4話 妹一番搾り

 妹が女性になりつつある。ううむ、困った。

 結局昨日はあのままいつも通りに寝てしまい、朝もうやむやのまま僕は仕事に行き、もやもやした気分でヘヴィオーガ3体を狩り、右腕を痛めてしまった。


 完全に上の空だった。ヘヴィオーガ程度で怪我をしてしまうなんて。

 多分骨に亀裂が入ってるな。痛みには慣れてきたけど、動かしづらい。



「お疲れ様ですミッツさん。今日も速攻でしたね。普通なら5人以上で2日かけて受けるような仕事ですよ」

「走れば今日中に終わると思って受けたけど、予定通りだったよ」

「……あの、そろそろ本気で昇級して頂けませんか?」


 また昇級のお誘いだ。


「僕みたいな若輩者が短期間にそう何度も上がるわけにはいきませんよ」

「そういう問題じゃありませんよ! さっきも言いましたが、5人で2日かかる仕事を日帰りなんて異常としか言えないんですから!」


 受付さんが声を荒げる。また彼氏に振られたのかな。

 受付さんの機嫌が悪い時は彼氏に振られたときだって先輩冒険者のルイチさんが言ってたし。


「で、でもBランク用ってBランクなら片付けられる仕事ってことですよね……」

「Bランクのひとが集まったチームでってことです! しっかりとボードよく見てくださいよここ! こーこ! ちゃんと5人以上推奨って書いてありますよね!?」


 受付さんが僕の請け負った仕事の概要の書かれたボードの一部を指さしている。

 あ、ほんとだ。金額と場所しか見てなかった。


「でもほら、僕は模擬戦でAランクの人に負けっぱなしですよ」

「……先日、誰と戦いました?」

「ええと、確かアキシラリさんとサイさんとカーヴズさんと……」

「Aランク4人と打ち合って勝てるわけないでしょ! Aランクですら無理よ!」

「で、でも瞬殺でしたし……」

「散々打ち合った後に埒が明かないと思った彼らが一斉攻撃してからの瞬殺でしょ! それまで何分やってたと思ってるの!」


 今日はやたらと絡んでくるなぁ。なにかあったのかな。


「今日はどうしたんですか?」

「えっ?」

「いつもならすぐ引き下がってくれるのに、今日は長いなと思って」

「ええっと……ま、まあいいじゃないですか! できれば早めに回答頂けるとうれしいです!」


 なんかはぐらかされたなぁ。まあいいや。さっさと帰って……帰って、どうしよう。

 怪我してるんだよなぁ。ティア、回復させてくれるかな。




「ただいま」

「お、おかえりなさい……」


 ティアが視線を流す。まだ駄目っぽい。ううむ困った。


「……あっ、怪我してる……」


 ティアが右腕の怪我に気付き、しかめた顔を赤らめる。


「ごめん、ちょっと油断した」

「うぅ。仕方、ないよね」


 暫し沈黙が流れる。


「……どこならいい?」

「えっ!? ええと、そうだね……どこだろ」


 ティアが悩む。人間は汗ができやすい部分がある。それは肌同士がいつも密着している部分。脇の下と股だ。

 肘や膝の内側もいいが、そこは大抵伸ばしている部分だから普通に生活しているとそれほど汗はかかない。

 他だと、いつも靴の中にあるから意外と汗をかく足……。


 いや、いや! それはさすがにどうなんだ? 足先とかとてもばっちい印象しかないぞ。そんなところ舐めたら変な病気になりそうだ。


 あれ? でもティアって病気になったことがない。もちろん怪我すらしたことがない。というか怪我した直後に治っているんだろう。

 病気にかからないということは、病気の元を浄化しているのだろう。僕もティアの秘密を知ってからは病気にかかったことがないし。

 ……ということは、ティアの足は汚くない?


「ティア、ちょっと座って」

「うん……ちょっ、お兄ちゃ! なにしてるの!?」


 座ったティアの足を掴んで持ち上げると、靴を脱がした。

 ……臭くない!? やっぱりティアは汗でそういうものを消し去っているみたいだ。ということはやはり綺麗なんじゃないのか?

 足に湿り気があるのはわかったが、それでもやっぱり足の裏には抵抗がある。だったら指の間かな。


「やっ! な、なに考えてるのお兄ちゃん! そんなとこ汚いよ!」

「で、でもここなら恥ずかしくないかと思って……」

「恥ずかしいよりもやだよ!」


 恥ずかしいよりも嫌とか言われてしまった。じゃあどうすればいいんだ。



 あれこれ悩んでいたら、ティアは意を決したように僕へ振り向いた。


「えっと、座って」


 僕はティアに言われた通り椅子に座る。するとティアは向かい合わせで僕のふとももをまたいだ状態になり、背もたれを掴んだ。


「……上を向いて口を開けて」

「う、うん」


 言われるがままにするとティアは体を伸ばし、僕の上へ顔を持ってきた。髪が僕にかからないよう耳の後ろへかきあげ、口から舌をちろりと覗かせる。


 白い肌は髪の影とライトの逆光で浅黒く見えるが、頬は赤く染まっているのがしっかりとわかり、潤んだ目で僕を見る。その表情に僕はどきりとした。

 震えているのか振動が椅子越しに伝わってくる。


 そして舌先からは、微かな震えとともに粘度のある透明な液体が流れ落ちてきた。

 糸を引きゆっくりと落ちてくるそれが僕の口へ入ると、途端に右腕の痛みが消え先ほどまであった体の倦怠感が全て消えた。


「きょ、今日はこれでいいよね?」

「ああ。もう痛くないし体力も問題ない。ありがとう」


 ティアは小走りに部屋を出て行ってしまった。


 ……なんか回復したばかりだというのに疲れがきた。これは気疲れだろう。

 なんというか、普通に振る舞うのが難しかった。まだ心臓が高鳴っている。


 明日からどうなるのかな。

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