第九話


下校時間に、ミウラが震える声で話しかけてきた。

「やっぱり、莉子が天才少女…」

「そんなわけないだろ。こいつが天才少女だったら、一般人はみんな神様だ。」

「…そんなに馬鹿じゃない!」

ユネラクルにいわれると、『お前だって馬鹿だろ』と言えないところがタチが悪い。

「覚えてないってことは?ほら、莉子が覚醒した時に、気が変になるんだろう?」

「覚えてないほど覚醒しないよ。そんなにすごいものでもない。単に、瞳孔がおかしくなるだけだから記憶がなくなる、なんて、非現実的なことにはならない。」

「でも、天才少女は瞳孔がおかしい気もした。」

「あ!」

ユネラクルの声に重ねるようにミウラが悲鳴に似た声を上げた。

爽がミウラの手の中の紙片を奪い取って、目を見開く。

「これ…どう見ても莉子じゃ…。」

爽が指し示したのは、天才少女の写真。犯人を学園からあぶり出すためにミウラがもっていたものだ。

「目が金色だということで、莉子が天才少女だという証明になるとおもうんだが…。ほら、瞳孔があからさまにおかしい。」

確かに、瞳孔が通常ではあり得ないぐらいに開いている。

爽が掲げたその写真を必死で覗き込むけれど、私でないという証拠はどこにもみつけられない。

「莉子の他に、こんな特性をもった人間がいると思うか?」

ユネラクルの言い分はもっともだ…。

「でも!私はそんなことはできないし、した覚えもない!」

「忘れたんじゃないのか?この事件が起こった時になにをしていたか言ってみろ。」

「う…。」

確か…土曜日の午後だったから、普段だったら…特になにをしているでもなく、寝ているか、起きていてもぼうっとしているか…。

特にアリバイもない…。

「でもっ!」

信じられない。気が狂っていたと言われてうんとうなづけるはずがないだろう。

「…。ユネラクル、そう思うんだったらこの推理の続きを言ってみろ。」

急に後ろから声がした。振り返ると、安代が立っている。

「ユネラクルには解けるのか?この謎が。」

突き出された新聞には、事件の詳細と、天才少女の推理の内容…の一部。破られているんだ。それには見覚えがある。

「もしかして…。あの新聞記事を入れたのは、安代?」

「違う!」

言った瞬間、安代が叫んで、おもわず身を引く。安代がしまったという顔をした。

「…もしかして、私の家の新聞受けに入っていた新聞のこと、知ってるの?」

「しらない。ただ…。」

最後の方で言葉を濁されるとムカムカする。

「知らないならなんでそんな反応をするの?それに…。あそこに写っていた腕は、安代のものでもおかしいわけじゃない。」

瞳孔が開いていくのがわかる。

「安代は比較的、腕が細い。」

安代の腕をつかんで、おおよその幅をはかる。7センチ。

「それに、安代は左利きだ。」

そういって、安代の手の指を交互に組ませる。左手が先になっている 。正しい。

「破り方にも同じような癖がある。」

確か、あの新聞は、まるでハサミで切られたかのように真っ直ぐに切られてあった。安代の持っている新聞を手にとってみてみる。同じ。

「安代、お前があの新聞を入れたんじゃないか?」

「おい、莉子…。お前、推理してる。」

ユネラクルに指摘され、急速に覚醒が終わるのを感じた。

「ほんとだ…。推理、してた…。」

「しかも、あっている。」

安代が諦めたような口調でいったけれど、今言われても嬉しくない。まるで私が名推理をしたようになるじゃないか…。

「…これでわかった。天才少女は…莉子だ。」

ユネラクルが宣言した。それに首を振るだけの証拠を私は持たない…。

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