62話-11、完成した、あやかし温泉街、秋国

 だいぶ遅くなったけども、今日は酒羅凶しゅらきさんと酒天しゅてんさんが営むお店を見てきた! 名前は『居酒屋浴び呑み』である!

 完成が遅れた理由は、他の建物よりもかなり頑丈な作りにしたせいなんだ。これは酒羅凶さんのお願いらしく、そのお願いの内容が凄まじいんだよね。

 お願いの内容は、「普通の作りにされると、取り巻きや酒天を蹴飛ばしたら、三日以内に店が崩壊する」である。


 酒羅凶さんて、見た目は暴君たる風貌をしてるけど、実はルールや決まり事をちゃんと守る人であり、その決まり事を破った人には、問答無用で蹴りを入れたり、お仕置きの鉄拳を放つらしい。

 それは仕方ないとしてだ。問題は、その威力である。体がすごく頑丈な酒天さんや取り巻きさん達はいいものの、常人が食らうと一発で木端微塵になるらしい……。

 それでなくとも、その威力で蹴られたり殴られたりした方々はもれなく、尋常じゃない速度で後方に吹っ飛ぶみたいなんだ。


 それらを店内で頻繁にやられたりしたら、お店は崩壊まっしぐらだよね……。だからこそ居酒屋浴び呑みだけは、非常に頑丈な作りになっているのだ。

 お店の大きさは、近辺の建物よりも格段に大きい。見た目は周りの建物に溶け込むようにと、ほぼ同じになっているが、作りはまったく違う。

 周りの建物は基本木造だけども、居酒屋浴び呑みだけは重量鉄骨造であり、壁や天井も全て、特殊で頑丈なコンクリート製になっている。(ちなみに鉄骨は、防水加工のペンキが塗られていて、木造みたいな作りに見えるようになっている)


 唯一普通なのは、テーブルや椅子。畳や皿にコップぐらいかな? 後は、扉と窓とかも。ここら辺に人が吹っ飛んできたら、一発でおしゃかかな……?

 店の内装は、入口を入ってすぐ右側にレジがある。その先には木造のカウンター席が三十席あり、左側は座敷になっていて、掘りごたつ式のテーブル席があるんだ。


 カウンター席の奥に広い厨房があって、すぐに注文を受けられるようになっている。あと、そのカウンター席の近くには酒瓶がズラッと並んでいて、そこにはなんと、ボトルキープしたお酒を置けるとの事。

 座敷の奥には、広々とした宴会部屋が四つほどあり、大人数でどんちゃん騒ぎが出来るのだ。

 二階、三階へと続く階段がカウンター席の近くにあって、二階は普通の客間。三階は酒羅凶さんと酒天さん、取り巻きさん達が住む為の階になっている。


 奥に進んで行くとスタッフルームがあり、更にその先には、酒蔵へと続いている。この酒蔵もかなり広いんだよね。

 各お酒を造る環境に適した部屋が三つほどあるんだけども、どの部屋も居酒屋浴び呑みの一階ぐらいの広さがあるんだ。

 酒羅凶さんと酒天さんってば、とても張り切っていたし、この部屋を駆使して色んなお酒を作ると言っていた。


 それで肝心のメニューだけども、莫大な量のおツマミとお酒がある。なんて言えばいいかなぁ?

 ありとあらゆる居酒屋のメニューが、このお店に集結したような感じかな? そう思わせるほどの量だよ、本当に。

 私とお父さんとぬえさんが一日居ても、食べきれないかもしれないなぁ。こりゃあ、ここに来るのがとても楽しいだぜぇ……。


 それと、完成したお店はまだあるんだ。それは、青飛車あおびしゃさんと、赤霧山あかぎりやまさんが営む『建物建築・修繕鬼ヶ島』である!

 その名の通り、温泉街にある建物を修繕したり、新たなお店の建築をする為のお店になるんだ。そうしたらここは、温泉街の要の一つになるのかな?


 ちなみにこの名前は、現世うつしよで青飛車さんと赤霧山さんが運営していた建築会社、『鬼ヶ島カンパニー』から取っているらしい。

 鬼ヶ島カンパニーって、どこかで聞いた事がある名前だな~って思ったら、前にやっていた資格・免許取りチャレンジで、かなりお世話になった会社だったんだよね。

 しかもこの鬼ヶ島カンパニーって、上場企業の中でも最大手の一つなんだけど、青飛車さんと赤霧山さんってば、この会社の元代表取締役なんだって!


 それを聞いた時は、私とお父さんは同時に「ええーーっ!?」って叫んじゃったよね。だって、本当にビックリしちゃったんだもん。

 それで現世で引退した後は、主に妖怪さんの世界で活動を続けていたんだって。妖怪さんの世界でも、かなりの有名人らしいよ。


 おっと、話が進まないから戻そっと。


 お店の大きさは、周りの建物と比べると三倍以上あり、屋根全てには、艶のある頑丈な黒い瓦が敷き詰められている。

 建物全体は、他の建物よりも濃い茶色の木材を使用されていて、平屋を思わせる外見になっているんだ。これは、青飛車さんの好みの作りらしい。

 入口は、鬼さんの身長に合わせて高くなっていて、扉は付けられていない。扉が付けられていない理由は、主に建物内で作業をするので、搬入をしやすくする為なんだって。


 建物の中は広い空間になっているけども、まだ完成したばかりか、本当に何も無い。そのせいか、木霊農園の一軒家を思い出しちゃったや。

 一応、このフロアから色んな部屋へと続いているよ。入口正面から見て、一番奥の右端の扉は『材料・物置部屋』。

 逆に、左端は『建築図面設計室』。んで、入口正面から見て、一番左奥が『スタッフルーム』って感じかな。


 しかし、この建物建築・修繕鬼ヶ島。たった一つだけ決定的な欠陥を見つけてしまった。それは、建築図面設計室である。

 この部屋ね、暖かい日差しがいっぱい入り込んできて、ものすごく居心地がいいんだよね。だから、建築図面台にある椅子に座っていたら、気持ち良すぎて寝落ちしてしまっていた……。 

 なんていうか、理想的な暖かさなんだよねぇ……。ここにお布団を敷いたら、三日間ぐらい寝れそうだよ。冗談抜きで。


 それと他に、定食屋や釣り場。占い屋のお店も完成しているんだけども、こちらは現在店員さんを募集中である。

 占い屋だけは、店員さんが決まりそうなんだよね。ぬらりひょんさんが言っていたけど、もしかしたらくだんと言う妖怪さんがやるかもしれないんだって。

 ただし、この件という妖怪さん。相手に正確な事を伝えたら絶命してしまうので、何かしらの方法を考えるか、別の妖怪さんに頼むかもしれないとも言っていた。


 莱鈴らいりんさんが営む予定のお店は、まだ構想すら決まっておらず、当本人も何も決めていないので、こちらはゆっくりと考えていく予定だ。

 これで、主要の建物は全て完成したかな? 後は、永秋えいしゅうの完成を待つだけである!



















「居酒屋浴び呑み、か。頑丈にしたつもりだったが、あれでもまだ強度が足らんようだったな」


「建物建築・修繕鬼ヶ島が無ければ、何回崩壊していたことやら」


「本当だ。今や注文の八割が、居酒屋浴び呑みの修繕工事だからな。ほぼ毎週やっておるから、青飛車達は暇をせんでおるよ」


 そうボヤいたぬらりひょんが、煎餅が入っている袋に手を入れようとするも、その袋がいつの間にか無くなっており、首をかしげてから辺りを見渡す。

 すると、隣に居たクロが食い漁っていて、袋を持ち上げ、最後の細かい欠片を口の中に流し込んでいた。


「あっ、クロ! なに勝手に食っておるんだ!」


「すみません。ぬらりひょん様が食べてる姿を見てたら、我慢出来なくなりました」


「だからって、全部食うことはないだろう! 少しは残しておかんか!」


「美味しくて止まりませんでした、申し訳ないです」


「悪気が無い顔で謝りおって……。お前さん、この前もワシのとっておきの饅頭を食っただろう?」


 ほがらかな表情でいるクロは、ティッシュで口周りを拭いてから話を続ける。


「はい、あれも非常に美味しかったです。またよろしくお願いします」


「ま、また食う気でいるな……? ったく、今度売っている店を教えてやるから、自分で買ってこい」


 そう諦めに近い愚痴をこぼしたぬらりひょんは、空腹を誤魔化す為にキセルの煙を大量にふかし、日記のページを少し飛ばして捲った。



















 今日は、待望である永秋がついに完成した! 店員さんは全員、ぬらりひょんさんが天狗の里から連れてきた、クロさんの仲間である女天狗さん達がやってくれる事になったよ!


 まだコンクリートが剥き出しになっていた床には、ふわっふわの赤い絨毯が敷き詰められている。これは、永秋内の床全てがそうなっているんだ。

 二階から四階までの全容は、この前日記に書いたし省略しておこう。じゃあ今回は、銭湯と岩盤浴、露天風呂をメインに書いていこっかな。

 一階の奥にマッサージ処があり、そこの奥に続く通路を進んでいけば、三つの入口がある広間に出るんだ。


 そこから左側が、サウナがある銭湯。真ん中が岩盤浴場。右側の階段を上れば、露天風呂へと続いている。

 まずは左側の銭湯からだ。脱衣所の前には、売店とマッサージ機がある休憩所になっているんだ。

 売店にはコーヒー牛乳はもちろんのこと、普通の牛乳やフルーツ牛乳。炭酸飲料など沢山の飲み物が売っているよ。


 もちろん軽食やアイス。もしもの事を考えて、簡単な医療機器なども置いてある。絆創膏然り、消毒液然りね。

 そして大浴場! ここは妖怪さんの特性に合わせて、多種多様のお風呂を用意してある。その特殊なお風呂は、仕切りが設けられた部屋になっているので、ゆったりと満喫出来るようになっているのだ。

 氷風呂、血の池風呂、砂風呂、かぜ風呂、土風呂、火風呂、密林風呂、地獄釜風呂、他にもまだまだ沢山ある。


 ちなみに血の池風呂は、本物の血など使えるハズもなく、トマトジュースを代用しているんだ。遠くから見れば、かなり血っぽく見えるかな?

 他には、ジェット風呂や電気風呂。ジャグジー風呂や薬湯、水風呂とかね。人間も入れるお風呂もいっぱいある。サウナも複数の種類があり、半数以上のサウナにロウリュウを採用しているんだ。

 普通ロウリュウは、タオルやらで仰いで風を送るんだけども、ここのロウリュウは、女天狗さんが翼を仰いで送る方式に決まったんだ。


 試しに一回だけやってもらったんだけども、とんでもなく強烈な熱波だったよね……。風が強すぎて息がまったく出来ず、体が焦げるかと思った……。

 岩盤浴も似たような感じかな。妖怪さんの特性に合わせ、下の気温は約マイナス二百度、上の気温は三千度以上ある。

 間違えて私達がそこに入ったら、刹那で凍りつくか、蒸発するんじゃないかな? 人間も来るので、ここら辺は何か対策を考えておかないと。


 あとは、露天風呂! こちらは妖怪さんと人間、共に楽しめるようにと、大体が適温になっていて、全てが混浴になっている!

 種類も結構あるよ! 手前から健康の湯、美の湯、泡の湯、秋夜の湯、濁りの湯、炭酸泉の湯、地獄の湯などがある。

 健康の湯は主に、カマイタチさんが作ってくれた薬を溶かした、大体の持病や傷に効く最強の薬湯になっている。


 美の湯は、琥珀色のトロッとした湯質であり、ほのかに甘い上品な匂いがするよ。ここに三十分も浸かっていれば、お肌がしっとりツルツルになるのだ!

 泡の湯は名前の通り、泡風呂。モッコモコの泡が絶え間なく出てきて、まるで雲の上にいるような錯覚を覚えるんだ。ここは子供に人気が出そうだなぁ。

 秋夜の湯だけは、夜七時に解放される予定になっている。理由は、目の前にある紅葉とした山々をライトアップし、体と視覚、同時に楽しめるようになっているからだ。


 濁りの湯は四種類あり、秋の季節をテーマにした赤色と黄色。夏の季節をテーマにした青色と白色の濁り湯がある。

 本当は、ここに桃色の濁り湯も入れて、四季折々の濁り湯にしたかったんだけども、濃い桃色がなかなか出せず、あえなくボツとなった……。(淡い桃色なら出せるんだけどもなぁ)


 炭酸泉の湯は、弱濃度炭酸、強濃度炭酸、きわみ濃度炭酸と、三種類の炭酸泉を楽しめるようになっている。

 スタンダードなのは、弱濃度と強濃度かな? 極濃度は、普通の濃度に飽きた玄人向けだねぇ。

 もうね、すっごいよ? 泡がボッコンボッコン弾け飛んでて、炭酸もかなりキツくなっているんだ。試しに浸かってみたけど、五分もしない内にギブアップしました……。


 最後に地獄の湯。これはお父さんがぬらりひょんさんに無理を言い、強引に案を通した例のアレである……。

 しかも、ちゃっかりと温度を少し上げて、六十五度に設定されている。人間は言わずもがな入れず、妖怪さんが耐えられるのを祈るしかない……。


 これで、私とお父さんの夢が沢山詰まった温泉街が、ついに、ついに完成した! 夢みたいな話だけども、決して夢じゃないんだ!

 思わず感極まってしまい、大泣きしながらぬらりひょんさんに抱きついちゃったや。その時のお父さんも、一緒になって泣いていたなぁ。


 私の涙が移っちゃったのか、ぬらりひょんさんもホロリと涙を流していた。それを目にしたせいか、私はもっと泣いちゃったよね。


 これからは鵺さんとぬらりひょんさん、クロさんと共に全てのお店を再度チェックし、それをしつつ、各お店の足りていない道具や機材、食材の調達に入る。

 そして、それが終わり次第。あやかし温泉街、秋国が本格的に始動する! 楽しみだなぁ、本当に楽しみだ!!

















「あの時の紅葉もみじ鷹瑛たかあきといったら、ずっと泣いておったよな」


「気持ちはよく分かりますよ。私も感化されて、泣きそうになっちゃいましたからね」


「ふっ、必死になって我慢しておったのか。あの時ぐらい、一緒に泣いておけばよかったものの」


「私に涙は似合いませんよ。なんたって、姉御肌ですからね」


 クロのカッコつけた言葉に対し、ぬらりひょんは鼻で小さく笑い、キセルの白い煙をふかす。


「余程その言葉が気に入っているみたいだな。まあよかろう。さて、残りを読むとするか」


 そう寂しげに言ったぬらりひょんは、まだページ数が残っている日記に手を伸ばし、新たなページを開いた。

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