ブルーレースフラワーのせい


 ~ 四月十日(火) 正門前 入学式 ~


   ブルーレースフラワーの花言葉 無言の愛



 入学式のお手伝い。

 後輩のために、一生の記憶に残るような入学式にするのと。

 気合いを入れて、有言実行したのは藍川あいかわ穂咲ほさき


 軽い色に染めたゆるふわロング髪を。

 頭のてっぺんでお団子にして。

 そこに、ブルーレースフラワーを一本突き立てていますけど。


 青い、毛糸玉ような。

 小花が丸く群れて咲く、可愛いブルーレースフラワー。


 でも、長い茎の先に毛糸玉をぷらんぷらんさせて入学式に来た君が。

 勝手に壇上にいて、つまみ出されるその姿。



 後輩の、一生の記憶に残るような入学式になりました。



 そんなドタバタはありましたが。

 親御さんにとっては、実にめでたくて。

 そしてとっても寂しい、特別な日なわけで。


 高校生にもなってと、照れる新一年生と共に。

 正門の前で記念撮影です。


 俺と穂咲、あとクラスの数名が。

 にわかカメラマンとして、こうして正門の前に立っているのですが。


 携帯で撮った写真はすぐに確認できるわけで。

 撮り直しを気軽に頼まれ、撮影待ちの列が途絶えることはありません。


 そしてお母さんがもう一枚と言うたびに。

 新一年生たちの表情が、うんざりとしていきます。


 ……多分、去年の俺も同じ顔をしていたはずなので。

 偉そうなことは言えませんけど。


 きっと、君が大人として初めて行う親孝行。

 苦笑いでもいいから、呆れながらでもいいから。


 どうか笑顔をカメラに向けてください。


 どうしてかと言うとね。

 あなたの隣で、あなたよりはしゃぐ方は。


 あなたと一緒にいることを何よりも望んでいるのに。

 大人の一歩を踏み出して、自分から離れて行こうとするあなたを。

 こんなにも祝福してくれるのです。



 一番の親孝行なのに。

 一番の親不孝。



 だからせめて、写真の中だけでも。

 孝行してあげて欲しいのです。



 ……そんな想いが通じたのか。

 俺のシャッターの前では、皆さんが幸せそうな笑顔になって下さって。


 どういう訳か、一発OKという写真ばかりが撮れるのですが。



「……重いの」



 すぐ隣から聞こえてきた声に振り向いて。

 ようやく理由が分かりました。


「……どうしたの、それ」

「笑顔の写真がいいと思うから、連れてきたの」



 ――笑顔の方がいい。



 穂咲も、俺と同じ気持ちだったようで。

 そのことが、胸を温かくしてくれました。


「……あと少しだから。頑張りなさい」

「もちろんなの。でも、重いの」


 悲しい顔をした穂咲の肩に子猫が乗って。

 毛糸玉のようなブルーレースフラワーにじゃれついているのですが。



 カメラを向けた先では。

 お母さんと娘さんが同時に噴き出して。


 とっても素敵な笑顔を見せてくれました。




 はい、チーズ。

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