6-8【全ての死を背負い生きていかなければならないんだからな】
☆ギャンブラー
おわった。のだな。
ギャンブラーは自分の銃と倒れているパペッターを見比べながら、息を吐く。自分は、何をしたというのだろうか。
この世界に来て、成せたことはあまりにも少ない。大切な存在を殺してしまい、作戦のために仲間を犠牲にし、そしていま。私たち同じように生きようとしてる存在を殺した。
しかし、これしか出来なかったのだ。これ以外、何か解決策があるなら、むしろ教えて欲しいくらいである。
このまま待てば、きっと元の世界に帰れるのだろう。そうしたならば、自分はどう生きていけばいいのだろう。
「……これからどうする、ガードナー」
「そうだな……僕は、こうする」
ガードナー。彼女はいままでたくさんの答えを導いてきた。もしかしたら、と期待して声をかける。その瞬間、自分の周りに何か違和感が発生したのに気づいた。
「これは……」
何度も見た、ガードナーの結界が自身の周りに張り巡らされていた。コンコンと、軽い音が出るが、壊すことは不可能だろう。
このまま死ぬのだろうか。ガードナーも優勝を狙っていたのだから、おかしなことではない。強い殺気を感じ、前を向くと彼女は背中を向けていた。
「イエス。と答えたら……それを受け入れるのだろうな」
「あぁ……私は否定した……すでに一度、生きる意志……それを……!」
ちらりとみるパペッター。彼女は殺されるまで生きようとしていた。それをギャンブラーは全て否定し、殺した。
ならば、自分も生きる意志を捨てるべきだ。少なくとも、殺されるからといってそれから逃げるなんてこと、してはいけない。
「…………まぁ、そう言うとは思っていたさ」
パチン。ガードナーが指を鳴らす。その時、自身の周りにあった結界が音を立ててスゥッと消えていく。
殺さないのか。私を殺せば優勝者になるかもしれないのに。と、ギャンブラーは言おうと口を開けようとした。しかし、それはガードナーに止められる。
「そもそもだが。あくまで願いを叶えれるのはジョーカーを殺した奴だけだ。債務者。キミはジョーカーか?」
「……違うな」
「ならば、生きろ。キミにはその義務があり……そして、それをしなけれな死んでいった者たちに対する冒涜だ。キミは今日からここの全ての死を背負い生きていかなければならないんだからな」
「……ならば、お前は……?お前も生き残りだろう。その言い方……まるで……!」
まるで自分は今から死ぬとでも、そう伝えてるように思え。いや実際そうなのかもしれない。ガードナーは……
「一つ勘違いしているようだが……僕は死ぬ気は無いからな。僕を誰だと思っている?」
「……天才、だろ」
「正解。だからこそ……早く行け。ほら、あそこ」
ガードナーが指差すその先には、いつのまにか大きな扉が出現していた。それはこちらに来いと、誘っているように見える。
「債務者。いや、せっかくだ……ギャンブラー。また会える日まで」
「……あぁ……またな。ガードナー」
ギャンブラーは歩き出す。扉に向かって……新しい、生がその先にあると信じて。
◇◇◇◇◇
☆ガードナー
「いった、か」
ギャンブラーが消えた後、ガードナーは息を吐く。きっとこれでいいのだ。ギャンブラーは願いを叶え生き残れる。
そして僕ももちろん、生き残れる。
「……そこにいるんだろう」
何もない虚空に声をかける。返事は一つもない。が、ガードナーはため息を吐きつつ、指を突き出す。
「出て来なければ、ここら一帯を結界で爆破するが」
「……さすがにそれはきついかなぁ」
すると突然。何もない空間からスゥッと1人の人間が姿を現してきた。いや、正確に言えばあたりにいる細かい肉片がそこ一つに集まっている。
そこにいる人間。彼女はパンパンと肌についてる砂をはたき、そして一糸まとわぬ姿で、こちらを見てにこりと笑う。
「はぁい。ガードナーちゃん。お久しぶり」
「……やはり生きていたか、ジョーカー」
ジョーカーはくすくすと笑う。彼女はゆっくりとこちらに近づいてきて、ガードナーの肩を叩く。
「なんで生きてるって思ったの?流石にあれで生きてるなんて、思わないんじゃない?」
「簡単さ。キミが得た再生能力……それは生半可なものじゃない。そんな存在をここの運営がみすみす捨てる選択肢を選ぶとは、思えないからな。それに、ギャンブラーを結界で囲ったとき、一瞬僕に殺気が突き刺さってな。流石にそれでわからないのはいないだろ」
「なるほどねー……うーん。まぁ、的はいてるかな?そうだよ。ジョーカー……いや、私はここの運営様に助けてもらったんだ。まぁ、それがなくても完全に死ぬことはなかったけどね」
「化け物だな」
「化け物だよ」
半分以上は賭けだったが。どうやら、成功したようだ。ここの運営が何を考えているか、ガードナーは一度考えた。
答えは一つ。なにかの実験だろう。だから死者を採用してこのゲームを開いた。つまり我々はゲームのデバッガーなのだ。
その中で生まれたジョーカーという不死の存在。これ以上ない最高の存在だろう。それを見落とすはずなんて、ない。そう踏んだ。
結果、正解だったわけだ。
「で、なに?私を呼んだ理由ってのが、あるんだろう?」
「もちろん……どうだ、僕を雇わないか。もちろん雇わなかったら——」
ガードナーはジョーカーの方に指を向ける。その指とガードナーの顔を見比べて、ジョーカーは小さく笑った。
「……脅し?」
「違う。お願いだ。お願いだから、このかわいそうな僕を雇って助けてくれないか?この天才的な頭脳をキミ達に使わせてやろう」
「下手に見えて上から目線なの、私は好きだよ……はぁ。まぁ、いいや。いいよ。私から頼んでみるよ」
ジョーカーはそういって手を差し出してきた。それをガードナーは払いのける。
この選択はきっと間違っていない。最善の、最良の選択なはずだ。ギャンブラーと違うルートで、生きてやる。
「……一応言うが、キミがやったことは許してはない。背後と夜道には気をつけるんだな」
「1度も許してなんていってないから、それは多分杞憂で終わるね」
「言ってろ」
ジョーカーの前をガードナーは歩き出す。背後で彼女が「まってー」と声をかけてくるが、ガードナーは聞こえないふりをする。
新しい生だ。この僕の天才的な頭脳と施設さえあれば、きっと——
(……僕も甘い、な。ブレイカー……。笑ってくれるなよ)
その瞬間。2人の姿は消えた。そこには戦いの跡が残っていて、もう人の気配は一つもなかったのだった。
【ガードナー……生存】
【ジョーカー……復活。及び生存】
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