第3話 反省ばかりの2000年

2000年はいつもと変わらず、よく働き、よく遊んで、よく飲んだ。この頃、代々木上原の駅から10分ほど歩いたところにある洋館の1階部分に住んでいた。お洒落な暮らしは誰でも憧れるもの、都内で一人暮らしを始めた頃は6畳ワンルームで生活をするというよりも寝に帰るだけの家だった。幾度となく引っ越しながら少しずつ広く、お洒落なインテリアで部屋をレイアウトして食器にもこだわって人を招いての家飲みをする機会も増えていった。


移動はもっぱら「モペット」自転車のペダルがついたお洒落な原チャリで、私が乗っていたのはいちお外車で赤いTOMOS、通勤も遊びもこれのおかげで時間も気にせず行動範囲も広がった。


2000年は家族のような仲間との時間を大切にしていた。私ともうひとり同じ年生まれのヨッちゃん、4つ年下のさよ、5つ年下のなおとみえ、年齢不詳のちえちゃん、それぞれ仕事は違っているから全員の休みを合わせるのはなかなか難しい。個々では「今日どう?」三宿のZESTで12時に待ち合わせたりした(12時って夜中の12時のこと)。ZESTに集まったヨッちゃんとさよ、そして私の三人はよく話をした、どっぷり女の話も多く「濃いねぇ」と私の口から漏れると「あんたは淡白すぎ、そもそも、あんたがエッチする姿をどんだけ頭振り回して考えても想像できんわ」ってな始末。あたしゃ、男か?男でもエッチはする、じゃ中性か?本当はどきどきして変になりそうなくらい恋がしたいのに、目の前の二人は私のそんな言葉を聞いて大口開けて笑っておる。気づけばもうすぐ閉店の時間、三宿のZESTの店内は熱く人の騒ぐ声が響いてとても閉店間際とは思えない、時計を見ると朝の5時が近かった。なんでこんなに女たちの話はつきることがないのだろか?女三人かしましいとは良く言ったもんだ。


当時の好きだったブランドは、CABANE de ZUCCa、45rpm、ツモリチサト、HYSTERIC GLAMOURなど、髪型は一見アフロに見える肩くらいのスパイラルヘア、こんな風貌で会社勤めをしていたとは上司の方や同僚に感謝ですわね。好きな服は着たい時に着ないと、一生着ることができないという持論で周りの目なんて一切気にしていなかった。あとから母に「あの頃は言えなかったけど、実家に帰った時くらい髪の毛を縛ったりして気を使って欲しかったわ、近所の目が恥ずかしかった」と言われて親に恥ずかしい思いをさせていたとはつゆ知らず、気遣いができなかったことに少し反省。思えば、こんな見た目で色っぽさなんてありゃしない、恋をしたいなんて一体どの口が申すのでありましょうか。これまた反省。


仲間のひとり「ヨッちゃん」は同じ年生まれ。と言いながら、早生まれのヨッちゃんに「学年は私がひとつ下だからねぇ」なんて何を対抗意識燃やしてるんだか、この同じ歳の仲間だから弱音を吐きだし夢を本気で話すことができた。2000年は下北沢の焼きとりやに良く行った。


あの頃、ヨッちゃんは文章を書きたいと言って見せてくれた。いつもの豪快な態度とはうらはらに繊細な文章だったのを思い出す。歌も喋りもうまくて、おまけに美人でスタイル抜群のヨッちゃん、なのにいつも人を笑わせることばかりしている。


二人になると、真剣に仕事の話をしてこれからどうなりたいのか確認しあったり、弱気になると本気で背中を押してくれたり、良いも悪いも曖昧にすることなく本音でぶつかって、できるだけ帰る時には勇気でいっぱいになるようとことん話をしていた。


私にとっては生きることのバロメーター、ヨッちゃんはこう言ってたから思い切ってやってみよう、いつもそう励まされてばかりいたような気がする。いい思い出しかないけど、「あんたがエッチする姿をどんだけ頭振り回して考えても想像できんわ」と言ったのは紛れもなくヨッちゃんお前だ、こいつめ。


2000年の夏は仲間みんなでバーベキューをやるはずだった。朝早く、窓の外をコツコツ叩く音が聞こえる。頭を起こすと割れるように痛い、うっ、なんだか吐き気もする、やっとの思いで窓の外を見ると車で迎えに着てくれたなおとみえが立っておる。げげげ、忘れてたというか一体ここはどこ?記憶が蘇ってこない。昨夜は何をしていたのか考える、そうだ昨日は麻布十番祭りがあって会社で出店した店番やりながらビールとワインを呑み放題、途中ちえちゃんがやってきて、そこから祭りに繰り出して行った。


祭りが終わり、帰ろうと駅に向かうもちえちゃんと二人つかまり合いながら真っ直ぐ歩くこともできない。タクシー拾って私の家に帰ることにした。タクシーの中でちえちゃんが「やばい、吐きそう」と言ったら運転手はすっと路肩に車を止めてドアを開けてくれる。


まさか、降りろということか?いや、違ったみたいだ。ちえちゃんが降りて、なにやら茂みでゴソゴソ、あとは言えない。


そこからどうなったかは思い出すこともできず、気づいたらベッドの上に寝ていて、となりの部屋のソファにちえちゃんが寝ていた。これが30過ぎた女二人の情けない姿、どうしようもないな私たち。そして、迎えに着てくれた仲間に「今日は行けない、ごめん」と言って私はベッドに戻っていった。仲間全員が揃ってバーベキューなんて時間をなかなか作れないのに、2000年の仲間との思い出をひとつ私はすっぽかしてしまった。


後悔先に立たず、全くその通りだ。

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