63話、語るは大食らいの自由奔放者
どーも、自由気ままにやらせてもらってる
二十四年振りにあやかし温泉街に戻って来たが、情景自体は変わらないものの、中身は色々と変わっちまったなあ。
温泉街の建築に携わっていた奴らは、相変わらずだったが、見慣れない顔が何人か増えてたな。座敷童子、河童、小豆洗いに静か餅。それと付喪神。あとは
座敷童子以外は、温泉街オープンまでに間に合わなかった穴を埋めた感じだな。ひとまず、これで温泉街が本当に完成したと言えよう。
しかし、久々にここに訪れた時に大きな違和感を覚えた。それは、人間が人っ子一人居ない事だ。どこを見渡しても妖怪しか居ねえ。
その違和感を振り払ってくれたのが、ぬらさんから告げられた衝撃的な内容よ。
最初は信じられなかった。信じたくもなかったさ。唐突に死んだと聞かされた時は、私をからかった悪い冗談だと思い、逆上してぬらさんを殺そうとまでした。
だが、ぬらさんの真剣な表情を見て、冗談ではないと悟ってな。全身の力が一気に抜けちまったよ。そして、全てを聞かされたのさ。私が温泉街を去った後の事をな。
プレオープン前日の夜に、鷹瑛と紅葉が
その秋風を四年ほど捜索していた事。最後に、やっとの思いで秋風と再会できて、この温泉街に連れて来た事などなど。
まあ、四年の捜索は私が悪いんだがな。何も知らなかった私が、刺激を求めていた秋風の願いを叶えるべく、世界のあらゆる場所に飛ばしていたんだからな。
そうそう、その秋風よ。ぬらさんのお陰で、私が長年感じていたモヤモヤを全て吹き飛ばしてくれたんだった。
そのモヤモヤの原因は、私が設立した派遣会社で働いていた時の事だ。設立してから十八年目ぐらいの時、気まぐれで求人広告を出したのさ。
『数多の仕事を取り扱う派遣会社。あなたが求めている仕事はここにある!』みたいな、すっげー胡散臭い求人広告をよ。
それで、その胡散臭い求人広告に釣られたのか、秋風がこの会社に来たってワケ。もちろん、最初は私も驚いた。
履歴書を読んでみると、名前の欄に『秋風 花梨』と書いてあってな。その懐かしい名前を目にした瞬間に「はあっ!?」て、声を上げた。
そりゃそうだろ。最初は何かのドッキリか、鷹瑛と紅葉、もしくはぬらさんがこの会社を嗅ぎつけ、イタズラで秋風を寄こしたとばっかり思ってたからな。
だが当本人である秋風は、私の事を見ても何も知らない顔をしていて、おかしいと思っていくつか質問をしてみたが、やはり私の事を一切知らないでいた。
なぜ秋風は私の事を知らないのか。色々と余計な思考を張り巡らせちまったよ。
三人はなぜ、一切私の事を教えず、秋風をこの会社に寄こしたのか。理由はなんだ? やりたい仕事が見つからなかったから、仕方なくここに寄こしたのか?
なら、あやかし温泉街で働かせればよかったじゃねえか。鷹瑛と紅葉も居るんだし、家族全員でやりゃよかったのに。ってな。今思えば、ここでぬらさんに声を掛けときゃよかった。
全ての経緯を知った結果。これに関してはぬらさんも想定外。本当にたまたまだったワケよ。しかし偶然の重なりって怖えなあ。
おっと、話がだいぶ逸れちまった。元に戻すぞ。そもそも『あやかし温泉街、秋国』は、人間と妖怪が同時に入れる予定だったんだ。
ぬらさんとクロが妖怪の相手をし、鷹瑛と紅葉が人間の相手をするハズだった。だが、二人が殺されちまった事により、その話が無くなったんだとよ。
鷹瑛と紅葉の夢や想いが沢山詰まっていて、やっとの思いで叶ったっていうのに……。ほんと、心底ムカつく話だぜ。
当然、二人を殺した奴は、私が絶対に殺してやると胸に誓った。が、しばらくしてから、ぬらさんに絶対に殺すなと止められた。
なんでも、鷹瑛が死ぬ間際に『俺達を殺したヤツを殺さないでくれ。そいつを殺したら、優しいあんたらまでも、そいつと同じになっちまうからな』って、ぬらさんに言い残したらしい。
その言葉を言われる前は、ぬらさんもそいつを必ず見つけ出し、殺すと言っていた。だけど、先に鷹瑛に釘を刺されたから我慢したんだとよ。
私は未だに納得してないがな。しかし、そいつを殺したら鷹瑛とぬらさんの想いを踏み躙る事になるから、なんとか我慢してる。
そういや、我慢と言えば。最近満月が出た夜、秋風達が鬼に襲われたんだったよな。流石にその時は我慢しなかったぞ。
事の発端を知った後。まず初めに、秋風達を襲った
次に、その業者を大人の解決法で解体。簡単に言えば、怒りに身を任せて大暴れよ。そのお陰で半数以上は再起不能。生き残った奴らは、もう二度と日の目を拝ませないよう、必要以上に脅しを加えておいた。
最後に、
つっても、そいつとは腐れ縁でね。
ちなみに残りの二人は、酒呑童子の
直談判の内容はこうだ。「あやかし温泉街、秋国は知ってるな? そこに居る人間の姉妹を、お前が管理してる業者の輩が襲い、殺しかけたらしいじゃねえか。で、その人間の姉妹はぬらりひょんと
ぬらさんだけならまだしも、黒四季の名を聞いた途端、
まあ、無理もねえ。黒四季のヤバさは折り紙付きだ。妖怪の間では、敵に黒四季が居たら死んだと思え。と、言われてるほどだからよ。
あいつの強さはデタラメなんだよ。ただの天狗が、ぬらさんや天狐である
ただ普通に巻き起こした風や竜巻が、都市一つが更地になる程の威力だってのに……。おまけに隠し球も複数持ってやがるんだぜ?
その隠し球は季節にちなんだ名前で、『
桃色の風で、防御は不可能。触れた瞬間に一週間以上は眠りっぱなしさ。気持ち良く眠りに就き、痛みを感じぬままあの世行きってな。いいねえ、理想的な死に方じゃねえか。
その反面、もう一つエグいのがあんだ。『
……また話が逸れ始めたな。その後に「ちなみにその姉妹は、天狐と酒呑童子にも慕われていてな。そいつらの怒りも買ってたぞ」と、トドメを刺しといてやった。
そこで崇徳天皇は顔面蒼白。情けない表情をしながらビクビクしだしてよ。思わず笑いそうになっちまった。
それと、これは余計だったが「それとよ、姉の方は、私の可愛い部下であり、我が子当然のように接していた奴なんだが……。どう落とし前つけるんだ?」と付け加えておいた。もちろん、禍々しい殺気を放ちながらな。
知らぬ間に、ぬらりひょん、黒四季、天狐、酒呑童子、私を敵に回していた崇徳天皇は、もうどうすればいいのか分からず、私に泣きついてきてよ。
そこからはもう簡単だった。何を言っても早かったぜ。どんな条件を突きつけても、崇徳天皇は全て快諾。
そして、己と繋がっている奴ら全員に、死に物狂いで連絡を入れ出した。最終的には私の目の前で、あやかし温泉街に居る人間の姉妹を襲う行為は、禁句扱いにまでなってくれた。
少々行き過ぎた結果になったが。まあ、これでいい。十二分の成果を得れた。これでもう、妖怪達が秋風とゴーニャを襲う事はねえだろ。満月の日以外はな。
まあ、そん時になったら私が守ってやろうと思ってたが……。この前の出来事もあってか、満月の夜は、ぬらさんとクロが付きっきりで秋風達を守る事になっちまってな。
非常に残念であるが、最強の一角である二人が護衛をするんだ。心配する事は何もねえ。
さってとだ、私もそろそろ動くとするか。この前ぬらさんに提案したプロデュースが、やっと始動するしな。
秋風達も招いてやるつもりだが、あいつらは楽しんでくれるだろうかなあ? まあ、その時の流れに任せるとしよう。どう反応するか楽しみだぜ。
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