第17話 欠陥パーティー

 転がるように階段を降り、長い廊下を駆け抜ける。

 日向と快斗は一心不乱に教室を目指していた。


「くそっ。なんでこんな遠いんだよ。一番近くの教室棟だったら楽なのに」


「学年によって決まってるんだから、文句言っても仕方ないだろ」


 右に曲がれば三年生の教室。それをもちろん直進し、図書室の横を駆け抜ける。どこか別のクラスが調べものをしているのだろう。ガラスの壁を通して先生と何十人もの生徒が固まっているのが見えた。二年生の教室への道も無視し、コンピュータ室の横を通り抜け、ようやく一年生の教室棟へとたどり着く。職員室の目の前の階段を駆け下りれば、三つ並んだ真ん中が日向たちの教室だ。


「はぁはぁ。やっと着いた」


 扉を開け、中に入る。もちろん中に残っている生徒は無く、男子が着替えた後のまま、男子の机の上にのみ荷物が並んでいる。

 追手がいることへの恐怖からか無意識に扉を閉めると、日向は自分の机へ、快斗は後ろのロッカーへと向かった。

 チェルノボーグとベロボーグ、二丁の拳銃を取り出しながら、日向は快斗へと違和感を訴える。


「快斗、体育のせいかわからないけど、なんか足がだるい」


「ああ、それ俺も感じてた……もしかして」


 そういうと、快斗は右足で床を蹴ってみた。そして――


「いっってぇぇぇぇぇぇぇ」


 返ってきた激痛に悶えるのだった。

 その反応を見て日向は一言。


「ああ、なるほど。結界のせいで床も止まっているんだな」


「――うん、うん、そのせいで衝撃が全部足に返って、って冷静に分析してんじゃねえよ」


 よっぽど痛かったのだろう、足を抱えてうずくまっている快斗は薄っすら涙目だ。日向はそんな快斗から視線を外し、かばんのチャックを閉じる。しばらくして復活した快斗もその左手に竹刀を下げていた。


「しっかしまあ、これから化け物退治に行くってのに片やただの竹刀、片やただのモデルガン。装備がしょぼ過ぎてなんか笑えてくんな」


「笑ってる場合じゃないぞ快斗。お前それで仕留める手段あるか?」


「……無いと思っておいてくれ。緊急時だから教えるしかないが、使える魔術が今のところ【身体強化フィジカルブースト】と【物質強化マテリアルブースト】しかないからな。もちろんこれじゃあ切れ味が足りない。あの硬さじゃ打撃としてもあまり意味ないだろうし。今回俺にできるのは前で相手の攻撃を受け止めて、チクチクけん制するタンク職だけってことだな。そういう日向は……」


「分からない。さっきも言ったと思うが、少なくとも魔術は一つも使えない。あっ、そうだ、魔力弾を撃てるかは……試してないけど」


「まじか……なんで試してないんだよ。一応攻撃手段になるよな」


「いや、魔術が使えなかったことに俺も妹もショックでそこまで頭が回らなかったというか、そもそも俺の、うっ……せ、設定では……魔力弾はダメージソースじゃなくて……主に遠隔での魔術陣の展開……に使ってたはずだったから……」


 そもそも魔術陣が頭に思い浮かばない状況で魔力弾を使ってもどうせ魔術の発動はできないと思っていたのだ。

 そして、魔力弾自体を攻撃手段に使うということ自体頭に浮かんでいなかった。なにせ、圧倒的な火力、汎用性を誇る魔術に比べて、ただ魔力の塊を撃ち出すだけの魔力弾はあまりにも地味すぎる。銃のように相手を撃ち抜くといえば聞こえはいいが、本物の銃とは違って固体を飛ばすわけでもないため威力は低く、そもそも魔力の圧縮率が足りなければ相手をすり抜けたりするだけで物理的な影響を及ぼすことが出来ないのだ。

 物理的な影響を出すにはどれぐらい圧縮が必要かというと……

 体内の生成炉から作り出される『下位魔力』。

 圧縮炉にてその密度を千倍して『通常魔力』。

 さらに千倍に圧縮して『高位魔力』。この高位魔力が使えなければ【結界】は使えない。

 そんな高位魔力をさらに千倍に圧縮して『縮化魔力』。圧縮炉を限界まで使ってこれが精製できれば魔術師としてスーパーエリートレベルである。

 そしてその縮化魔力を千倍に圧縮すれば、『霊威魔力』。ここで魔力自体が光を放ち始め、物理的な作用を持つようになる。

 その上に『神威魔力』というものもあるが……人間でそれを使える人は三世代に一人いるかいないかぐらいなのでほうっておこう。

 つまり、ここまで魔力を圧縮して作った弾丸が、下位魔力でも発動できる魔術に威力で劣ってしまうのだ。

 ダメージソースが魔力弾など、ただの魔力と才能の無駄遣いである。誰も攻撃用魔術が使えないこの時を除いては……


「んで、日向。もし魔力弾が撃てたとして通用するのか?」


「しないかも。だって今、圧縮炉を通常駆動すら出来なくて縮化魔力止まりだから」


「通常駆動までいかずに縮化だと? ……ちなみに、通常駆動と限界駆動では?」


「どっちも霊威。限界だと神威一歩手前かな」


「ははっ、流石設定考案者。チート乙……って言ってる場合じゃねえええ。はあっ? 通常駆動出来ないだと?」


 快斗は目を剥き、日向の両肩を掴んでがくがく揺らす。


「おいっ、おまっ、どうすんだよ」


「どうしようもこうしようもないだろ。こうなったら逃げ回るしか――」


 二人が現状のまずさに気づき、慌て始めたその瞬間。


 バンッ


 大きな音を立てて教室の前側、黒板横の扉が開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る