第14話 秘密の特訓2

「今日もよろしく頼むな、結菜」


 時刻は昨日と同じぐらい、場所もまたまた橋の下。日向は結菜と待ち合わせていた。

 結菜は早速【結界】を張ると、講義を始める。


「昨日、あの後やってもらったけれど発動出来なかったですし……兄さん、魔術の基礎からやりましょう。魔術の発動に必要な要素は覚えていますか?」


「魔力とイメージだったかな」


「そうです。頭の中に思い起こすイメージ。それと、体内の魔力生成炉で作られた後圧縮炉で密度を増し、蓄えられている魔力。地域によっては魔力を魔素と呼んでいるところもありますね。ニュアンスから言えば魔素のほうが正しい気もしますが。それは置いておくとして、この二つの要素を使ってどのように魔術を発動するのかは覚えていますか?」


「確か……発動したい現象のイメージを魔力を使って世界に刻み込む、でよかったかな」


「正解です、兄さん。刻み込む方法は魔術陣だったり舞だったり人によって違いますが、やっていることは皆同じです。頭の中で起こしたいことを想像し、魔力を媒体として空間に伝える。だからこそ強い魔術を発動するには、はっきりとしていて決してぶれないイメージと、情報の伝達量に関わる魔力の密度が重要になってくるのです」


 そこで結菜は日向に疑わしげな目を向ける。


「そこまで分かっていて兄さんは何故昨日魔術の発動が出来なかったのでしょうか?」


「なんでだろう」


「まさか体調不良で出来なかったとかではないですよね。とりあえず、一回やってみてください」


 結菜にせかされ、日向は目を閉じる。

 魔術で大事なもの。その中で、今の自分が関与出来るのはイメージ。だからそれに全力を注ぐ。

 思い浮かべるのはパッシブレーダー。周りからの魔力波を受けてその方向と距離を感知する自分。丹田の奥に溜まっている魔力と思われるものを引っ張り出してきて手に移し……




「えっと……兄さん?」


 見かねた結菜に問われるまでの約三分間、日向は動きを止めたままだった。

 声を掛けられ、ハッと目を開く日向。そんな日向に結菜は再度問う。


「どうしたの兄さん。手に魔力を集めたまま、魔術の発動もせずに固まっているなんて」


 心配そうに尋ねる結菜に、日向は重い声で言った。


「結菜。やっぱり無理だ。強くイメージした。魔力の準備もした。けど世界に刻む方法ってのが一寸たりとも出てこないんだ」


「兄さんの得意な方法は魔術陣だったと思うのだけれど、その一片も出てこないのですか?」


 頷く日向。

 結菜はイメージを魔力に絡ませればどのように刻めば良いのかは本能的に分かると言っていたのだが、日向はそれを全くつかめないでいた。

 そして結局、


「また、原因を考えてきましょう。魔力が操作できないことが原因ではないことが分かったという収穫もありましたし」


 努めて明るく言う結菜。彼女がパチッと扇子を閉じると、空間が揺れる。

 再び動き出す世界。

 そして、練習は何の収穫もないままお開きとなったのであった。

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