63話、語るは大食らいの自由奔放者

 どーも、自由気ままにやらせてもらってるぬえだ。


 二十四年振りにあやかし温泉街に戻って来たが、情景自体は変わらないものの、中身は色々と変わっちまったなあ。

 温泉街の建築に携わっていた奴らは、相変わらずだったが、見慣れない顔が何人か増えてたな。座敷童子、河童、小豆洗いに静か餅。それと付喪神。あとはくだんか?

 座敷童子以外は、温泉街オープンまでに間に合わなかった穴を埋めた感じだな。ひとまず、これで温泉街が本当に完成したと言えよう。


 しかし、久々にここに訪れた時に大きな違和感を覚えた。それは、人間が人っ子一人居ない事だ。どこを見渡しても妖怪しか居ねえ。

 その違和感を振り払ってくれたのが、ぬらさんから告げられた衝撃的な内容よ。鷹瑛たかあき紅葉もみじの死、これさ。

 最初は信じられなかった。信じたくもなかったさ。唐突に死んだと聞かされた時は、私をからかった悪い冗談だと思い、逆上してぬらさんを殺そうとまでした。


 だが、ぬらさんの真剣な表情を見て、冗談ではないと悟ってな。全身の力が一気に抜けちまったよ。そして、全てを聞かされたのさ。私が温泉街を去った後の事をな。

 プレオープン前日の夜に、鷹瑛と紅葉が殺された事・・・・・。ぬらさんとクロが、殺された二人に代わり、秋風を十七年間育てた事。

 その秋風を四年ほど捜索していた事。最後に、やっとの思いで秋風と再会できて、この温泉街に連れて来た事などなど。


 まあ、四年の捜索は私が悪いんだがな。何も知らなかった私が、刺激を求めていた秋風の願いを叶えるべく、世界のあらゆる場所に飛ばしていたんだからな。

 そうそう、その秋風よ。ぬらさんのお陰で、私が長年感じていたモヤモヤを全て吹き飛ばしてくれたんだった。


 そのモヤモヤの原因は、私が設立した派遣会社で働いていた時の事だ。設立してから十八年目ぐらいの時、気まぐれで求人広告を出したのさ。

 『数多の仕事を取り扱う派遣会社。あなたが求めている仕事はここにある!』みたいな、すっげー胡散臭い求人広告をよ。

 それで、その胡散臭い求人広告に釣られたのか、秋風がこの会社に来たってワケ。もちろん、最初は私も驚いた。


 履歴書を読んでみると、名前の欄に『秋風 花梨』と書いてあってな。その懐かしい名前を目にした瞬間に「はあっ!?」て、声を上げた。

 そりゃそうだろ。最初は何かのドッキリか、鷹瑛と紅葉、もしくはぬらさんがこの会社を嗅ぎつけ、イタズラで秋風を寄こしたとばっかり思ってたからな。

 だが当本人である秋風は、私の事を見ても何も知らない顔をしていて、おかしいと思っていくつか質問をしてみたが、やはり私の事を一切知らないでいた。


 なぜ秋風は私の事を知らないのか。色々と余計な思考を張り巡らせちまったよ。

 三人はなぜ、一切私の事を教えず、秋風をこの会社に寄こしたのか。理由はなんだ? やりたい仕事が見つからなかったから、仕方なくここに寄こしたのか?

 なら、あやかし温泉街で働かせればよかったじゃねえか。鷹瑛と紅葉も居るんだし、家族全員でやりゃよかったのに。ってな。今思えば、ここでぬらさんに声を掛けときゃよかった。


 全ての経緯を知った結果。これに関してはぬらさんも想定外。本当にたまたまだったワケよ。しかし偶然の重なりって怖えなあ。

 おっと、話がだいぶ逸れちまった。元に戻すぞ。そもそも『あやかし温泉街、秋国』は、人間と妖怪が同時に入れる予定だったんだ。

 ぬらさんとクロが妖怪の相手をし、鷹瑛と紅葉が人間の相手をするハズだった。だが、二人が殺されちまった事により、その話が無くなったんだとよ。


 鷹瑛と紅葉の夢や想いが沢山詰まっていて、やっとの思いで叶ったっていうのに……。ほんと、心底ムカつく話だぜ。

 当然、二人を殺した奴は、私が絶対に殺してやると胸に誓った。が、しばらくしてから、ぬらさんに絶対に殺すなと止められた。

 なんでも、鷹瑛が死ぬ間際に『俺達を殺したヤツを殺さないでくれ。そいつを殺したら、優しいあんたらまでも、そいつと同じになっちまうからな』って、ぬらさんに言い残したらしい。


 その言葉を言われる前は、ぬらさんもそいつを必ず見つけ出し、殺すと言っていた。だけど、先に鷹瑛に釘を刺されたから我慢したんだとよ。

 私は未だに納得してないがな。しかし、そいつを殺したら鷹瑛とぬらさんの想いを踏み躙る事になるから、なんとか我慢してる。


 そういや、我慢と言えば。最近満月が出た夜、秋風達が鬼に襲われたんだったよな。流石にその時は我慢しなかったぞ。


 事の発端を知った後。まず初めに、秋風達を襲った取引業者トレーダーの所に向かい、拷問に近い尋問をし続け、そいつらが所属してる大本の業者を特定。

 次に、その業者を大人の解決法で解体。簡単に言えば、怒りに身を任せて大暴れよ。そのお陰で半数以上は再起不能。生き残った奴らは、もう二度と日の目を拝ませないよう、必要以上に脅しを加えておいた。

 最後に、莱鈴らいりんに警告染みた情報を流させ続け、私は先の業者と繋がっていた裏の世界を仕切っている首領ドンに、一方的な直談判をする為に接触。


 つっても、そいつとは腐れ縁でね。崇徳天皇すとくてんのうって知ってるか? 三大悪妖怪の中の一人さ。

 ちなみに残りの二人は、酒呑童子の酒羅凶しゅらきと、九尾の狐である玉藻前たまものまえだ。しかし酒羅凶の奴よ、昔に比べるとだいぶ丸くなったよなあ。……また長くなりそうだから、この話は置いといてだ。


 直談判の内容はこうだ。「あやかし温泉街、秋国は知ってるな? そこに居る人間の姉妹を、お前が管理してる業者の輩が襲い、殺しかけたらしいじゃねえか。で、その人間の姉妹はぬらりひょんと黒四季くろしきの愛娘でね。どうやら二人の逆鱗に触れたみたいだぜ」とな。

 ぬらさんだけならまだしも、黒四季の名を聞いた途端、崇徳天皇すとくてんのうの顔が一気に青ざめてよ。ありゃあ傑作だったぜ。

 まあ、無理もねえ。黒四季のヤバさは折り紙付きだ。妖怪の間では、敵に黒四季が居たら死んだと思え。と、言われてるほどだからよ。


 あいつの強さはデタラメなんだよ。ただの天狗が、ぬらさんや天狐であるかえでと対等に戦えるとか、それだけでワケが分からん。

 ただ普通に巻き起こした風や竜巻が、都市一つが更地になる程の威力だってのに……。おまけに隠し球も複数持ってやがるんだぜ?


 その隠し球は季節にちなんだ名前で、『黒春くろはる』『黒夏くろなつ』『黒秋くろあき』『黒冬くろふゆ』。この四つだ。この中だと、一番慈悲深いのは黒春か?

 桃色の風で、防御は不可能。触れた瞬間に一週間以上は眠りっぱなしさ。気持ち良く眠りに就き、痛みを感じぬままあの世行きってな。いいねえ、理想的な死に方じゃねえか。

 その反面、もう一つエグいのがあんだ。『黒風くろかぜ』っつう名前なんだが、それは少しでも当たった時点で終わりだ。完全にご愁傷様、後は死を待つのみよ。


 ……また話が逸れ始めたな。その後に「ちなみにその姉妹は、天狐と酒呑童子にも慕われていてな。そいつらの怒りも買ってたぞ」と、トドメを刺しといてやった。

 そこで崇徳天皇は顔面蒼白。情けない表情をしながらビクビクしだしてよ。思わず笑いそうになっちまった。

 それと、これは余計だったが「それとよ、姉の方は、私の可愛い部下であり、我が子当然のように接していた奴なんだが……。どう落とし前つけるんだ?」と付け加えておいた。もちろん、禍々しい殺気を放ちながらな。


 知らぬ間に、ぬらりひょん、黒四季、天狐、酒呑童子、私を敵に回していた崇徳天皇は、もうどうすればいいのか分からず、私に泣きついてきてよ。

 そこからはもう簡単だった。何を言っても早かったぜ。どんな条件を突きつけても、崇徳天皇は全て快諾。

 そして、己と繋がっている奴ら全員に、死に物狂いで連絡を入れ出した。最終的には私の目の前で、あやかし温泉街に居る人間の姉妹を襲う行為は、禁句扱いにまでなってくれた。


 少々行き過ぎた結果になったが。まあ、これでいい。十二分の成果を得れた。これでもう、妖怪達が秋風とゴーニャを襲う事はねえだろ。満月の日以外はな。

 まあ、そん時になったら私が守ってやろうと思ってたが……。この前の出来事もあってか、満月の夜は、ぬらさんとクロが付きっきりで秋風達を守る事になっちまってな。

 非常に残念であるが、最強の一角である二人が護衛をするんだ。心配する事は何もねえ。


 さってとだ、私もそろそろ動くとするか。この前ぬらさんに提案したプロデュースが、やっと始動するしな。

 秋風達も招いてやるつもりだが、あいつらは楽しんでくれるだろうかなあ? まあ、その時の流れに任せるとしよう。どう反応するか楽しみだぜ。

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