夜
6-1【このゲームのルールを覚えているか?】
☆ギャンブラー
「……終わった、のか」
今だに残る爆発の跡を見ながら、ギャンブラーはつぶやいた。クリエイターは自分の身を犠牲にしてジョーカーを倒した。
そんなこと、ギャンブラーはできない。しかしクリエイターはその道を選択した。彼女の話が正しいなら、はるか年下なのに、だ。
ジョーカーを倒した。故にこの馬鹿げたゲームを終わりを迎える。このゲームのルールはジョーカーを倒したら、終わりなのだから。
大切な記憶なるものは、ギャンブラーは消されてないのは知っている。だから、このまま進んでもなにも問題はない。
願いを叶えられなくても、それでもいい。そのことは他のメンバーもそう思っているようだった。
早く帰りたい。そう思い、自分の手にある銃を見る。ガンナーと出会った軌跡が、そこにはあった。
彼女とはもっと仲良くしたかった。それはもう叶わない夢なのだが、ここで起きたことこそが、今。ギャンブラーの中では一番大切な思い出となっている。
——しかし——
「あまりにも……遅くないか……?」
「……確かにな」
ジョーカーが死んだ。なのになぜ、元の世界に帰れないのだろうか。少なくとも、何かアクションがあっでもいいはずなのに。
確かに殺したのはクリエイターだ。だが、ジョーカーは倒されたのだから、元の世界に帰すか、それが無理でもあの時のマスクの男が現れるはずなのに。なぜ。
「……まさか……」
「ガードナー……?」
「……最初から疑問に思っていたことがある。少し、話を聞いてくれないか」
◇◇◇◇◇
☆???
ガードナーが顎に手を置きながら、歩き出す。彼女はどうやら気づいてしまったらしい。とは言っても、私自身嘘は苦手だから、バレるのも時間の問題だったが。
「僕はいろいろなことを考えた……それを話す前に、疑問点を並べていこうと思う」
「疑問点……?」
ファイターが言うと、ガードナーはコクリと頷いた。ガードナーは確か天才だった。疑問点はかなり多いだろうし、なんならここにいる人間はみんな死んでることも見抜いているだろう。
「まずこのゲームのルールを覚えているか?」
「えっと……たしか、ジョーカーを殺すこと、ですよね」
「あぁ。だから僕たちはあのジョーカーを殺そうとした。しかし——なぜジョーカーなんだ?」
成る程。いいところをついている。
「ゲーム性を持たせるなら……普通に考えて、ジョーカーというクラスは作らないはずだ」
「だが……あのジョーカーは運営が作った存在だろう?戦闘力もあったし……バレても問題なかったのではないか?」
「ふん。バカが……いいかバレてはいけないんだ、ゲーム性を持たせるためには。僕ら自身、一致団結するのは遅かった。しかし——ゲーム序盤で僕らが手を組んでジョーカーを襲えば?1対17なら、流石にジョーカーと言えども死ぬだろう」
「……なっ……ま、まさか……!!」
「……そうだ。ジョーカーはいわば狂人。真のジョーカーは……この中にいる」
ざわめきが広がっていく。もし私がひょうきんものなら、ここで口笛の一つでも吹いていたところだ。
少し心がワクワクしてくるのを感じた。このまま種明かししてもいいが、流石にそれは興ざめというものだろう。
「……ジョーカー……真の、ジョーカー……?」
「認めたくないさ。が、しかし。それは事実だと僕は考えざるを得ない……真のジョーカー。僕は大体の目星はついている……そうだろう?」
そう言ってガードナーは私を指差した。もう隠すこともできないし、どちらにせよそろそろ正体は明かす気でいた。
しかしなるべくこころを落ち着かせて——なに言ってんだこいつのように演じる。もう少し、
「——私、ですか?」
◇◇◇◇◇
☆ファイター
「わ、私がジョーカーだっていうんですか!?」
ガードナーに指さされたパペッターが取り乱す。それもそうだ。突然お前は敵認定されたら、誰だっていい気分はしないはずだ。
ガードナーを止めるために彼女に近づく。これ以上聞いてられないから。
「ガードナー!パペッターがそんなことするはずが……」
「バカが……まぁいい。一つずつ順序立てて説明してやろう」
「…………」
「まず一つ。こいつのスキルは人形を操る。だというが、どうやら人形がなくてここでは使えないらしい。そんなミスあり得るのか?いや、それはありえない。こんなに大掛かりなことをやる組織が、そんなこと気づかないわけがないからな」
「ミ、ミスは誰にだって——!」
「次に……セイバーだ」
「セイバー?」
思わなかず出された名前に対し、ファイターは混乱する。なぜここで彼女の名前が出てくるのか。セイバー自身。さっきから黙って話を聞いているだけなのだが。
「……セイバーはおそらくこいつの手の中にある。人形を操るというのはその言葉の通り……人の形をしたものを操ることだ」
「……なんでそう思うのですか?」
「ブースターだよ。ブースターを殺したのは、明らかに違和感しかなかった。それこそ操られているかのような——どうだ?まだ反論はあるか?少なくともキミは……なにか、隠し事をしてると思うのだが」
パペッターは口を閉ざした。何か言葉を探しているのだろうか。いたたまれなくなり、パペッターの名前を呼ぼうとした。
その時だった。
「……ま、そこまで気づいてたら仕方ないですね」
「……えっ?」
パペッターは大きなため息をついた。手をグイッと動かすと、まるで糸の付いた人形のようにセイバーが動き出す。
パペッターを守るように立つセイバー。その光景を見てガードナーは鋭く睨みつけていて、ギャンブラー小さく舌打ちを。そしてファイターは口を小さく開けていた。
「……どうも、改めまして。私、パペッター……そして、ジョーカーでもあります。少しだけ、よろしくお願いしますね?」
彼女はそう言って礼儀正しく頭を下げた。しばしの間、沈黙がこの空間に広がっていたのだった。
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