61話-3、秋国と名付けられた温泉街

 温泉街の構想を考え始めて三日目。


 昨日は私もお酒を飲んでしまったが故に、全ての案を無に還した。


 だってさ、私が考えた案の中に『常軌を逸した遊園地』『軌道エレベーター』『宇宙ステーション』『ブラックホール』『自走式粒子波動砲』とかあったんだよ?

 温泉街そっちのけで宇宙進出してたんだよ? いったい、何を考えていたんだ昨日の私は……? 記憶がまったく無い……。

 お父さんに聞いてみても「紅葉もみじ様、何卒ご勘弁を……」って震えながら土下座してきたし……。酔っていた時の私は、どんな事をしていたんだろうか……。なんかごめんなさい、お父さん……。


 でだ、気を取り直して真面目に案を出し合ってみた。今日は温泉街の要となる、温泉旅館に焦点を合わせる。

 とりあえず外見と内装は和風! もちろん、温泉街の街並みも和風にするつもりだ。和風はいいよねぇ、見てて心が安らぐし落ち着くもん。

 そして大雑把に、施設からお父さんと一緒に考えてみたんだ。今日は二人共、お酒が入っていないから大丈夫だろう。たぶん。



~私~


・食事処(お父さんと私が好きな、和食・中華料理がメイン)

・マッサージ処(私のオリジナル式を採用)

・娯楽施設(とりあえずいっぱい!)

 (カラオケ、マッサージ機、卓球台、ゲームセンター、売店等)

・宿泊部屋(これもいっぱい!)

・岩盤浴(もちろんいっぱい!)

・サウナ(キツめのロウリュウ有り)



 とまあ、パッと思いついた物をば。ちなみにお父さんは「ほとんどお前に出された」と拗ねて、お風呂の案を出してきた。



~お父さん・銭湯~


・炭酸泉(こいつがないと話にならん)

・水風呂(無論、サウナの手前に設置よ)

・泡風呂(泡をモッコモコに出そうぜ)

・電気風呂(痺れるほど強いやつをな!)

・ジェット風呂(勢いは強ければ強いほど良い!)

・ジャグジー風呂(こいつは外せんよな)

・子供専用の底が浅い風呂(無いとかありえん)

・足湯(かなり需要があるんだぜ?)

・打ち湯(色々あった方がいいだろ?)

・寝湯(こいつはヤバいぞ、マジで寝ちまう)

・腰掛け湯(打ち湯の上位互換だぜ)



~お父さん・露天風呂~


・四季の湯(まあ、それぞれの季節の色をだな)

・炭酸泉(泡の大きさを分けようぜ。大中小とかによ)

・景色に特化した風呂(これは立地によるな)

・美の湯(肌がしっとりするヤツな)

・健康の湯(効能が多種ある風呂とかよ)

・地獄の湯(江戸っ子御用達で六十度以上が好ましい)





 まともだと思っていたのに、最後にしっかりと落としてきたよ、お父さんってば……。流石に江戸っ子も我慢できなくて飛び上がるでしょう、六十度以上は……。

 名前も地獄の湯とかにしてるし、常人だと二十秒持たないんじゃないかな? お茶とかコーヒーを作るには、ちょっと温いかもだけどさ。


 他のはいいよなぁ、四季の湯とかね。名前も良いし、気持ち良さそうだ。子供専用のお風呂は、アヒルのおもちゃを浮かばせておいたら、子供がもっと喜ぶかもしれない。

 まあ、まだ三日目だ。とりあえず案を出しまくって精査して、徐々にすごい温泉街へと仕立て上げていこう!












「出たな地獄の湯。精査したのにも関わらず採用されたのか」


「きっとぬえ青飛車あのびしゃ達が、鷹瑛たかあきに押し切られたんでしょうね」


「だろうな。しかし、相変わらず紅葉もみじも酒が入ると暴走し、訳分らん発想をするもんだな」


酒羅凶しゅらきも、酒が入った時の紅葉を苦手としてましたからね」


「ああ、あの酒羅凶が対応に困っていたからな。さて、少し飛ばしてみるか」













 温泉街の構想を考え始めて一ヶ月目。


 そろそろ温泉街の全容が見えてきた! 結局のところ街並みは万人受けするよう、無難に和風の線で行く。(お父さんの古代ローマ風の案はボツにした)

 あとは、考えたお店を配置していくだけだ。この配置がかなり手こずりそうだなぁ。

 お父さんってば、神社は必ず入口手前にしたいと言って聞かないんだ。どうやらここだけは譲らないらしい。


 でも、悪くはないかな? ならば私の案である、竹林道を隣に加えたいなぁ。竹林に囲まれて受ける占いも、なかなかいいかもしれない。

 おっ、インスピレーションがどんどん湧いてきたぞ! 急いでメモをしておかねば!


 それと、秋の要素はいったいどうしようか? もちろん秋にちなんだ木は、そこらかしこに沢山植えるつもりだ。

 だけど秋以外の季節だと、普通の葉っぱは緑色に変わっちゃうんだよね。ノムラモミジやイロハモミジっていう、ほぼずっと赤い葉をした品種はあるけれど、これだけだと味気ないし……。


 やはり、この案だけはかなり難しいや。季節は常に動く物だから、止める事は決して出来やしない。やっぱり、模造の葉っぱを採用するしかないのかな?

 手入れをしなくていいから楽だけども、やっぱり自然の木を使用して、ちゃんとした葉っぱで温泉街を埋め尽くしたいなぁ。












「適当に開いてみたものの、古代ローマ風っていうのが少々気になるな」


「景観は悪くなさそうですが、またエラい発想に至りましたね」


「どうせ、酒が入っていた時に出した案なんだろう。また飛ばすぞ」














 温泉街の構想を考え始めて二ヶ月目。


 やはり、農園、牧場、魚市場は温泉街の中に入れられるハズもなく……。

 自給自足をするからには、それ相応の広さが必要になるしなぁ。結局、離れた場所に配置するという事で決まった。お父さんは納得してなく、すごく渋っていたけどね。


 さてと、この三つを離れた場所に配置して、ようやく大まかに完成といったところかな? 残りの半月は細かな箇所を訂正して、ようやく図面の作成に取り掛かれる!

 主要な店を合わせて、おおよそ三、四十店舗ぐらいだろうか。……間に合うかな? あまり精密な図面を描かずに、一週間に私とお父さんで二枚ずつ以上作成すれば、余裕を持って出来上がるか。


 よし、そうとなれば根気のいる作業の幕開けだ。根詰め過ぎるといけないから、休憩する日も事前に決めておこう。

 その時は、腕を振るっていっぱい美味しい料理や甘い物を作って、二人で精とやる気を出さねば!













「ふむ、意外と早い段階で全てが決まったんだな。最初の段階だと、農園、牧場、魚市場は温泉街の中に入れるつもりだったのか。どう考えても無理だろうに」


「不要にも思えましたけど、かなり機能しましたよね」


「ああ、ありゃワシも驚いた。凄まじい規模になってしまったから、持て余してしまったがな。腐らせるのは勿体ないと思い、現世うつしよで働いている妖怪達の店に物流を始めてみたら、温泉街の認知度と共に野菜、肉、魚の質が上がっていき、今はそれなりのブランド物にまでなってしまった」


「あの規模を管理できる人数がいるからこそですが……、鷹瑛と紅葉が聞いたら驚くでしょうね」


「だな、鷹瑛本人が一番驚愕するだろう。さて、次は一気に飛ばすぞ」












 温泉街の構想を考え始めて四か月半ぐらい。


 やっと、全てのお店の図面が完成した! つっかれた~、達成感が半端ないや。お父さんと一緒になって、今までにないぐらい喜んじゃったよ。

 流石に、お店の名前まで決めてる時間はないけど、温泉街と温泉旅館には、ちゃんと名前を付けたのだ! これは私とお父さん、双方納得がいく名前にした。


 一つ目! この温泉街の名前である。

 それは『秋国あきぐに』! もう、国だよ国! 私とお父さんが考えに考えた一つの秋の国、それが秋国だ!

 ……温泉街はどこに行ったと突っ込まれると、言い返せないのが難点だけども。


 二つ目! 

 秋国の顔とも言える温泉旅館、『永秋えいしゅう』! 永久とわの秋に囲まれた温泉旅館。その永久の『永』と『秋』を組み合わせて永秋。

 これはいいでしょう! 決まった瞬間、お父さんも「これだーーっ!!」て叫んでたしね。もちろん、私も一緒になってだけども。


 これで、長かった作業ともお別れかぁ。楽しかったなぁ、本当に楽しかった。もう、この温泉街には深い愛着が湧いてしまった。難しいけれども、採用されるといいなぁ。

 もし、この温泉街の案が採用されたら、お父さんは総支配人になるのかな? それとも、別の人がなるのかな? できればお父さんがなってほしいなぁ。お父さんもこの温泉街が大好きだしね。


 そうしたら私は、影で全力でサポートするのだ! しかし、女将もやってみたいなぁ。真っ赤な着物を着て、お客様をお出迎えする女将。

 ふふっ、男っぽい私には似合わないか。やるなら料理長とかだな。食事処でお客様の胃袋をガッチリと鷲掴み、リピーターを増やしてやるんだ!


 これなら合ってるな。実に私らしい在り方だ。……でも叶うなら、女将の方がいいなぁ。














「秋国、永秋。良い、実に良い名だ。ネーミングセンスが無いあやつらが考えたとは、とても思えんな」


「ですね。でも、私も好きですよ」


「だろう? しかし紅葉の奴、女将をやりたかったのか」


「一言もそんな事を言ってなかったですよね。紅葉も案外、花梨と同じで本音を隠すタイプだったんですね」


「みたいだな。さて、そろそろワシが出てくるんじゃないか?」


「そうなったら、私や温泉街の奴らも出てきますね。早く読みましょう」


「やはりクロも気になっておるな?」


「ええ、もちろんです。早くページを捲ってください」


「最早包み隠さんか。分かった分かった、いくぞ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る