第13話 秘密の特訓1
「おまたせー、お兄ちゃん。……ってどうしたの?」
「結菜が外なのにその口調だから、誰かに聞かれていないかと思って」
「あ……ゴホン。おまたせしました、兄さん」
そう言って結菜はにっこりと微笑む。対して日向は……まだ首を回して周囲の警戒をしていた。
「兄さん。何故私よりも周りを気にしているのでしょう?」
「だって家での口調を快斗たちにでも聞かれてみろ。絶対にあいつら『こいつ実の妹に妹キャラの真似させてるぞ。引くわー』とか言って、俺に不名誉なあだ名を付けてくるぞ」
「なるほど。ありそうですね」
二人して川の流れに目を向ける。
放課後、日向は堤防の川側、アーチ橋の下で妹と待ち合わせをしていたのであった。差し込む夕陽。赤く照らされた制服姿の二人はまるで逢引きをしているかのようで――
「それでは兄さん。始めましょう」
「なあ、本当に練習しなきゃダメなのか?」
「当たり前じゃないですか。特に兄さんは強い魔力持っているのに今は自衛のための魔術すら発動出来ないのですから」
「関わりたくないって言っても?」
「結界を認識出来ている時点で無理ですね。つべこべ言わず練習に移りますよ」
しかし、実兄妹でそんな雰囲気になるはずも無い。
一つ息をついて、結菜は自分のかばんから扇子を取り出した。それを右手でパッと開き、胸の前に置く。
「とりあえず半径二十メートルぐらいで良いでしょう。【けっ――」
結界を発動させようとしていた結菜は突然全身をビクッと震わせうずくまる。
瞬間、世界が止まる。
急に身を縮ませた結菜を見て、発動した結界なぞには目もくれず日向は妹の元に駆け寄る。
「どうした結菜っ」
「何、今の魔力波動。あんなの初めて感じた……」
「おい、結菜?」
「兄さん、気をつけて。かなり危険な人外がいるかもしれない」
「どういうことだ? 結菜」
厳しい顔をして立ち上がった結菜に日向は聞くが、しかし結菜はそれに答えない。彼女は目を閉じていて、扇子を持った右手を前に出しその場で十センチばかり浮きつつぐるりと一回転した。そしてゆっくり着地すると首をかしげる。
「いない……」
そこで目を開いた結菜は、ようやく自分の前で置いてけぼりを食らっている兄に気付く。
「あっ、ごめんなさい、兄さん。少し慌てていて忘れていました」
「そうか……まあいいや。それで何があったんだ?」
「実は今発動しているこの結界、私が発動した物じゃ無いんです」
「昨日言ってたシステムの方か?」
「多分そうです。私が発動しようとしたとき驚く程強い魔力の波動を感じたので、それに反応したのでしょう。それで、原因を探すために【
「なるほど」
【探知】の魔術は周囲の魔力波動源の場所を特定する魔術。日向は中二病時代のそれを思い出しながら頷く。
「これの結界は予想外でしたけれど、予定通り練習に入りましょうか」
「分かった」
「それじゃあ兄さん、魔術器を出して」
「魔術器ってこれでいいんだよな」
日向が取り出すのはチェルノボーグとベロボーグ。黒と白のモデルガンだ。日向が持つ二丁の拳銃を見て頷く結菜。
「そうです。魔術を使うときに負担の軽減のために媒体として使うもの。それが魔術器です。私のならこの扇子ですね」
「ち……中二病時の俺が考えてた設定と齟齬はないみたいだな」
「そうですね。一応これからも魔術の常識と兄さんの設定をすり合わせていきましょう」
自分の作っていた痛々しい設定を自分自身で見つめなおさねばならない日向の顔には苦笑いが浮かんでいた。けれど、そんな兄の表情は全く気にせず結菜はレクチャーを続ける。
「まずは、結界が発生したときに状況把握するための【
「【瞬時跳躍】はいわゆるテレポートだったと思うけど、【魔力体化移動】ってなんだ?」
「ああ、それはですね――」
結菜が答えようとしたそのとき、揺れる空間。結界解除の合図だ。
「っと、解除が早いですね。発動してからこれぐらいの時間ということは、やっぱりさっきの波動の主は結界が出来てからすぐ消えたのですかね」
そして動きを取り戻す世界。青みがかった景色が茜色に変わる。結界を体験したことがまだ少ないため日向は急変する景色に目をしばたたかせていた。対して結菜はぐるりと周りを見渡して再び扇子を開く。
「魔術に関しては誰かに聞かれていると面倒ですね。とりあえずちゃっちゃともう一度張っておきましょう。――【結界】」
再び世界は止まった。
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