣で斬りつける。
とはいえメインは両手の剣であり、背中のは補助だ。手数を増やせば必要なさそうだが、速度があまりないアーリィには合っていそうだ。
だけどアーリィの欠点が見えた。
アーリィの先読みは凄まじい。でも速度は並程度しかない。つまり彼女の先読みに現在が追い付いてしまうと、その先が対処できなくなる。
だから先読み潰しの方法はいくつかあるが、その中でも一番厳しいのは、大質量が一気にかかってくることだ。やられたのは多分、一斉に飛びかかられ潰されたからだ。
だから今、僕は駆ける。
「うゃっ!?」
アーリィにしがみつき、一気に離脱。アーリィは軽いから僕の速度は大して削がれない。そして誰もいなくなった空間には魔物が降り注いでいた。
「凄い! ほんとに速いねきみは!」
「アーリィはもっと速度を上げる訓練をしたほうがいいよ。模擬戦を繰り返すとか」
真剣な対峙は無駄を省き、研ぎ澄ませられる。素振りだけじゃ欠点が見えないから誰かと戦うのが一番だ。
僕の提案にアーリィが悲しそうな顔をする。
「みんな私とやるの嫌がるんだよ」
……そういえばアーリィは手加減の類が一切できないんだった。
それでいて異常なほどの先読みだ。数回打ち合っただけで大ダメージを負ってしまうんだろう。そんなの見たらみんな怖がって近寄らないかもしれない。
「じゃあこれが終わったら特訓しよう!」
「うん!」
僕らは魔物の群れに斬りかかった。
アーリィの特殊能力、先読み。少数対1であればほぼ勝てるだろう。だけど数が多いとどうしても途中から劣勢になってしまう。そこで僕が一旦敵から引き剥がし距離を置く。これによって一旦リセットされ、再びアーリィが優位に立てる。
これを繰り返すことで後ろへ下がってしまうが、戦闘としては耐え切れそうだ。
……いや、これはまだ甘い。アーリィが劣勢になるところで僕がアーリィの代わりに入り込めば下がる必要がなくなるんじゃないかな。そしてその間にアーリィの先読みをリセットさせる。
この作戦は功を奏した。なんとか押されることなくこの場で戦い続けられる。だけど物量があまりにも違いすぎる。
「くっそ、きりがない! アーリィ! 先に戻って!」
「うん! 待ってて!」
アーリィは僕の家へ駆け戻った。これから地下へ降りて回復。またここへ戻って来るまでひとりで耐え切る。
僕は普段から走って山を登り依頼をこなし、走って戻って来るという生活をしていた。だから体力だけは誰にも負けない。
というタイミングで、でかい波が来た。これ、ほんとに僕だけでどうにかできるのか?
でもやらないといけない。ティアもアーリィも、僕が守るんだ!
「ただいま! すんごいことになってるね!」
アーリィが戻ってくるまでほんの少しの時間しかなかったが、かなり長く感じられた。一瞬もう駄目かと思ったところで間に合った。
だけどいくらSランクとはいえ、アーリィの速度でこの波を抑えるのは厳しい。入れ替わりで回復させるのは厳しいか……。
「アーリィ、僕が戻っている間に少しずつ後退してうちの周辺まで誘導して!」
下がりながらならばなんとかアーリィでも耐えられるはずだ。
そしてうちの周辺はもうみんな避難しているから見られることはない。こうなったら最終手段としてティアを地上へ上げる。
僕とアーリィがハイサイクルで入れ替わり、常に体力が満タンの状態で戦う。多少の傷は無視するという、今までの僕のスタイルを使うんだ。
そんな計画をしつつ地下へ降りると、ティアは水を飲んでいた。
「うう、また口の水分全部取られたよ」
アーリィはどれだけ吸い取るつもりなんだ。そこまでしなくても回復するはずなのに。
だけど困った。ティアは今水を飲んだばかりだ。これが体内に染み渡り、唾液になるまで時間がかかる。
こうなったら仕方ない。また──
「ねえお兄ちゃん。いつも私ばかりじゃずるいよ……」
ティアは僕の首に手を回し、背伸びしてキスをしてきた。
ティアが僕の口の中をちゅうちゅうと吸い、舌を吸い取ろうとする。だけど僕も動きっぱなしで口が乾いている。互いの水分のない、むき出しの粘膜がねちょりとへばりつくように重なる。
……やばい! 生理反応が起きる!
「ちょ、ティア! 今はその、そういう場合じゃないんだ!」
「あぅっ」
今地上ではアーリィがひとりで堪えている。そしてそれは長く続かない。急がないと。
「だけどねお兄ちゃん。お兄ちゃんとキスするとね、その、水分が出るの」
どこから!?
いやわかってる。わかってるんだけど、今の生理反応を起こしている僕には色々ときつい。だから僕はティアがどこぞから出し、指にからんでいたぬめり気のある液体を見ないようにして口へ入れた。
「よし回復! ティア、悪いけど地上に戻って!」
「も、もう終わったの?」
「今が一番の耐えどきなんだ! かなりハイペースで回復させてもらうことになる!」
地上へ駆け上がるとアーリィがもうすぐそばまで来ていた。
「アーリィ!」
「あ、危なかったぁ!」
かなり押されている状態だった。ここで入れ替わり、アーリィは先読みのリセットをし、再び特攻した。
「アーリィ、ティアの水分摂りすぎだよ。ほんのちょっとでも回復できるから」
「うぅ、でもなんかちょっとテンション上がっちゃって……」
気持ちはわからないでもないけど、女の子同士なんだし……。
それからは本当に酷い状態だった。ティアは流石に家からは出さなかったが、玄関は開けっ放し、僕とアーリィは奪い合うようにティアのもとへ行った。
途中間違えてアーリィで回復……いや回復はできなかった。やはりティアでないと駄目だった。
しかし猛攻に次ぐ猛攻を30分ほど耐え切ったところで、ようやく僕らにも援軍が現れ、程なくして波が通り過ぎて行った。
僕らは生き残れたんだ。
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