バビアナのせい
~ 四月二十七日(金) 二十センチ ~
バビアナの花言葉 変わり身が早い
花の内側は真っ赤なのに、先端は鮮やかな紫色。
びっくりするようなツートーン。
そんなバビアナのお花のように。
優しかったり、意地悪だったり。
変わり身の早いこいつは
軽い色に染めたゆるふわロング髪を。
今日はお姉さん風にサイドダウンにして。
どういう構造なのやら、そこかしこからバビアナがにょきにょきと生えているのですが。
何と言いましょうか、せっかく綺麗なお姉さんなのに。
相変わらずバカっぽいのです。
「そこはかとなく穂咲らしい髪形なのです」
「そこはかとなく悪意を感じる台詞なの」
綺麗な時、バカっぽい時。
優しい時、意地悪な時。
そんな変わり身の早さばかりでなく。
バビアナの別名は、
名前まで穂咲そっくりなのです。
「そこはかとなく穂咲らしいお花なのです」
「そこはかとなく悪意を感じる台詞なの」
そんな穂咲は、今日は珍しく。
お昼休みだというのに教授ルックに身を包むことなく。
あっという間に調理終了。
……まあ、それもそのはず。
今日のお昼ご飯はカップ麺より簡単。
いや、これをお昼ご飯と呼んだりしたら。
忙しいさなかお昼を作ってくれる、全国のお母さんに失礼だ。
数日前から覚悟していたメニュー。
目の前に置かれたラーメンどんぶりに、いっぱいのお湯。
そこに、穂先菖蒲の葉っぱが浮いている。
綺麗なのか、バカっぽいのか。
優しいのか、意地悪なのか。
そんなことで悩む必要もないほどに。
実にバカで、実に意地悪なのです。
「こどもの日のネタも、さすがに尽きましたか」
「結局、何があったのか思い出せなかったの」
「そりゃよかった」
「え?」
「ああ、違った。そりゃざんねん」
こどもの日にちなんだメニューばかりが並びましたけど。
その甲斐もなかったことに穂咲はため息などついていますが。
俺のほうこそ溜息なのです。
……このお湯。
どうしろというのでしょう。
「そこはかとなく、悪意を感じるのですけど」
「まるであたしそのものなの」
このお湯のどこが、君そのものなのでしょうか?
眉根を寄せる俺の心境を察して、穂咲が言うには。
「これは穂咲ショウブ湯なの」
「これはホザキアヤメ湯です」
たしかにアヤメとショウブは同じ字を書きますが。
全然違うお花です。
だというのに。
こいつは頑固に首をふるふるとさせながら。
「穂咲ショウブ湯なの」
同じ言葉を繰り返していますけど。
人の話を聞かないやつですね。
「ですから、ホザキアヤメはショウブではないと言っているでしょう」
「勝ち負けの勝負なの。勝負服みたいなもんなの」
「……ん? えっと、何の話をしているのか一気にわからなくなりました」
俺が顔のパーツで、器用に『困惑』という文字を作ると。
「ここ一番、あったまりたいときに飲むの」
「…………ああ、勝負湯ってこと?」
「穂咲ショウブ湯なの」
「そこはかとなくバカなことを言わないでください」
「そこはかとなくあたたまると良いの」
のんきなやり取りの間中。
こどもの日の出来事を思い出せない件について、ずっとため息などついていますけど。
下手にこんなものを机に置きっぱなしにしていると。
思い出してしまうでしょうか。
「やれやれ。ではいただきましょうか」
「そこはかとなく、勝負なの」
「そこはかとなく、勝負です」
…………そんな勝負に、そこはかとなく負けた俺は。
午後の授業中、ずっとトイレに座り込んでいました。
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