35話、語るは心が変わりつつある者
私、メリーさん。……間違えた、秋風 ゴーニャ。いま、『あやかし温泉街、秋国』って言う温泉街の一角にある『
うっかりメリーさんって名乗っちゃったけど、それはもう過去の話。今は人間で、私を底無しの暗闇から救ってくれた救世主である花梨の妹よ。
その花梨は、突然部屋に訪ねてきた私をまったく怖がらず、怯えもせず、温かく出迎えてくれたとても優しい人間だ。
そして、私の名付け親であり、こんな私に苗字をくれて、家族として迎え入れてくれたお姉ちゃんでもあり、お母さんでもある。
私はそんな花梨が大好きだ。ずっと一緒にいて、体をギュッてして甘えていたい。ずっとずっと、ずーっと甘えていたい。
甘えたくてワガママを沢山言った。お風呂に入ってみたいとも言った。名前を付けてちょうだいとも言った。抱っこやおんぶ、肩車もしてほしいとも言った。
花梨と出会ってからまだ一ヶ月も経ってないけど、空っぽだった私の心にいっぱい温かな愛情を注いでくれて、溢れんばかりに満たしてくれたの。
更に文字の書き方や読み方、漢字や算数も教えてくれた。最近では一万まで数えられるようになったし、かけ算、わり算も出来るようになったのよ。すごいでしょ?
だから、こんな私に色々な事を教えてくれた花梨に恩返しをしたい。でも、どうすれば恩返しになるのか分からない。
花梨が喜んでくれるような事をしたい。欲しい物をいっぱいプレゼントしたい。花梨が嬉しそうにしている顔を、沢山見てみたい。
だけど、プレゼントをするにはお金がいる。私も温泉街で働いて、お金を稼いでプレゼントを送りたい。
送りたいけど、私はまだまだ世間知らずだし、何より背が小さくて出来る事がかなり限られてくる。
せめて、背がうんと大きくなれば、花梨の役に立てるかもしれない。それでもまだ知らない事が多すぎるし、人見知りだし、とても臆病者だ。
明日、私は初めて花梨と一緒にお仕事をするの。役に立ちたいけど、まだ不安が大きくて迷惑をかけそうで、正直な話、まったく自信が無いし失敗を繰り返ししそうで怖い。
花梨は、私と一緒にお仕事をするのが楽しみだと言ってくれた。だから私は、その期待にちゃんと応えなくちゃいけない。
ちゃんとお仕事が出来たら、花梨は私を褒めて頭を撫でてくれるかしら? そうしたら、いっぱい頑張れそう。
……やっぱり身長が欲しい。この前、花梨に身長を測ってもらったんだけど、九十センチぐらいしかなかった。寝て起きたら、急に伸びてたりしないかしら……?
今から流れ星に願いを込めたら、叶えてくれるかもしれない。私の身長が花梨と同じぐらいになりますように。ってね。
明日はどんなお仕事をするんだろう。私にも出来る事だろうか? 出来る事だろうから、ぬらりひょん様も言ってきたんだろう。
もし失敗ばかりしたら、花梨は怒るかしら? 怒った後に、私の事を嫌いになったりしないかしら?
そんなイヤな事ばかり考えてると、気が気がじゃなくなってくるし、頭が不安でいっぱいになって眠れなくなってきちゃった。
大好きな花梨に嫌われたら、私はもう二度と立ち直れなくなる。また、人間にも妖怪にもなれなかった頃に逆戻りだ。
そんなのは絶対にイヤだ。考えただけで泣いちゃいそうになる。もう、一人にはなりたくない。
……やる前からダメな事ばかり考えていたら、本当にダメになっちゃいそう。
逆の事を考えよう。私は出来る、私はやれる。分からない事があったら、すぐに花梨に聞けばいいんだ。
幸いにもお勉強をしてる時、花梨は私に対し、物覚えがすごく良いと褒めてくれた。だから、聞いて覚えればいいんだ。
背が小さくてもやれる事は必ずあるハズ。今の私が出来る事を全力でやればいいんだ。
なんだ、怖がったり怯えるほどでもないじゃない。だんだん自信が湧いてきたわっ。
頑張れるような気がしてきた。今から花梨に何をプレゼントするか考えようかしら? ……調子に乗りすぎね。
小さい目標から立てていこう。明日は、花梨に言われた事をちゃんとこなして褒めてもらうの。
そして、頭をいっぱい撫でてもらうんだ。そうすれば、もっといっぱい頑張れるからね。
おやすみ花梨っ。明日は私も、いっぱい頑張るからねっ!
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