ハナズオウのせい
Chinese redbud。
枝一面を赤の小花で埋め尽くすハナズオウ。
一体そこまでに肌を華美に埋め尽くし。
なんの
あるいは、未だその枝の内に。
吊るされた咎人をかくまっているとでも言うのか。
ハナズオウ。
その木に吊るされし罪人。
かの者の名は、イスカリオテのユダ。
罪状は。
――裏切り。
秋山道久は、かく思う。
その赤き妖艶な花は。
一体、何によって染められているのだろうか……。
~ 四月十八日(水) 十五センチ×八本 ~
ハナズオウの花言葉 裏切りのもたらす死
「…………この中に一人、裏切り者がいる」
女子も混ざった工作実習。
俺たち出席番号一番から六番までのグループは、絡みつくツタの不快感と、チリチリとした視線による牽制の中にありました。
皆が協力して、一つの木工作品を作る課題。
一人がみんなのために。
みんなが一つのために。
ワンフォーオール。
オールフォー・椅子。
でも、俺たちの机に完成したこれは。
誰がどう見ても赤ちゃん用の椅子。
うーん、低い。
足の長さが圧倒的に短いのです。
まあ、これはこれで面白いとは思うのですが。
とは言え設計図と完成品の差について。
説明を求められたらぐうの音も出ません。
「僕たちの椅子、足の長さが十五センチしかありません。設計図では三十センチなのに」
気弱な容疑者、江藤君が言うと。
「さて、誰のせいでこんなことになったのかな」
ヤンキー風な見た目がちょっと怖い容疑者、宇佐美さんがため息をつきます。
「材料はテーブルから移動していない以上、ウソをついている裏切り者は、この中にいるのです」
俺は、作業机の短辺を。
パイプに見立てたノギスをくゆらせながら往復します。
……鉄臭いです。
「どう考えても藍川がそんなの作るのが悪い」
お調子者の容疑者、柿崎君が言う『そんなもの』。
工芸に造詣が深い技術の先生が感嘆したそれは。
背もたれと、ひじ掛けの隙間に。
まるで欄間のごとくはめ込まれた動物たちの細工。
とても二時間で彫ったとは思えない、総勢三十頭にも及ぶ芸術品を作り上げたのは、
軽い色に染めたゆるふわロング髪をツインテールにして。
その結わえ目に三十センチほどのハナズオウの枝を一本ずつ挿しているのですが。
まだこの学校に慣れていない一年生たちに、ぎょっとされていましたね。
「うう……、ごめんなさいなの……」
柿崎君に指摘されて、穂咲はしょぼくれながら頭を下げていますが。
君は悪くありません。
「いや、穂咲のせいじゃない。俺はこいつの保護者としてずっと見張っていたので。こいつには端切れしか渡してないです」
俺が、羽織りもしていないマントをばさっと広げるような仕草で言うと。
ちょっとのんびりとした容疑者、小野さんがおずおずと手を上げます。
「でも~、秋山がひじ掛けを作っている間~、見張れてなかったでしょ~?」
「その間は、穂咲を見張ることに関しては俺と同等のスキルを要する宇佐美さんに任せていました」
そう言いながらびしっと指差した手を。
他人を指差すなと力いっぱいはたいた宇佐美さん。
涙目で痛がる俺にフンと鼻息を一つくれた後。
小野さんの目を見ながらしっかりと頷いてくれました。
「と、言う訳で。足を担当していた柿崎君が圧倒的に怪しいのです」
ヒリヒリとする手をさすりながら。
名探偵である俺がこのクローズドサークルで最も怪しい容疑者に言うと。
ほとんど作業台にいないで遊びほうけていた柿崎君は。
ムキになって否定します。
「俺は真っ先に四本作ったぞ? ヤスリがけまで完璧にして!」
「完璧に、十五センチの足を作っちゃったとか?」
「ねーよ! きっかり三十センチだった!」
うーん、そう言われましても。
実際に足の長さは十五センチしかないわけで。
あと、ヤスリがけって話が怪しいのです。
だって材料には、最初からヤスリがかかっていたでしょうに。
俺が作ったひじ掛け用の支え。
元から綺麗な棒を切っただけだよ?
…………あれ?
「う~ん~。一枚の板から作ったから~、切り方間違えた~?」
「いやいやいや! だから、俺は三十センチの足を作ったっての!」
あれ?
「……ねえ、道久君」
「な、なんでしょうか、穂咲さん」
「ひじ掛けの縦棒、十五センチだったっけ?」
……………………。
「完成品の足も、十五センチだったっけ? 足すと……」
名探偵・俺は、ついに犯人を突き止めた。
だが同時に、最大のピンチを迎えている。
「……ねえ、道久君?」
「ようし! 俺が先生を言いくるめて来るから任せとけ!」
「ねえ」
「穂咲! 君はこの動物たちの素晴らしさについて熱く語ってアピールしなさい!」
「ねえ」
「つべこべ言わない! さあ、行くぞ!」
……その十分後。
俺は子供用としか言えない椅子にちょこんと腰かけ。
一人寂しく、廊下にいました。
そんな俺の頭には。
裏切り者の証。
ハナズオウの枝が挿されていたのでした。
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