第15話 選択の理由
「はぁ……」
「どうしたんだよ日向。ため息なんかついちまって」
青い卓球台を挟んで向かい合う二人。周りからはカツンカツンとボールを打つ音、ボールが跳ねる音が響いてくる。体育の授業中である。日向がサーブで打ち出したボールを軽く返しながら快斗は尋ねた。日向が何も答えないためしばしの間無言で打ち返し続ける二人。
「おっと、ミスった」
構えた方とは逆サイドに来たボールを快斗は緩く、高く返してしまう。日向にとってはスマッシュのチャンスだ。点数は九対十。快斗のゲームポイントである。
ここはしっかり決めてデュースに持ち込まなければ――
そう日向がラケットを大きく引いた時。
「ああそうか、女子の体操服姿が見れなくてガッカリしてるんだな」
「――ぶっ」
快斗の思いもよらない解釈に噴き出し、日向は盛大に空振ってしまう。カツーンカツーンとボールがむなしく床を跳ねる。
「っしゃ、ワンゲーム獲得。ってさっきの図星なのか日向」
「ちげーよ。ちょっとした悩み事があるだけだ。それよりも、女子の体操服云々は快斗が思ってることなんだろ」
「ああ、もちろんそうだぜ。」
キラリと歯を見せサムズアップをする快斗。しかしその後彼はすぐに台に手をつき、何やら叫びだす。
「だけど……今シーズンの女子の競技が体育館のものって聞いたから卓球を選んだのに、なんで卓球は体育館じゃなくて多目的ホールでやるんだよぉぉぉ」
乙です。
日向は叫ぶ快斗に心の中で合掌。曲山高校の体育の授業では、約二ヵ月ごとに行う種目が変わり、二つか三つの中から選択することになるのだが……目の前のこの男はかなーり不純な動機で今回の種目を選んでいたらしい。卓球台があるのが体育館とは長い廊下を挟んで真逆の多目的ホールだったために彼の目論見は外れたのだが。
そんな快斗は顔を上げると、拳を握った。
「しょうがない、次期まで我慢するしかないな。そんでその次は丁度夏。ってことは水泳が……」
「プール自体が無いな、この高校には」
「うわああああああ」
残酷な事実を突きつけられて再び膝を折る快斗。周りを見れば数人同じように肩を落としている男子がいた。プールが無いのは分かっていても、実際に言葉として言われるとやはり何か来るものがあるのだろう。かく言う日向も少々残念ではあった。男の性である。
そんなことをしていればもちろん教師から
「おーい、お前ら。一応授業だから真面目にやれよ」
と注意が飛んでくる。
すみません、と二人して謝り、転がっていったボールを日向が拾いに行く。
そして、二ゲーム目。日向がサーブを打ち出したその時――
打ち出したはずのそのボールはネットの直上で不自然に停止した。
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