第10話 ほんとうの同居が始まった2003年

結婚、引っ越し、義父の看病、義父の死、何がなんだか訳も分からずひたすら家に尽くした2002年が終わり、2003年がやってきた。


お正月ともなれば、義妹たち2家族がやってくる。当時はまだ子供がいなかったので、家に集まるのは大人だけ。そして、義妹は二人とも妊婦である。大人7人分のなにもかもをお義母さんと私がやらなければならない。そして、この家の人たちの人使いの荒さはハンパない。言われるがままに動くしかなく、料理の数も量も食器の量もここはどこかの料亭だろうかと思えるほどなのだ。

こういう時「長男の嫁」が大変だということに気づかされる。2家族は泊まっていくので、帰るまでボロ雑巾のように使われる。盆と正月の2回くらいのことなら、なんとかその時だけ我慢すればすむ話だが、2家族集まるのは月1度は必ずで、近くに住む義妹家族は最低週に1度、夜ご飯を食べに来る。


お義母さんからすれば、一番大切なお客さまなのだから仕方ない。


洗濯物を干しながら「何が悲しくて義妹の亭主のパンツを干さなきゃならないのか」と思う。亭主の洗濯くらい自分でしろっつうの。とは、気の小さい私にはとても言えません。


2003年が始まって、自分が何者なのかますます分からなくなってきた。お義父さんの看病から始まり、この家の人たちに尽くしに尽くした結果、自分のことは何も考えられず、お義母さんに言われるがまま行動するだけ、気持ちをどこかに起き忘れてきたような、これを「燃え尽き症候群」と言うのだろか。


お義父さんが亡くなったあと、多くの親戚、仕事関係の人、お義母さんの姉妹、お義母さんの友達、ゆっくりする間もないほど客がやってくる。お義母さんと夫に恥ずかしい思いをさせないよう、私は客が来るたびに挨拶をし、その場に黙ってにこにこと笑顔でいる。いい嫁をひたすら演じるのである。お義母さんは夫を産んだ人なのだから、何があっても大切にしなくてはならないと私の中の正義感が目を覚ます。結婚前に夫と約束した通り、お義母さんに淋しい思いをさせないよう心がけていた。


このお義母さんは本当にわがままで人の気持ちを考えることができず、おそらく人を嫌な気分にさせる世界ナンバーワンの人なのではないかと思う。同居していると驚かされることが次から次に起こる。


買い物にはほぼ同行していた。スーパーで食材を選びながら、青果コーナーでお兄さんに声をかける。「ちょっと、そこのあなた。このメロンどうせ美味しくないんでしょ」と言った。お義母さん、そういう聞き方はないでしょう。案の定、お兄さんは怒りだして「うちはまずいもんなんか置かないぞ」と言葉を返す。「なんなの、あなた」と、お義母さんはその場を離れる。

「お義母さん、だめですよ。あんな聞き方したら怒るの当たり前ですよ。そのメロン甘いの?とか、もっと違う聞き方したほうがいいですよ」私がそう言うと、「言いたいこと言って何が悪いのよ。怒る方がバカなのよ」と答える。「なんなの、あなた」はお義母さん、あなたの方だと思いますけど。


ある時、夫の従兄弟(お義母さんのお姉さんの子供)がやってきた。その前に、このお義母さんは異常な甘党で甘いお菓子には目がなく、ブランドや味にとてもうるさいと言うことを頭に入れておかなければならない。何と言ってもチョコレートケーキに砂糖をどっさりかけて食べている姿を見て、うっと気持ち悪くなったほどだ。そんなお義母さんに、従兄弟はかなりお高そうな洋菓子を手土産に持ってきた。それを見るなり「私、それ嫌いなのよね」と言った。従兄弟は怒ることもなく、いつものことのように聞き流す。そのやり取りは恐ろしいとしか私には思えない。

今、嫌いと言ったはずのお義母さん、そんなことはお構いなしに包装を開けて結局は食べるのである。


何もかもがこんな調子で、当の本人は悪気なし。人が傷つこうが全く気にすることなく口の悪さはいつでも全開なのである。

いや、これだけ好きに言えれば「幸せな性格」と言いたいくらいだ。


同居は始まったばかり、大丈夫?ワタシ・・・

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