62話-9、ネーミングセンスが無い夫婦

 今日は、完成したお店の見学に行って来た!


 まず初めに、雹華ひょうかさんが営む甘味処! 名前は雪女さんにちなんで『極寒甘味処ごっかんかんみどころ』である! (雹華さんから命名してくれと頼まれ、私が必死になって考えた)

 他のお店よりもかなり早く完成したんだけども、理由は雹華さんが仕事をした経験が無く、たっぷりと研修や甘味のメニューを考えていきたいとの願いがあり、集中的に工事が行われたんだ。

 もちろん、私と釜巳かまみさんが全力でサポートするよ! 仕事のイロハ、甘味の作り方をビシバシ教えていくつもりである!


 店員さんは、雪化粧村に住んでいる雪女さんから募集をかけるつもりらしい。これは、ぬらりひょんさんやぬえさんも手伝ってくれるんだって。

 それで、まずは極寒甘味処の入口付近。この周りにテーブル席を設ける予定だ。数はまだ決まってないけども、四つか六つは欲しいと雹華さんが言っていた。

 店内はシンプルに、白い壁と白い天井である。鵺さんいわく、雪原をイメージしているんだって。(流石はデザイナー、細部まで拘っている)


 ちなみに店内には、左右にテーブル席が十席ずつの合計二十席。そのテーブル席は、全て三名掛けで座れる長椅子が二つずつあるので、合計で百二十人が同時に入れるのだ!

 雹華さん、かなり気合が入っているようなので、私達もその期待にちゃんと応えてあげねば……! 受付レジは店内の一番左奥にあるけど、お金の支払い方法については、後々決めていこう。


 その受付レジの奥に通路があり、少し進めばスタッフルームがある。でね、なぜかそのスタッフルームね、部屋一面が分厚い氷に覆われていて、めちゃくちゃ寒かった……。

 なんでも雪女さんは、秋の季節の気温でも暑く感じるらしく、適温まで下げる処置を行った所、こんな有様になったらしい。

 そこにいる時の雹華さん、やたら生き生きしていたんだけども、今までずっと暑さを我慢していたんだなぁ……。(ずっと気だるそうにしていたもの、暑かったのが原因らしい。言ってくれればよかったのに……)


 次に、極寒甘味処の近くにある首雷しゅらいさんのお店だ! 名前は『着物レンタルろくろ』! この名前は、京都で構えているお店『ろくろ屋』から取ったとのこと。

 極寒甘味処に続いて早く完成した理由は、店の内装をとてもシンプルにしているからだ。扉の無い大きな入口を抜けると、中はとても広い空間になっている。

 少し高めの玄関があり、靴を脱いで上がり、床一面は全て畳という、簡単な構造になっているんだ。


 なんでも、妖怪さんの体型や身長は千差万別なので、とても大きな妖怪さんが来るのを想定して、この作りにしたらしい。

 肝心である着物は全て、壁際に沿って展示し、そこからお客さんに選んでもらう方式だ。かなり広いけど、この壁が全て着物で埋まるとなると、なかなか圧巻的な光景になりそうだなぁ。

 ちなみに、店の奥には左側、中央、右側に扉があり、お客さんの服の保管庫、着物の保管庫、スタッフルームと続いている。


 料金の支払いや経営方針は、全て『ろくろ屋』と同じにするらしい。後払い制で、妖怪さんの各種族や特性に合わせて着物を用意するとのこと。もちろん、人間用の着物もね。

 ってことは、京都にある『ろくろ屋』も、妖怪さんが通っているのかな? ちょっと興味が湧いてきてしまった。

 それで、これから『ろくろ屋』で働いていたOBのろくろ首さん達を呼んで、着物の大量生産に取り掛かるらしいんだ。そして、そのOBをここの店員さんにするんだって。


 それともう一つ! 最後は、八吉やきちさん親子が営む焼き鳥屋、『焼き鳥屋八咫やた』! 的屋である『焼き鳥』と、八咫烏を組み込んだ、焼き鳥屋八咫! (私が考えました……)

 なんでこうも、みんな私に店の名前を決めてくれ! って、頼んでくるのさ……。ネーミングセンスが無いんだから、正直に言うとやめてほしい……。

 ちなみにであるが、お父さんもネーミングセンスが皆無である。木霊さんが営む農園を『木霊農園こだまのうえん』にしたり、牛鬼さん達が営む牧場を『牛鬼牧場うしおにぼくじょう』と命名したり……。


 私が言うのもなんだけど、そのまんまだよね……。(すみません、八吉さん、朧木おぼろぎさん、馬之木ばのきさん……)

 話を戻すけど、焼き鳥屋八咫の店の外見は、ごく普通かな? 入口の左側に持ち帰り専用の受付があり、手軽に焼き鳥を食べられるようになっている。

 内装は、入ってすぐ左横にレジ。その先にカウンター席がある。ここは主に、一人や二人専用の席になるかな?


 右側から奥まで続き、そこから更に左奥まで続いているのがテーブル席。こちらは一席、四人までが座れるようになっているんだ。

 カウンター席は二十席。テーブル席も二十席あり、合計で百人が一気に入れるようになっている!

 どのお店も広くしている理由は、妖怪さんと、その後に来たる人間が同時に多く入れ、楽しく交流出来るようにと願いが込められているのだ!


 それと、妖怪さん達が先に店を構えるというワケで、秋国あきぐにに少しだけ名前を付け加えておいたんだ~。


 それは、『あやかし温泉街、秋国』!


 この名前ねぇ~、ぬらりひょんさんやクロさんに褒められたんだ~。「ほう、良い名前じゃないか」ってねぇ~。

 『温泉街、秋国』や『秋国温泉街』とかも考えていたけども、これが一番しっくりきたんだ。何て言うか、頭にビビッと来たって、いうか?

 他にも『妖怪温泉街、秋国』とか、『隠世かくりよ温泉街、秋国』とか考えたけど、なんか語呂が悪くてねぇ……。あえなくボツにした。


 今日は三つのお店が完成したけど、明日も完成しそうなお店があるんだよねぇ。牛鬼牧場に行った帰りにでも、覗いてみようかな?
















「……紅葉もみじのネーミングセンスは、良いのか悪いのかイマイチ分からんな」


「た、鷹瑛たかあきは何も考えてないんじゃないですか? これ……」


「それを言ったら、紅葉もそうなってしまうだろうに」


「確かに……。ちなみに、ぬらりひょん様だったらどんな名前を付けてました?」


「ワシか!? あっ、あ~……」


 クロの何気ない質問に対し、ぬらりひょんは眉を深くひそめ、キセルの白い煙をふかしつつ長考していく。

 しかし、長年その名前でやってきたせいか、妙案たる名前は一向に思いつかず、キツく細めていた目をクロに向けた。


「二十年以上もその名前でやってきたせいか、何も思いつかん。それどころか、逆にその名前が正解だと思えてきたわ」


「や、やはり……。という事は、鷹瑛と紅葉は、案外ネーミングセンスが良い、のか?」


「騙されるなクロよ。他の名前で今までやっていたら、たぶんその名前が正解になるだけだ」


「あっ、そうか」


「お前さんも、かなり抜けてる所があるよな……。まあいい、次のページを読むぞ」



















 今日は、牛鬼牧場を見に行くついでに、ピクニックも同時にやってきた!


 これで開催するのは三回目だけども、花梨は初めて牛鬼牧場に行ったので、牛鬼さんを目にした途端大泣きし出した……。(まあ、気持ちは分からなくもない……)

 牛鬼さん達も、なまじ心優しいせいか、泣いている花梨を心配して、近づいてあやそうとしていたけども、まったく逆効果でギャン泣きしちゃってね……。

 牛鬼さん達、ワケも分からず余計に心配になって、あたふたしていたなぁ……。背中から生えている蜘蛛の足がひっきりなしに動いてて、それを見た花梨が更に泣いて……。もう収拾がつかなくなっていた……。


 でも、花梨は偉いんだよ? 一時間もしたら慣れてくれたのか、牛鬼さん達に抱っこされても泣かずに、ちゃんと笑っていたんだ。

 牛鬼さん達も安心したのか、大人数で花梨を囲んであやしていたけども、傍から見た光景はやはり不気味だったなぁ……。(ごめんなさい、牛鬼さん方……)

 それでピクニックが終わったら、牛鬼牧場を全て周って見てきたよ。全景を見るのは、これが初めてかな?


 赤いとんがり屋根のサイロはもちろんのこと。開放的な馬小屋、豚小屋、牛小屋、鳥小屋、羊小屋や、その他動物さん達の小屋など。

 メインであるとても大きな牧場小屋は、サイロと同じく赤い屋根になっていて、壁は全て白くなっている。ここは主に、事務の仕事や、動物さん達の健康を見る為も建物である。

 ちなみに、この牧場では基本放し飼いにしているんだ。外敵が一切いないし、みんな大人しいし、何不自由なく暮らしている。


 そうそう、帰りに馬のブラッシングや、羊の毛刈りをしてきたよ! 馬のサラサラした毛並みや、羊のモッコモコした毛よ! ありゃあ堪らんかったなぁ~。

 それと、今はまだ建っていないけども、牧場内で作った加工食品や牛乳を売る為の、販売所を設ける予定らしいんだ。

 ここの牛乳は何度か飲んだけど、現世うつしよで売っている牛乳とは比べ物にならないよね。一回飲んでしまったら、もうここ以外の牛乳は飲めないよ。本当に。


 あと、ほっこりとしながら温泉街に戻ったら、新しいお店が一軒出来ていた! それはカマイタチさんが営む薬屋、『薬屋つむじ風』!

 お店の外見は、周りの建物と溶け込むように、ほとんど同じになっているけど、大きな看板があるから一目で薬屋だと分かるようになっている。

 ガラス戸を開けて中に入れば、土間が打たれている部屋があり、そこに簡素なカウンターがあるだけだ。


 壁には間隔を広めにとった棚があって、そこと地面に塗り薬入った壺を置くらしい。基本、余計な物はいらないとの要望があり、仕方なく鵺さんがこんな感じにしたんだって。

 メインとなる部屋は、この部屋の奥にあり、そこはカマイタチさんが住む部屋と、薬を製造する為の部屋がある。

 各々が住む予定の部屋は見せてくれたけども、薬を製造する為の部屋は、カマイタチさんだけの極秘であり、かたくなに見せてくれなかった。(むう、気になる……)


 それと、カマイタチさん達はこれから薬の製造に取り掛かるらしく、薬の原材料を取りに、少しの間出掛けるらしいんだ。

 そういえばあの塗り薬って、何で出来ているんだろう? 特に、癒風ゆかぜさんが持っている万能薬よ。企業秘密だろうけども、帰ってきたら聞いてみようかな?

 次はいったい、どのお店が完成するんだろう。とっても楽しみだ!

















「そういや花梨の奴。ここに来てから初めて牛鬼牧場に行った時も、牛鬼が怖かったと言っておったな。まあ最終的には、慣れたようだが」


「ふふっ、日記と同じ事を繰り返してますね。潜在意識の中に、恐怖の対象としての記憶が残ってたんじゃないですか?」


「ふむぅ……。花梨が大人になり、この温泉街に連れて来た時も、「どこか懐かしさを感じる温泉街」と言っておったし、案外そうかもしれんな」


 ぬらりひょんの発言に眉をひそめたクロが、驚いて見開いた目をぬらりひょんに向ける。


「ちょっとぬらりひょん様、それも初耳ですよ。やはり花梨は、全てを知ってるんじゃないですか?」


「もしそうであれば、ワシと会った時点で何かしらの反応を示していただろうに」


「ああ、そうか……。もしそうであれば、私や鵺に初めて会った時にも、もっと騒いでたか」


「そうだ。流石に物心が付く前の記憶なんざ、覚えていないだろう。さて、続きを読むぞ」


 そう適当に流したぬらりひょんが、キセルの白い煙を吐いた後、読みかけの日記に手を伸ばした。

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