6-7【というわけで——】

 ☆パペッター


「ふぅ……」


 汗をぬぐい、呼吸を落ち着かせる。ここまでうまく事が運ぶなんて思ってはいなかった。パペッターのスキルで操る。これはの手段であった。


 では何故それをしなかったのか。理由は簡単。パペッターのこのスキルをあの様な場で発動することは、いわゆるタブーなのだ。


 なんせそれをしたら勝敗は決まってしまう。ジョーカーという、運営のために動く存在ならば、そんなチートはしてはいけない。


 しかし、してしまった。死にたくないから。たったそれだけの理由で。死にたくないから、禁忌を犯した。


「あはは……は、はは」


 このあとゲームマスターに何をされるか想像すると、体が震える。この行為はただの延命処置。つまりこの先に待つのは、——


 なんでこうなったのだろう。子供の頃からの記憶は施設で育っただけ。その前の記憶はない。母も父も、どこにいるのか何一つわからない。


 ただ、育てられただけ。このゲームでこの役目をこの先背負うために、まるで育成ゲームのように育てられただけ。


 こんな人生、いやだ。そうだ。いやだ。決められたレールの上を進むだけなんて、そんなの嫌に決まっている。


 生きよう。この先、何が何でも生き続けよう。そう決めたパペッターは腕を上に突き上げた。


 とにかくこの場の二人を殺すしかない。そして、私が優勝した。願いは外に出る。それでいい。そして、逃げ続けるんだ。


 いや、願いは自由にして!でもいいかもしれない。それでいいじゃないか。願いは平等に。さらば自由も平等に訪れるべきなのだ。


 そうだ!今から始まるんだ。私の、私らしい。私だけの、人生が!!


 ダァン——


 乾いた銃声がその場に響いた、


 ◇◇◇◇◇


 ☆ギャンブラー


「え、か……?」


 パペッターが血を吐いてその場に倒れる、何が起こったかわからないと言いたげな顔だったが、それを理解するのは、ギャンブラーの手にある銃を見て気づいただろう。


「な、に……が……なん、で……?」

「……つまり。僕は天才で、僕等は強く進む意思があるってだけだ」


 そして、パペッターはようやく気づいたのだろう「あっ」と短い声を出して、その場から逃げるように匍匐しながら後退する。


 ……ここまで成功するとは思わなかった。パペッターのスキルは文字通り人形しか操れない。それだけだった。


 だからこうするしかなかった。


「痛かった。泣き叫びたかったさ……けれど、それはしない。なんせ、キミのスキルを封じるにはこうするしかないからね」


 ガードナーは片腕だけを挙げる。いや、片腕しかあげられないのだ。もう片方の腕は、すでにこの世にないから。


 それはギャンブラーも同じ。つまり、自分の体をわざと破壊したのだ。ガードナーのスキル。結界の効果で、片腕を爆発させた。


「狂ってる……!こんな。こんな事……!!」

「何があっても進む意思……それこそ狂わないとできないこと……」

「っ……!?」

「ギャンブラー、やれ」


 ガードナーがそういう。そうだろう。ジョーカーを倒さなければ、このゲームは終わらないのだ。


「いや。やめて……!いやだ……!死にたくない、死にたくない……!たくさん見たいものがある!やりたい事がある……!ね、ねぇ!お願いします!殺さないで、なんでも、なんでもしますから!」

「それはできない……お前はここで死ぬしかないんだ……!」

「な、なんで……いやだよぉ……ただ、私はやることをやっただけなのに……いや、だよ……いや、いや……!」


 パペッターは泣き始める。その悲劇の幕を下ろすのは、ギャンブラーの銃弾だった。


 額を撃ち抜かれたパペッターは小さく「いや……」とつぶやく。最後にピクンと動いた後、彼女はピクリとも動かなくなった。


 どくどくと広がっていく赤い血は、まるでパペッターを殺した自分を非難しているように見えて、ギャンブラーは手から銃を落とした。


 ペチャリ。血が跳ねて、それが辺りに飛び散る。頬を撫でると、そこには赤い血がべったりとついていた。


 こんなに達成感がないのは初めてだ。そんなことを思っていると、突然メールが鳴り響く。あぁ、そうか。


「……終わり、だな」


 ◇◇◇◇◇


【メールが届きました】

【パァンと響くファンファーレ!裏切り者パペッターをお仕置きしたギャンブラーに拍手!!】

【というわけで——優勝はギャンブラーだ!おめでとー!】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る