20話-4、手軽な地盤調査と抗えぬ睡魔
吉報を携えた花梨は、ゴーニャと微笑みながら手を繋いで
その吉報を耳にした青飛車が「おお、よかったじゃないか! おめでとう秋風さん」と、笑顔で拍手を送り、「おめでとう花梨さんよ。こりゃ、久々に忙しくなるぞ」と、
「ありがとうございます! ぬらりひょん様に怒られるかもって思った場面もありましたけど、本当に嬉しいです!」
うんうんと笑みを浮かべ、
その問いかけに赤霧山は、「善は急げと言うし、先に出来るだけの事はやっておくか。建物の構想も
「あっ、その点でしたらご心配なく。実はもう、建物の構想とか頭の中で出来ているんですよね」
花梨の言葉に青飛車が「ほう。それじゃあ、間取り図面の用紙があるけど書いてみるかい?」と反応すると、「青飛車よ、素人に無茶を言うんじゃない」と、赤霧山が呆れ返りながら腕を組んだ。
「間取り図と建築図面は、書いたことがあるんで大丈夫ですよ! 大工、
「それは本当かい? 冗談で言ったつもりだったんだが……、すごいんだね秋風さんって」
「即戦力じゃないか、是非うちに来てほしいぐらいだ。ちょっと待ってな。いま、間取り図用の用紙と鉛筆を持ってこよう」
そう言った赤霧山が建築図面設計室に入っていき、人間でも書けるサイズの間取り図用の用紙と鉛筆、定規と
受け取った花梨は「ありがとうございます!」と言いながら、画板を地面に置いて間取り図用の用紙を挟むと、定規を駆使して間取り図を描き始める。
建物の大きさは、おおよそ二十坪(
店の一番左奥に厨房やスタッフルーム、物置部屋へ行ける扉を。その扉の右側に、会計が出来る受付を確保。
更にその右側からは、メニューから選んだ品物を厨房から受け取れる窓口と、皿の返却口などを簡素ながらも描き終えた。
まだ下書き段階の間取り図を、画板から外して眺めた花梨が、「うんっ」と言いつつ赤霧山達に見せつける。
「大体こんな感じですかね? お客さんが直々に温泉卵を取れる場所も、どこかに設置したいんですよねぇ」
下書きの間取り図を確認した青飛車が、手で顎を擦りながら「いやいや、短時間で立派な間取り図を描いたもんだ」と素直に感心し、赤霧山も「ほう、すごいな。なら、建築図面の作成も花梨さんに頼んでしまおうか?」と、目を丸くした。
「鉛筆と定規さえあれば、建築図面も描けますんで私でよければ描きますよ! ただ、二、三週間ぐらいお時間を貰えると助かります……」
「何を言ってるんだ秋風さん、手書きなら全然早い方だよ」
「うん、花梨さんが考えた店だ。たっぷり時間を掛けて描いてくれ。それじゃあ話もまとまった事だし、地盤調査にでも行くか」
事をどんどん進める赤霧山が、現場に
地盤調査を
「あの~、地盤調査はどうやって行うんですか?」
花梨の質問を耳にした青飛車が、大きな手をグッと握り締め「簡単だよ、地面を思い切り拳で殴るんだ」と、握り拳を地面に向かって振り下ろす。
続くように赤霧山も「拳ののめり込み具合で、地面と地盤の固さが大体分かる。ちゃんと土台も作り直すから、安心してくれ」と、笑いながら言ってきた。
二人の説明に花梨は、「と、とてもワイルドな地盤調査ですねぇ……」と、顔を引きかせながら呟き、更に足を進めていく。
薬屋つむじ風と
その空き地からは、永秋の裏側に回れるようになっているようで、二人が轟音と振動を響かせる地盤調査を開始すると、花梨は何も言わずにゴーニャから手を離し、永秋を見上げながら壁伝いに歩き始める。
正面以外から間近で永秋を見上げるのは、これが初めてで、二階付近にある露天風呂からは、湯気が逃げ出すように外に向かって流れていく景色と、カッコン……、と、桶を床に置いた音が流れてきた。
そのまま永秋の裏側まで回ると、奥の方に不自然な人工物が目に入る。それは加工された大きな石の壁のようで、丁寧に磨かれているのか光沢があり、太陽の光を反射させている。
そして、その石の壁の前には大量の花束が供えられており、花束の前には糸みたいにか細い煙が昇っていた。
「あれは……、
キョトンとした花梨が、ゆっくりとその石碑に向かって足を進めていくと、背後から突然「花梨っ! 青飛車と赤霧山が呼んでるわよ!」と、ゴーニャの叫ぶ声が聞こえてきた。
花梨は慌てて振り向いて「あっ、ごめん! いま行くね!」と叫び返すも、頬をプクッと膨らませたゴーニャが先に駆け寄ってきて、花梨の顔をキッと睨みつけた。
「もうっ、勝手にどっか行っちゃうんだもの。心配するじゃないっ」
「ごめんごめん、ゴーニャも言うようになったねぇ」
「ふふんっ。花梨の妹だもの、当然よっ!」
腰に手を当てて鼻をフンッと鳴らし、ドヤ顔で言ってきたゴーニャに対し、花梨は微笑みながら「ふふっ、こいつめぇ~」と、ゴーニャを優しく抱き上げ、石碑の内容を見ないまま空き地へと戻っていく。
青飛車達の元へと戻ると、鬼ヶ島流地盤調査を終えていたようで、地面には大きな握り拳の跡が点々とあり、二人は拳に付着している土を振り払っていた。
手を綺麗に拭いた赤霧山が、戻ってきた花梨の姿を見るや否や口を開く。
「花梨さんよ、地盤の方は大丈夫だ。基礎を全部取り除けば、いつでも工事に取り掛かれるぞ」
「広さも申し分ないね。俺達は今からでも出来る事を始めるから、秋風さんも描ける範囲で建築図面を描き始めてくれないかい? うちの建築図面設計室にある物は全て自由に使っていいから、そこで描いてくれ」
「い、いまさっき決まったばかりなのに、色々と手早いですね……。分かりました、それじゃあ建築図面設計室をお借りしますね!」
現場に到着してから、十五分もしない内に地盤調査が終わった事に対し、花梨は多少の不安を抱きつつも、ゴーニャを抱えたまま建物建築・修繕鬼ヶ島に戻り、建築図面設計室へと入っていった。
部屋の中は、窓から日差しが大量に入り込んでいて外よりも暖かく、電気を点けていないのにも関わらずかなり明るくなっている。
ゴーニャを床に下してから辺りを見渡してみると、部屋の左側に、手作り感が溢れる建築図面台が五台ほど設置されており、そっと触れてみると、日差しを常に浴びていたせいか、安心するような温もりを感じた。
背後にも、ここで作られたのであろう木材で組み立てられたラックが数台置いてあり、図面作成に必要な道具が揃っている。花梨は、そこにある建築図面用の用紙を一枚と鉛筆、定規を手に取った。
そして、建築図面台に全ての道具を置き、隣の席にゴーニャを座らせると、花梨も建築図面台の前に座り「さてと、それじゃあ描き始めよっかな~」と意気込み、サラサラと建築図面を書き始めた。
そこから二人は特に会話をせず、建築図面を描いている音だけが静寂を遮っている中。じっと見ていたゴーニャがうとうととし始め、大きなあくびをして涙が浮かんだ目を擦る。
「花梨っ……。この部屋、ポカポカしててとても気持ちがいいわっ……。なんだか眠くなってきちゃった……」
「ふふっ、別に無理をしなくてもいいんだよ? あとで起こしてあげるから、ゆっくり寝ちゃいな」
「う~ん……、ありがと花梨っ……。おや、すみ……」
花梨の言葉を聞くと、ゴーニャはすぐに腕を枕にして建築図面台へと寄りかかり、ものの数秒で眠りへと落ちて寝息を立て始めた。
「ははっ、すぐに寝ちゃったや。……とは言ったものの。日差しが気持ちよくて、私も眠くなってきちゃったんだよなぁ……」
そう独り言を呟いた花梨は、あくびをしながら体を思い切り伸ばし、まとわりついてくる眠気を飛ばそうと試みるも、まったく効果が無く、瞼がだんだんと重くなっていく。
強烈な睡魔に抵抗しつつ建築図面を描き進めるも、徐々に視界がぼやけていき、体全体までもが重くなり、とうとう指先すらも満足に動かせなくなった。
「だ、ダメだ……。睡魔が強すぎる……、耐えられ、ない、や……」
限界を超えてしまった花梨も、抗えない睡魔に身を委ねてしまい、腕を枕にしてゴーニャの寝顔を見つつ、瞼を閉じて夢の世界へと落ちていった。
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