第5話 2001年もしかしてこれは恋かも。

六本木の2次会から1週間、ほとんど毎日のように居酒屋の店長さんと会っていた。付き合うとかそういう会話はひと言もないけど、その言葉を聞くまでもなかった。1週間後、車で仕事場に来ていた彼は親友だという友のところへ私を連れていった。すでに今日が終わろうとしている時間だった。ただ、私を紹介して数分の世間話をしただけ、すぐに家まで送り届けてくれて帰っていった。


本気なんだねきっと、その時はとても誠実な人だなという印象を受けた。それからは、仕事が早く終わった日は彼のいる居酒屋でご飯を食べて帰り、夜中に帰宅途中の彼から電話がくるという毎日を送っていた。これ、普通に恋人同士ってことなんだろなと私の恋は順調にスタートしたのだ。


7月末には彼の実家へ行き両親に紹介さた。8月には、実家通いだった彼も週に半分は一緒に生活したいと言って、代々木上原の洋館から品川の古びた二階建ての一軒家へと引っ越し半同棲生活が始まった。


彼はどんどん事を進め、私はそれに対して止まって考える暇もなく、ぐいぐい引っ張っていってくれる彼に頼もしさすら感じていた。というより私は恋愛ボケだったのかもしれないが、いや間違いないそれは恋愛ボケ以外の何ものでもない。




私は私で、大事な仲間に彼を紹介した。忙しくてなかなか会えなかったヨッちゃんに彼を紹介できたのは秋も深まった頃だった。


久しぶりに会うし、品川の家でご飯一緒に食べようということで得意ではないけど嫌いじゃない料理、その頃ハマっていたイタリアンを気合い入れて作って待っていた。ヨッちゃんは料理うまいし、ツッコミのあの口がなんて言うか「まぁまぁ、食べられるよ」とか「見た目は美味しそうじゃん」とか「匂いだけはイタリアンだね」そんな感想を言うだろなと想像しながら盛り付けも頑張ってしまう。そして、仕事が長引いたと言って約束の時間よりも1時間ほど遅れてヨッちゃんがやってきた。


彼を紹介するって照れるもんだ、何か緊張してしまう。ヨッちゃんには彼を、彼にはヨッちゃんを紹介して、さぁご飯食べようとパスタを皿に盛り始めたところで「りえ、悪い。このあとすぐに仕事で呼び出されてるからさ、今日はもう帰るわ。ホント悪いね」そう言って、食べずにそそくさと帰っていった。その時の私は、急な仕事入ったならそう言ってくれれば良かったのに、これじゃ会わせる意味ないじゃん。それでも時間がない中、わざわざ会いに来てくれたから仕方ないか、ヨッちゃんのことをそう思っていた。




後日、ヨッちゃんから電話がきた。


「りえ、あの人はやめた方がいい。絶対に幸せになれない、私は会って3分で人の本質がわかる。もし結婚するとなっても祝ってあげないから。結婚して、5年続いたら認めてやる」そう言った。


彼はそんな人じゃないよ、ちゃんと会ってもっと話をしてくれたらきっとわかってもらえるのに、ヨッちゃんからの言葉はショックで悲しかった。




その後も彼との関係は順調で、ヨッちゃんの言葉を忘れるほど私は幸せだった。




12月に入って、私は溜まっていたマイルを利用して北海道へ一人旅をした。今年の年越しは久しぶりに日本で彼と過ごすつもりだったので、ロンドンと少し似ている景色の札幌と小樽を旅してロンドンへ行ったつもりになろうと思った。


2001年の12月初旬の札幌は、16年ぶりの大寒波で例年にない大雪にみまわれた。金土日の2泊3日のつもりで会社は1日だけ休暇をとったはずが、帰りの飛行機は午後5時頃、小樽に寄ってから空港に向かう予定だったのを、雪が心配だったので正午には札幌を出て空港へ向かった。空港に着いたら人でごった返していた、もしやとカウンターに行ってみたら飛行機は全便欠航となっていた。


今日は帰れない、彼には「帰りが明日になる」上司には「もう1日休暇をください」と電話をした。翌日、朝から飛行機は欠航で臨時便の整理券をもらいレストランで飛行機が飛ぶのをひたすら待ったが、雪はひどくなる一方で結局その日も帰れなかった。


会社に電話をかけると上司には呆れられ、彼に伝えると怒られ「飛行機がだめなら船で帰って来い」と言う。飛行機が飛ばないのに、船だって動くわけないでしょ、船に乗るとしても今からどう手配して乗ればいいというのさ。


散々な二日間が過ぎ、その翌日も朝から欠航が続いていた。午後から臨時便が飛び始め羽田に着いたのは午後8時、会社に連絡をするとその足で来るよう言われたので大きな荷物を抱えたまま向かった。そんな殺生な。


大雪のせいであって私は悪いことしてないのに切ないわ。当時は、とんでもない旅になってしまったと思ったけど、今、振り返るといい思い出でクスっと笑える旅だった。


やっぱり、旅のハプニングは好きかも・・・。

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