第4話 消極的自殺

 朝が来て支度をして学校へ行って、帰って眠る。

 朝が来て支度をして学校へ行って、帰って眠る。

 朝が来て支度をして学校へ行って、帰って眠る。

 ……私は、疲れた。漠然とそう思った。日々に何一つ変化がないわけではない。毎日は、変化に満ちている。しかし、それが私にとって魅力的であるかどうかという事は、別の問題だ。何が楽しいわけでもなく、何が苦痛なわけでもない。快も不快もない。そんな日々に、私は倦んでいる。

 学校を休む。休んだから何だというのだろう?ただ孤独で小汚い部屋で過ごす時間が増えるだけのことだ。快が増えるか?不快が増えるか?…大差などない。二つ並んだ物事も、よくよくみてみれば、大差などないものがほとんどだ。

 ああ、私の考えはどこまでも馬鹿らしい。

「なあお前、早く私を殺してくれないか。」

 鏡越しの気障な独り言が、煙草の煙に紛れて消えていく。灰が床に落ちた。

 いつも通る道を、いつもと同じ手段で歩く。行き着く場所は、いつも同じ場所。


 中庭はいつもと何ら変わらず、私を夕暮れ時の肌寒さを携えた風で歓迎する。意味もなく、中空に煙草を吹かす。

 秀一のことを考える。彼に、私は何を求めているのだろう?私のような孤独好きの変人が、彼という異性に何を求めているというのだろう?

 冷め切った思考の果てに、陥るのは絶望か。それともただの気まぐれに酔わされた、煙草の煙に捲かれるようなふわりとした虚しさか。私の思考は、答えを引きずり出せずにいる。

 「煙草を吸うってのは、つまり、消極的な自殺みたいなもんさ。死にたくなったら人は、意味も無く煙草を吹かし始めるんだよ。」

 いつか、兄が言っていた言葉を呟く。

 きっとその通りだ。私は貴方が「積極的」に死んでから、煙草を吸いはじめたのだから…。

 秀一とはもう、数日も会っていない。同じ学内にいるはずだというのに、不思議なものだ。どこにも、まるで最初からそんな人はいなかったかのように、すれ違うことはおろか視界に入ることもない。最後に見たのは、図書館に向かっていく後ろ姿だ。

 会えれば、何か変わるのだろうか。もう一度ぎこちなく、どうでもいい会話をできれば、何かわかるのだろうか…。

 一本目の煙草が燃え尽きる。次の一本に、また火をつける。愛おしい煙が、淡い兄の記憶と共に宙を舞う。

 私が死にたがるのも、孤独に縋り付こうとするのも、血筋なのかもしれない。兄がそうであったように、私の結末も、あるいは。

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