96話-3、経験者の知恵
餅つきの受付を済ませた後。皆にベタ褒めされて赤くなっていた
餅をつく役と、餅をひっくり返す手水役に分かれる為、グーチョキパーを何度か繰り返し行った結果。
花梨とクロ、ゴーニャとぬらりひょん、
「餅をつくのは、何年振りだろうなぁ〜。クロさん、よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく。私はつき方を知らないから、まずはお前が餅をついてくれ。それを見て学んで、私も挑戦してみるよ」
「分かりました! 分からない事がありましたら、どんどん言って下さいね」
神社で働いた事のある花梨がクロを先導し、餅のひっくり返し方なら、なんとなく分かっているクロが、手を水で濡らしていく。
「ゴーニャは、これが初めての餅つきだろう? 餅をつく方とひっくり返す方、どっちをやってみたい?」
「えと、つく方をやってみたいわっ!」
「つく方だな、分かった。なら、ワシが手取り足取り教えてやろう」
「ありがとうございますっ! よろしくお願いしますっ!」
まずは、背の小さいゴーニャが先に餅をつくと聞き。その話を目で追っていた専属の妖狐が、ゴーニャの背丈にあった杵を、変化術で調整しながらこさえていった。
「お前は、餅つきは何回か体験した事があんだろ? 焼き芋入りの餅って、食った事あんのか?」
「おしるこばかり食べてたから無い。けど美味しいらしいよ」
「おしるこかあ。そういや、最近全然食ってねえな。ちなみに、ここのは美味えのか?」
「
「そこまで言われると、ちょっと気になるな。なら、後で食ってみよ」
纏の説明により、食欲がおしるこに移り変わってきた鵺達は、妖狐の指示に従い、熱湯に入れて温めていた杵を臼から取り出し。
臼の中にある熱湯を、コップを使い取り除いていく。その間に、全ての準備を終えた花梨達は、一番乗りで餅米を杵でこね始めていた。
「へぇ〜。いきなりつくんじゃなくて、まずはこねるんだな」
「はい。こうやって餅米同士をくっつけないと、ついた時に臼から飛び出しちゃうんです」
声にも力がこもっている花梨が、臼を中心に時計回りしつつ、杵の先で餅米をすり潰しながら補足を入れる。
「ああ、なるほど。つくイメージしかなかったから、こねる事なんて想像すらしてなかった。ちなみに、餅米はどれだけ潰せばいいんだ?」
「ほぼ全部くっ付くまでやります!」
「うわ、これをほぼ全部か。相当大変だな、こりゃ」
「その通りです。しかも、餅米が冷める前にテキパキ素早くやらないといけないので、かなりの重労働です!」
「秋風さん、お上手ですね。その調子です」
普通であれば専属の妖狐が、一つ一つ丁寧に説明をしていくものの。
餅つきの経験者である花梨に、全工程の流れと注意部分まで完璧に言われてしまい、合いの手を入れて見守る事に徹する妖狐。
ゴーニャとぬらりひょんペアは、つく側に回ったゴーニャが早々に力尽き、ぬらりひょんと共同で餅米をこね。
纏と鵺ペアは、餅つき初体験の鵺が、餅つきに対して楽しさを覚え、餅米をこね始めてから三十秒後にはコツを掴み、纏と専属の妖狐に褒められていった。
「よーし! こねるのは、これぐらいでいいかな」
「おおー。まだゴツゴツしてるけど、全体的に纏まってきたな」
「そうですね。お見事な状態です」
餅米をこね始めてから、約二分後。疲れをまったく見せていない花梨の判断で、こねの作業は終わり。
最終判断を下すべく、専属の妖狐も餅米の状態を確認してみると、つきの工程へ入るには文句無しの纏まりになっており、ニコリと笑う花梨へ拍手を送った。
「ありがとうございます! さてさて、つきますよー!」
「よし来た。え〜っと、餅をたたむように中心に集めていくんだったな」
「そうです! クロさんが手を引っ込めるまで待ってますので、ゆっくりペースで大丈夫です」
「そうか、ありがとう。なら、いつでも行けるぞ」
両手をぬるま湯で濡らしたクロの準備が整うと、花梨は杵の先端をお湯で湿らせて、臼の前で片膝立ちをしているクロの対面に立った。
「秋風さん。つき方はご存知でしょうか?」
「一応参考として、私も聞いておきたいな」
たぶん、ここが最後の出番になるであろう妖狐が、念の為にと問い掛ける。
「はい! つく時は力をあまり入れず、振り上げた杵の重さを利用した、自然落下の要領でついてきます!」
「はい、完璧です。ちなみに力を入れ過ぎてつくと、杵の先端が欠けてしまう可能性がありますので、ご注意して下さいね」
「なるほど、分かった」
せめて注意事項だけはと、間髪を入れぬ流れで二人に説明をし、両手の平を合わせた妖狐が「では」と続ける。
「餅つきを開始して下さい」
「分かりました! ではクロさん、行きますよー!」
「よーし、来い!」
「んん〜っ、よいしょー!」
張り切り出したクロの合図に、花梨は振り上げた杵を重力に任せて振り下ろし、纏まった餅米のど真ん中をつき。
杵を元の位置まで上げると、待機していたクロは、隆起した餅米を外から中側に集め、両手を引っ込める。
「こんな感じか?」
「そうですね、合ってます。たまに餅全体を持ち上げて、折り畳んだりして下さい」
「分かった。さあ、どんどん来い!」
要領を掴んだクロがハキハキと催促し、花梨も応えるように餅をつき、二人して手際良くこなしていく。
時には餅の表面だけ濡らし、餅の中心が薄くなってくると、花梨がつきやすいよう餅を折り畳み、互いに休む事無くこなしていった。
「で、花梨。これって、何回ぐらいつくんだ?」
「えっと、大体百から二百回ぐらいですかね。餅米の粒感が無くなって、全体が滑らかな見た目になれば完成です」
「百回から二百回か、結構つくんだな。もう、百回はついたんじゃないか?」
「そうですね。そろそろ、クロさんもついてみます?」
「おっ、いいのか? じゃあ、やらせてくれ」
待望の順番が回ってくると、クロは妖狐に渡されたタオルで両手を拭き、花梨から杵を受けると、立ち位置を交代した。
「杵を持つと、なんだかワクワクしてくるな。花梨、準備はいいか?」
「はい! いつでもどうぞ!」
「よーし、なら行くぞー。そいっ!」
今まで見聞きで学んできた事を活かし、握りしめた杵には力を込めず、自由落下で臼の中心へ落としていくクロ。
どうやら、力加減は合っていたらしく。つかれた餅の周りが程よく隆起していった。
「こんな感じでいいのか?」
「ですね、完璧です。その調子でお願いします!」
「クロさんも、なかなかお上手ですよー」
初めての餅つきに、経験者である花梨と妖狐に褒められたクロは、満更でもないワンパク気味な笑顔を浮かべ、更に餅をついていく。
そして、そのまま数回ついて要領を掴んでいくと、二人は阿吽の呼吸で餅をつき続けていった。
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