第6話 電話

「…なんで、電話番号知ってる?」

 秀一は、本当になぜかわからないという様子で、いぶかしげに電話口に尋ねる。

「なんでって…前に教えてくれたじゃない。」

 電話の向こうでは、沙耶が呆れ声で呟く。秀一は、脳裏の記憶を巡らせるが、たしかに番号を交換したような、しなかったような、曖昧な断片しかのこっていなかった。

「ああ、悪かった。すっかり忘れていた。」

「私みたいなやつとはいえ、女性に電話番号教えて、それを忘れるって貴方本当に変わってるわね。」

 ふう…と煙草を吹かす音が電話口から聞えてくる。秀一は、それを聞きながら、怠惰に仰向けになっていた体勢を、ベッドの背もたれに起こした。

「すっかり大学で見かけないけれど、貴方学校来てるの?」

 沙耶はどうでもよさげに、投げやりに問いかける。

「行ってない。なんせ、面倒だから。」

「だろうと思ったわ。」

 ため息が電話越しに耳をくすぐる。その吐息に、秀一は女性の妖艶さを感じ取った。

「それで?用事はなんだ?わざわざお前みたいなやつが電話をかけてくるくらいだ、理由くらいあるだろう。」

 ベッドの横に置かれたペットボトルのコーヒーを呷りながら、秀一は問いかける。耳元では、相変わらず煙を吸って、それを吐き出す規則的な音が聞えている。

「ああ。そうね。実は話があるの。直接会いたいのだけど。学校が一番手っ取り早いから、明日の夕方来てくれない?」

「…それは、俺がわざわざ学校に向かうだけの意味がある話か?」

 バカにしたような、あきれたような笑い声が電話口を泳ぐ。

「さあね。ただ、私にとってはわざわざ貴方に電話して、会いたいと頼み込む程度には意味のある話よ。貴方にとっても、退屈な講義を受けるか、家で一人で悶々とするよりは有意義な話なんじゃないかしら。……。」

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