第19話 覚悟の一発

 銃を持った手の中で膨れ上がる魔力の気配。

 バァン、と耳を貫く衝撃音とともに跳ね上がる右手。

 日向は眩む視界の中、巨人の体が後ろに傾ぐのを見る。


「よし……っ?」


 安心したのも束の間、巨人は踏ん張って持ちこたえ再び日向に向かってくる。いや、持ちこたえたとは違う。威力が足りなくてロクにダメージを与えられなかっただけなのだろう。その足取りには余裕すら感じられる。どうやら態勢が崩れたのは、魔力弾の衝撃でたたらを踏んだだけのようだった。


「――まずいっ」


 日向は再び魔弾の構成を試みる。が、打ち付けられた痛みと発砲の衝撃で限界に達したのか右手から力が抜け、腕が落ち始める。

 一歩一歩近づく巨体を見据えることしかできない日向はついに意識を手放し始めた。

 徐々に灰色に染まる世界。

 だんだんと重くなる瞼。

 全身からは力が抜け――


「日向ぁっ、しっかりしろっ」


 今にも消えそうな意識に飛び込んできたのは快斗の声だった。

 ハッと目を見開けば、目の前に竹刀を持った体操服姿の背中。

 諸手で握った竹刀が、巨大な拳を受け止めていた。


「すまん日向、復帰が遅れた。しばらく引き付けておくからしばらく休んでろ」


 攻撃を捌きながら言う快斗。その動きに危なげは感じられなかったが、やはり快斗が吹き飛ばされた光景が頭にちらつく。


「……いや、一人じゃやっぱり……」


「大丈夫だ。さっきは攻撃後の隙を突かれただけだからな。こっちから仕掛けなければ問題ない。だから十分ぐらい休め」


「だけど……」


「ああもう、休めったら休めっ。お前が回復しねえと攻撃手段が無いんだよっ」


「攻撃手段って言っても結局……」


 言いきれずに意識を手放してしまう日向。

 快斗はそれをチラリと横目で見ると呟いた。


「ほんと無理すんなよ。それに、あれはただ威力が足りなかっただけだろ」


 そして、巨人に向き直って中段に構えなおす。


「さあ来い、頭無し。ここからしばらくは俺と遊んでもらうぜ」




 闇に沈む街を駆け抜ける。

 両手に魔銃を携え、人ならざる存在と相対する。

 その身に宿す魔力は輝き、放たれる銃弾は光の矢となって敵を貫く。

 時に水平に構え、時に交差させ、踊るように囲む敵を撃ち倒していく。

 剣舞ならぬ銃舞といったところか。

 闇夜を舞い、光の名を冠する彼は人知れず異形を撃ち抜き続ける――




 ガンッ、ガンッと鈍い音が響き続ける。

 その音に呼び起こされたのか日向は薄っすらと目を開いた。


「……ここ……は」


「おう、起きたか日向」


 呼びかけるは快斗。見れば、巨人と打ち合い続けていた。


「――っ」


 それで状況を思い出した日向は咄嗟に立ち上がる。体はまだ少々痛むが動くのに支障はないようだった。

 しかし、動けるようになるまでとはいったい自分はどれだけ眠っていたのか。

 そう思って、日向は黒板上の時計に目を向ける。

 が、もちろん結界内で動いているわけもなく把握に失敗する。

 そんな日向の様子を見ていたのか快斗は言った。


「ああ、多分十五分ぐらいだと思うぞ。日向の意識が飛んでから」


「十五分もっ? 快斗、大丈夫なのか」


「おう、守るだけなら簡単だったな。けど――」


 快斗は巨人の打ち下ろしを受け流す。結界内ではあり得ないはずだが、その打ち下ろしはまるで床をたわませているかのような錯覚を与えていた。


「やっぱり、化け物だな」


 快斗は言う。まあ、そんな重撃を飄々と受け流す快斗も大概であるが。


「さて、日向も起きたことだし働いてもらおうか」


「オッケー。何をすればいい」


 日向の言葉に、快斗は日向が持つ銃へと目を向ける。


「まさか、魔力弾か? 俺が気を失う前のやつ見えてなかったのか? 結局ダメージ通ってなかったぞ」


 否定する日向に快斗は首を振る。


「いや、魔力弾なら攻撃は通る。あいつがよろめいたのが証拠だっ。足りなかったのは魔力の圧縮率だろうっ」


 快斗は攻撃を受け止めながら言う。その言葉に日向は苦々しい表情を浮かべた。


「圧縮率か…… 俺は圧縮炉の駆動率変更方法を知らないぞ。快斗の方で何とかできないのか? なんならこの銃を快斗が使うとか」


「最初にやった通り、俺じゃあ攻撃は通らない。お前の銃を使うのも無理だ。やるとしたらお前が仕留めるしかねえ。圧縮炉だけでもいいから通常駆動させろ。死ぬ気で気張れ。じゃないと本当に死ぬぞ」


「……分かった」


「俺も言葉でだけだがレクチャーしてやる」


 快斗は巨人の薙ぎ払いをバックステップでかわしながらニヤリと笑った。

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