97話-6、二つ目のサプライズイベント
「へぶしっ! ああ、チクショウ。やっぱ強えな、西の無敗は」
「うお、もう戻って来た」
デモンストレーション戦が終了し、西の無敗、花梨コールが収まってきた所を見計らい、
仙術を駆使して川から急いで帰って来た、全身ずぶ濡れ状態の
帰還した対戦者に気付いた観客達が、「良い勝負だったぞー!」や「今度は、本気を出して再戦してくれー!」という励ましの言葉を、腕を組んだ銀雲に飛ばしていく。
「銀雲さん! 対戦、ありがとうございました! またいつか、相撲を取りましょうね!」
「おう! こちらこそ、俺のワガママに付き合ってくれて感謝するぜ! 次の機会があれば、いつでも声を掛けてくれ!」
再戦を匂わす二人のやり取りに、観客席から今すぐにでもと願うアンコールが沸き上がり始め。
その熱い期待に応えたいと、銀雲の心が徐々に武者震いし出すも、欲までは表に出さず、浅く深呼吸をして黙らせた。
「俺もそうしたいのは、山々だけどよ。独り占めするのも、何かと悪いだろ? けど俺は、これから一般参加枠に入るぜ! だから
「はいっス! あたしも花梨さん同様、手は一切抜かないっスよ!」
「ワシも、銀雲様との相撲を楽しみしてるで!」
再戦は叶えられないが、次なる標的に相撲を挑むと高らかに宣言した銀雲が、見上げていた二人にガッツポーズを送り。
再び仙狐の相撲が見れると、興奮した観客にも闘志が漲り。いつでも『河童の日』が始まってもいいように、花梨達が居る土俵に並び始めていった。
「それでは以上をもちまして、デモンストレーション戦を終了致します。次は皆さん、大変長らくお待たせしました! 一般参加枠解放の、第一部に移ります!」
名だたる強豪達と戦える時がようやく来て、待ち切れない様子でいた血の気が多い屈強者が、揃って歓喜の野太い叫び声を上げていく。
「時間の都合上、流蔵、酒天、花梨との対戦は、一人二回までとさせて頂きますので、ご理解と御協力の方よろしくお願い致します。では皆さん、今日は『河童の日』を共に楽しんでいきましょう! これより第一部を始めます! 各自、女天狗の指示に従って土俵へ上がって下さい!」
第一部の開始と共に、色の無い花火が数発打ち上がり、飛び交う歓声に負けじと、会場内に響き渡る。
その間に、栄えある一人目が各土俵に上がり、花梨達に対峙してから四股を踏み、待ったなしの立会いをして、各々の相撲を楽しんでいき。
途中、宣言した通りに銀雲が、酒天、流蔵に相撲を挑み。酒天戦では、一本背負いで川までぶん投げられ。
流蔵戦では、長い取っ組み合いの後。綺麗に投げられて土俵に沈み、熱い握手を交わした。
そんな負け続きの銀雲は、まだ一回ずつ挑戦権を残しているものの。限りある時間を、ここへ来てくれた人達に譲り。
観客席で観戦に徹しようとし、移動したも束の間。鵺から特等席を用意したと、金雨の横まで案内され。急遽、特別解説役になった。
「確かに、一番の特等席だな。解説まで出来るなんて、最高じゃねえか!」
「ですよね。実は、僕も大変気に入っています」
「お気に召してくれたようで、何よりです。それでは銀雲様、改めてよろしくお願い致します」
「おう! 決まり手は全部覚えてるから、そこら辺の説明は任せてくれ!」
解説役に抜擢されて、本調子の熱意を取り戻した銀雲が、頼り甲斐のある笑みを見せ。まずは挨拶変わりにと、各主役達が繰り出す決まり手を、分かりやすく解説していき。
時には、白熱した相撲を見せる土俵に、持ち前の声量で注目を集め。相撲が終わると、一連の流れを丁寧に振り返り、感想を付けて大いに褒めていく。
いざ始めてみると、実況、解説共に鵺よりも遥かに上手く。金雨、鵺からのお墨付きで実況役に昇格してしまってから、約一時間後。
時刻にして、十一時二十分頃。この時間帯になると、腹が減っては戦が出来ぬ輩が多くなってきて、土俵に上がる対戦者の数が疎らになり。
特に、酒天の土俵へ上がろうとする者は居らず。不思議に思った銀雲が、千里眼を駆使して覗いてみると、複数の女天狗が土俵の前に立ち、制限をかけていた。
酒天に何かあったのかと不穏になり、当本人に焦点を当てるも、元気よくストレッチをしていて、故障している様子は見受けられなかった。
「なあ、鵺さんよ。なんで酒天の土俵だけ、対戦者を上がらせないようにしてるんだ?」
「流石は銀雲様です。よく見逃さず触れてくれましたね」
「見逃さず? あんた、何を言って……」
訳が分からず、一度は聞き返そうとした銀雲であるが。何かを察したようで、疼き出した表情が徐々にニヤけていく。
「おいおい。あんた、またやってくれたな? 今度は、どんな隠し玉を見せてくれるんだ?」
「今から始めますので、そう慌てないで下さい。では行きます」
同じく不敵な笑みを返した鵺が、テーブルに置いていたマイクのスイッチを入れ。会場の注目を実況席に集めるよう、わざと大きめのハウリング音を鳴らした。
「皆さん、時刻は十一時二十分になりました。残り四十分で第一部が終了し、昼休憩に移行します。だけどよお? 何も起こらねえまま終わるのも、なんかつまらねえだろ? もう一回ぐらい、血を騒がせたくねえか?」
思わせ振りな鵺の発言に、闘志を沈めて気を抜かせていた強者共が、何か始まると察し始め。再び闘志を点火させては、実況席にその熱をぶつけていく。
ほんの一部が点火すれば、瞬く間に伝染していき。十秒も経つと、会場内はかつての活気を取り戻していった。
「やっぱり、そうだよな? ならば、お前達の夢を叶えてやるぜ! そう! これから始まるのは、二つ目のサプライズイベントだ! 全員、酒天の土俵に刮目せよ!」
「な、なんやなんや? また知らんもんが始まったで?」
「酒天さんの土俵? あれ? 土俵の前に、
ちょうど相撲を終えた花梨や流蔵も、タオルで汗を拭きつつ、細目を酒天の居る土俵へ向けてみる。
すると、土俵の前には、静かに仁王立ちをしている酒呑童子の酒羅凶が居り。同じく、土俵の上で腕を組み、悠々と立つ酒天を睨みつけていた。
「そいつは古より三大悪妖怪として謳われ、我々からも恐れられていた。その凶腕は、山脈を断ち。その凶脚は、大陸を割る。そして今! その凶腕は、舌を唸らす料理を提供し。その凶脚は、連夜手下共に制裁を下し、客を大いに盛り上げていく! 古往今来を貫き通す大暴君! 『居酒屋浴び呑み』店長、酒羅凶!!」
唐突で大袈裟ながらも、言い返す事の出来ない酒羅凶が、呆れた眼差しを一旦鵺に合わせ、鼻でため息をついて肩を落とす。
「酒羅凶って、酒呑童子の酒羅凶じゃねえか! 酒天の土俵に上がってるけど、まさか……」
「そう、そのまさかだぜ! 二つ目のサプライズイベントは、酒天対酒羅凶の師弟対決だぁーーーッ!!」
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次回の投稿は10/27になります。
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