100話-3、祭りは一緒に

「まるで瞬間移動したみたいに、三人共消えちまったな」


「私は見慣れてたから、あまり驚かなかったけど。かえでもやったのは初めて見たな。……さてとだ」


 ぬらりひょん達の移動方法を見て、驚いたぬえとは相反し。

 ぬらりひょんの右腕として、常に寄り添っていたクロは、落ち着いた様子で腕を組み。這い寄る脅威に縁の無い、平和に満ちた温泉街へ顔を移した。


「私達は、大嶽丸おおたけまるを警戒する必要は無い。けど、念の為、別の何かが来てもいいように備えておこう」


「だな。んじゃ、とりあえず行くか?」


「ああ。早く花梨達と合流して、美味いもんをたらふく食おうぜ」


 ここ毎月、満月の日になると想定外の出来事が必ず起こっており。

 大嶽丸襲来以外の不特定要素を考慮しつつ、かつ花梨達に悟られる事なく、『八咫烏の日』を楽しもうと決めた二人は、花梨達が向かった方角へ足を運び出す。

 永秋えいしゅうの前にある丁字路を、正面に進み。楓が不在になった中でも、安定して宙に浮いている『空中やぐら』を、二基通り過ぎた頃。

 『着物レンタルろくろ』の近くで、携帯電話を耳に当て、誰かと会話をしている花梨を、クロが先に発見した。


「おっ、居た。電話してるみたいだけど、ちょうど終わったみたいだな」


「なら、声掛けちまうか。おーい、秋風ー」


 携帯電話をポケットに入れている最中。鵺の緩い呼び声が、花梨の耳に届いたようで。

 クロ達に顔を合わせると、花梨の表情がぱぁっと明るくなり、大きく手を振り返してきた。


「鵺さーん! クロさーん! さっき振りですねー!」


「ははっ、声でっか。よし。どうせ、ぬらさん達について聞かれるんだ。話は適当に流すぞ」


「了解」


 口裏合わせを済ませると、クロも小さく手を振り返しながら、三姉妹が居る場所まで歩んでいく。


「やあ、皆。楽しんでるか?」


「これからいっぱい楽しみます! それよりも、茨園いばらぞのさん達が居ませんけど、どうしたんですか?」


「ぬらさんの急用とやらに興味を持って、楓も一緒に付いて行っちまったんだ。まっ、昼ぐらいには戻るらしいから、私達だけお前の後を追い掛けて来たってワケよ」


「あっ、そうなんですね」


 理由の深掘りをさせまいと、適度に内容を伝えた鵺が、「んで」と話題を切り替えた。


「秋風、誰と電話してたんだ?」


「えと、酒羅凶しゅらきさんです」


「酒羅凶だあ? 珍しい相手だな。何を話してたんだ?」


 ぬらりひょん絡みの話題から遠ざけようと、振った話であるが、まさかの人物に好奇心が生まれた鵺が、更に質問を重ねる。


「えっとですね。夜になったら、花火大会が始まるじゃないですか。それで、酒羅凶さんと昨日約束をしてて、花火が見れる特等席を用意してもらったんですよ」


「へぇ〜、そんな席があんのか」


「酒を飲みながら花火を見れるから、人気があって予約もすぐ埋まるんだよ」


 『八咫烏の日』初参加の鵺へ、何回か参加した事のあるクロが補足を挟む。


「だろうな。ええ〜、いいな〜。キンッキンに冷えたビールや、ツマミを食いながら花火が見れるんだろ? 最高のシチュエーションじゃねえか」


「それでですね。酒羅凶さんに、皆さんの席も用意してくれないかと交渉した所。なんと、全員分確保してくれるようになりました!」


「マジで!? よっしゃー! やるじゃねえか、秋風〜! 流石、私の元部下だぜ!」


 花梨が電話をしていた内容まで明かすと、鵺は途端に素で大喜びし。花梨の肩に手を回し、空いた手で頭をわしゃわしゃと撫で回した。


「全員分って事は、私はぬらりひょん様達の席もあるのか?」


「はい! なので、今日は皆さんで、一緒に花火を見ましょう!」


 念の為にと、クロが問い掛けてみると、髪の毛がくしゃくしゃになった花梨が気持ち良く返し、楽しみが滲み出た笑顔を浮かべる。

 そんな無垢な笑顔に、永秋の屋根まで飛び、そこから皆で花火を眺めるか。

 はたまた、花梨達を天狗に変化へんげさせ、花火が咲く場所よりも天高くまで行き、見下げる形で見るかなどなど。

 自分なりに特等席を模索していたクロは、やっぱり、地上で見るのも悪くないな。と思案し、ほくそ笑んだ。


「そうだな、そうしょう。ありがとよ、花梨。私達の席も確保してくれて」


「花火って初めて見るけど、みんな居た方が絶対に楽しくなるはずよっ」


「間違いない。もう楽しみ」


 『八咫烏の日』初参加のゴーニャを筆頭に、真顔ながらも、一度参加した事のある纏も続き。

 ゴーニャと同じく、本日初参加の鵺も「間違いねえ」と同調し、口角をニッと上げた。


「夜が待ち遠しくなったけど、まずは前哨戦だ。お前ら、胃のコンデションは整ってんだろうな?」


「当たり前じゃないですか! 出店の百件や二百件、ドーンと来いです!」


「私もっ! 夜まで食べ続けるわっ!」


「無限に食べられる」


 仕切り側への回った鵺の確認に、三姉妹は期待以上に応え。ほぼ無意識に腹の虫を鳴らし、その音に気付いたクロが、顔を思わずハッとさせた。


「……なるほど。本当に、すぐ腹がへってくるな」


 花梨に接触してから、ものの数分。異様ともいえる食欲の増加に、クロは昨日、茨園から聞いた花梨の正体を思い出し。

 不意に鵺へ横目を流すと、鵺も横目の真意に勘付いたらしく、無言のままうなずいた。


「鵺。食べ物もいいけど射的やヨーヨー釣りもやりたい」


「射的だぁ? おいおい、面白えじゃねえか。やるからには、景品無くなるまで撃ちまくるぞ」


「おーけーボス」


 本当にやりかねない鵺の企みに、乗り気な纏が親指をグッと立てる。


「花梨っ。私も、色々やってみたいわっ!」


「だねぇ。私も大きいスーパーボールとか釣って、記念に部屋に飾りたいなぁ」


「いいな、それ。私もなんか取ってみようかな」


 互いに意見を出し合ってくると、食欲だけてはなく、祭り全般を楽しみたいという欲が芽生え、クロの気持ちもどんどん昂っていく。


「よーし! お前ら、夜まで時間がねえ。とりあえず行きたい店を片っ端に回ってくぞ!」


「おーっ!」


 今日という日を一秒も無駄にはしたくないと、先導した鵺が全員に言い聞かせ、その言葉に賛同した姉妹達が、気合いの入った拳を高々と掲げる。

 そして、まず先鋒として花梨がたこ焼きを食べたいと申し出て、近くにあるたこ焼きの出店に向かっていった。





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次回の投稿は8/2になります。

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