62話-2、着々と増えていく妖怪の仲間

 隠世かくりよで温泉街プロジェクトが始動してから、三日目!


 相変わらず鬼さん達による、ワイルドな地盤調査の轟音が鳴り響いている中。

 今日は、ぬらりひょんさんからとある相談が持ち掛けられた。それは、この温泉街を営んでいく従業員についてである。

 相談と言っても私とお父さんは、その相談を受けてしまってもいいんだろうか? だってさ、ぬらりひょんさんは私達にとって、頭が決して上がらない恩人たる存在なんだもん。


 決定権については、全てぬらりひょんさんにあると私とお父さんは思っていた。だから、その想いをちゃんとぬらりひょんさんに伝えたんだけども……。

 ぬらりひょんさんは笑みを浮かべて「お前さん達の温泉街だ。だからなるべく、お前さん達の意見を尊重したい」と、言ってきてくれたんだよね。

 その言葉を聞いた私達は、申し訳ない気持ちでいっぱいになったよね。なんて優しい人なんだろう。ちょっと涙が出そうになっちゃったや。


 だけども、私達はぬらりひょんさんの意見も尊重したいと強く思い、この話についてはお互いに意見を出し合って、半々に取り込む事に決めたんだ。

 その結果。最初は妖怪さん達でこの温泉街を営んでいき、徐々に人間を増やしていく方針で決まった。

 そう、この温泉街は妖怪さん達と人間が共に楽しめる、世界初(?)の温泉街になる事になったのだ! すごくない!? こんな所、他には絶対にないよ!


 細かな点は後々、ゆっくりと決めていくとしよう。そしてその後、今日もまた、ぬらりひょんさんが新しい妖怪さんを紹介してくれたよ。


 その人は、自由奔放者であるぬえさん。

 現世うつしよで転々と仕事をやっているらしく、仕事終わりだったのか、濃い紫色のミニスカスーツを身に纏っていた。

 髪色は基本黒色のセミロングなんだけど、風でなびくと妖々しく紫色に煌めき、元の黒色へと戻っていく。

 黒縁メガネを掛けていて、その奥にある瞳は鮮血を思わせる程に真っ赤だったせいか、ちょっとだけ怖かったかな?


 そんな鵺さんは、ここ最近までデザイナーをやっていたというワケで、主にお店の外装や内装の確認。お店の配置等を任される事になった。

 それで早速、鵺さんに建築図面を見せてみたんだけど、かなりダメ出しをされてしまった……。和風の街並みはかなり高評価だったけども、全体的にお店の配置が偏っていると指摘を受けた。

 と言うことで、その辺に関してはプロに任せる事になった。鵺さんが明後日あさってまでに、店の再配置を何パターンか用意してくれる事になったので、楽しみに待っていよっと。












「鵺が出てきたか。あやつめ、自分の仕事が終わった途端に姿を消しおって」


「元々、縛られるのが嫌いな性格でしたからね。よくもまあ、裏の派遣会社が二十年以上も続いたもんですよ」


「そういや、花梨はどうやって鵺と出会ったんだろうな。鵺に聞きそびれてしまったわ」


「ああ、そう言えば気になりますね。後で時間がある時にでも、花梨か鵺に聞いてみますよ」


「そうか、悪いな。さてと、確か次はかえでが出るんだったかな。読んでみるか」
















 隠世かくりよで温泉街プロジェクトが始動してから、一週間!


 地響きが木霊する地盤調査がようやく終わりを迎え、これから基礎工事が始まる。流石に基礎工事は重機を使うようなんだけど、どうやって隠世まで持ってくるんだろうか?

 そんな悩みを解決してくれるのが、ぬらりひょんさんが新しく連れてきた妖怪さん、妖狐のかえでさんである。

 楓さんってば、すごいんだよ? なんと、千年以上も生きている天狐てんこなんだって! 千年だよ千年。今から千年前って平安時代だよ!?


 千年以上生きているのに対し、見た目は私よりも若く見えるんだよなぁ。髪型は金色のロングヘアーで、毛先だけは白くなっていて、狐の耳と大きなモフモフの尻尾を生やしている。

 目は基本糸目なんだけど、開くと同じく金色で、瞳が獣みたいになっていたかな。何故か巫女服を着ているんだけども、遥か昔に神社でまつられていた頃の名残らしいんだ。

 そしてこの楓さんは、お父さんが考えた神社を営んでくれるらしいんだ。ご利益が凄まじそうだ。お父さんってば、すごく喜んでいたなぁ。


 今日は一人で来ていたんだけど、他にも妖狐さんが沢山いるらしい。それについて楓さんが少しだけ昔話をしてくれたけど、日記に書くのはやめておこう。


 おっと、話が逸れてしまった。本題に戻ろう。


 それでね、なんでも楓さんは物を別の物に変化へんげできるらしく、そこら辺に落ちていた石を拾ったかと思うと、あっという間に重機に変化させてしまったんだ!

 パイルハンマやパイブロハンマ。アースドリルやオールケーシング掘削機。青飛車あおびしゃさんと赤霧山あかぎりやまさんのお願いを聞き、ポンポン変化させていった!


 そんな魔法染みた光景に、私とお父さんは呆気に取られて口をポカンとさせていたんだけど……。その内、体に変な違和感を覚えてね。

 楓さんが笑いながら「二人共、その姿似合っとるぞ」って言ってきたもんだから、慌てて自分の姿を確認してみたんだ。

 そうしたらなんと、私とお父さんはいつの間にか、楓さんと同じ妖狐の姿になっていたんだ。というか、楓さんのイタズラで妖狐にされた……。

 最初は本当にビックリしたよね……。だって気がついたら、私とお父さんも妖怪になっていたんだよ? あれは心底焦ったよねぇ……。(でも、後でちゃんと元の姿に戻してくれた)


 とりあえずだ。これで温泉街の建設が、本格的に始まった! 明日から私達も、何かお手伝いをしたいなぁ。














「楓の奴め。イタズラ好きは相変わらずだな」


紅葉もみじ鷹瑛たかあきも、毎回驚いては叫んでましたからね。楓も楽しくてしょうがなかったみたいですよ」


「だろうな。当時の楓は、本当に生き生きとしておったわ」


「だんだんと落ち着いてはきましたけど、花梨が来てからまた、当時の楓に戻りつつありますがね」


「まあ、あやつにとって笑う機会が増えたんだ。謳歌させておこう。次は雹華ひょうか釜巳かまみの二人だな」















 隠世で温泉街プロジェクトが始動してから、二週間ちょっと!

 

 黒四季くろしきさんや鵺さんとは違い、楓さんはほぼ毎日隠世に来ては、私とお父さんを妖狐の姿にして遊んでいる。

 そろそろ慣れてきたよね、妖狐の姿にも……。慣れって怖いよねぇ。だってさ、楓さんに変化術を教えてもらって、私達も物を変化させて遊び始めている始末だもん。

 一応食べ物にも変えられるみたいだけど、味までは再現できないらしい。むう、ちょっと残念に思ってしまった……。(無限に唐揚げを食べようと思っていたのに……)


 それで、着々と工事が進んでいく中。今日はぬらりひょんさんから、新しい妖怪さんを二人紹介してもらったんだ。


 まず一人目は、雪女の雹華ひょうかさん。

 本当は雹華さんのおばあちゃんが来る予定だったんだけど、歳のせいもあってから色々と辛いと言う理由で、代わりに娘の雹華さんを寄越したらしい。

 『雪化粧村』という、雪女さんと雪男さんだけが暮らしている村の出身で、外に出るのは今日が初めてらしいんだ。

 だから秋の季節の風景が真新しかったのか、ひっきりなしに首を動かして、周りの景色と工事の風景に目を輝かせながら眺めていたよ。


 純白の着物を着ていて、髪の毛は雪のように真っ白なロングで、前髪で右目を隠している。瞳は氷を彷彿とさせる澄んだ青色で、とっても綺麗だった。

 肌も全て真っ白なんだけど、唇だけは少し青みを帯びている。ニコッと微笑む姿は可憐で、思わず私も微笑み返してしまう程だったよ。

 握手を交わしたんだけど、雹華さんの華奢で白い手、ヒヤッとしていたなぁ。あとさ、すっごいスベスベしてたんだよ? 妖怪さんの手は初めて触れたけど、あれは羨ましかった……。 


 続いて二人目、こちらは化け狸の釜巳かまみさん。

 現世うつしよで隠居しつつ、人間に化けてひっそりと甘味処を営んでいたのこと。

 釜巳さんもすごいんだよ? なんと、今年で三百歳なんだって! 妖狐の楓さん然り、化け狸の釜巳さん然り。ほんと妖怪さんって長生きなんだなぁ。 

 じゃあ黒四季くろしきさんや鵺さんも? と思ったけど、黒四季さんは私と大して歳は変わらなく、鵺さんは六十歳いかないぐらいだった。(ぬらりひょんさん情報)


 深緑色の着物を身に纏い、舞妓まいこさんのような黒い髪型で、そこから狸の丸い耳が生えている。

 尻尾が大きかったなぁ。ちょっと触ってみたかったけど、失礼だと思ってグッと堪えたよ。その内、我慢できなくなるかもだけど……。

 妖狐の楓さんは狐の耳と尻尾を無くしたら、ほぼ完全に人間の姿になるんだけども、釜巳さんはちゃんと全身が毛皮で覆われている。


 近所によくいるようなおばさんみたいな喋り方で、性格もすっごく優しくて、あっという間に仲良くなってしまった。

 雹華さんも世間知らずで色々と教えてほしいと言われ、すぐに打ち解けたよ! それでね、今度釜巳さんが、腕を奮って甘味をご馳走してくれる事になったんだ。

 楽しみだなぁ。営んでいるお店はかなりの老舗らしく、その地方の一角では、根強い人気を誇っているらしい。  

 でも、家に帰ってからパソコンで検索してみたけど、そのお店は出てこなかったんだよねぇ。隠れた名店なんだろうか?


 それでね、釜巳さんは温泉街で、甘味処を営んでくれる事にもなったんだ! ふふっ、温泉街が本格的に始まったら、頻繁に通っちゃいそうだなぁ。

 雹華さんも何かやりたいとは言っていたけど、まだ模索中である。雪女さんが営むお店かぁ、いったい何があるんだろ?

 ……色々と模索してみたけど、なかなか思いつかないや。まあこれは追々、雹華さんとじっくり考えておこう。

 次はどんな妖怪さんを紹介してくれるんだろうか? だんだん楽しみになってきたや。 














「まだ何も知らず、初々しかった頃の雹華か。なんでまあ、あんな性格になってしまったんやら」


「キッカケは、生まれたばかりの花梨を受け取ってからですかね? それとも、隠れた本性だったのか……」


「釜巳は昔から変わっとらんな。まあ、それがあやつの取柄とも言うべきか」


「面倒見も良く、誰とでも仲良くしてましたからね。今でも楓とよく、お茶をしてるみたいですよ」


「ふむ、良い事だ。さてと、次は酒羅凶しゅらき酒天しゅてんか。こやつらが来てから紅葉と鷹瑛が酒に酔って、だんだんと面白くなっていくな」


 ぬらりひょんが独り言を呟くと、それを耳にしたクロが「あっ」と小さな声を漏らす。


「そうか。この二人が来なかったら、下手したら私はずっと本名で呼ばれたままだったのか。ぬらりひょん様に感謝しておかないと」


「ふっふっふっ。それじゃあ今夜の飯は、豪華にしといてくれ」


「分かりました、お酒も用意しておきましょう」


「よしよし、楽しみにしていよう。さーて、続きを読むか」

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