5-12【そんな戯言、聞きたくないっス!】
☆轟加奈
子供の頃から、機械いじりが好きだった。親が工場の社長を務めていたから、その影響が大きい。と、思う。
いろんなものを作った。親に褒められたら、また作って、また作って。何個も何十個も、壊れたものもあった。それでも達成感はあった。
「おとーさん。今度作りたいものがあるんスよー!」
「そうかー!いいぞ、加奈のためならなんでも買い揃えてやる!」
「ええ。私も応援してるわ!」
いい父を持った。いい母を持った。毎日が、毎日が楽しかった。嫌な事なんて、一つもなかった。
色々なものを作るのは楽しい。つい先程、ここに来る前に父からもらった部品が入った箱を大事そうに抱えながら、開発室に歩いていく。
「……ん?」
「おや。これはこれは……可愛いらしいお嬢様ですね」
その時、奇妙な格好をした男性と目があった。確かアニメとかで見た仮面パーティによくあるマスクをつけてはいるが、もしかしてお客さんかもしれない。そう思いとりあえず会釈をする。
「……もしかしてお嬢様は機械いじりがすきで?」
「……うん」
「それはそれは素晴らしい!我々はそれを応援しましょう……では、こちらをどうぞ」
そういって男性は何かパーツを渡す。緑に輝いていて、とても綺麗だった。こんなものをもらえないと顔を上げた時、そこにはもうその男性はいなかった。
「……あれ?」
疑問を思いつつも、そのパーツを早く使いたい一心で足を早くする。工場の一室を借りてかちゃかちゃといじるのは楽しい。自分の世界に入って、いろんなことに集中できるなんて、幸せ以外のなんでもなかった。
今日作るのは簡単なロボット。色々と複雑だから、うまく作れるかはわからないけど、これが失敗しても次はあるのだ。
それにこのパーツを使えばすべてがうまくいく気がする。そんな魔力が、これに込められていた。
「おーい!加奈!首尾はどうだー!」
「少し休憩しない?お菓子あるわよ」
「おとうさん!お母さん!まってて、すぐあけるっス!」
大好きな父と母の声を聞き、加奈は勢いよくドアを開ける。幸せだな。そう思って、加奈はニコリと笑った。
その時、何か揺れるような音が聞こえた。後ろの作りかけのロボットからであり、加奈は後ろを振り向く。
「————えっ」
「あ、あぶない!」
光が世界を包んだ。両親が突然加奈を突き飛ばす。遠く離れていく二人を見ながらも、加奈は手を伸ばした。
その瞬間。轟く爆音。揺れる世界。煙に包まれていく両親の姿を見ながら、加奈は意識を失っていったのだった。
◇◇◇◇◇
☆クリエイター
なんだか、懐かしいことを思い出しているな。そんなことをふと、考えていた。もしかしてこれが消されていた記憶なのかもしれない。
あの頃は楽しかったんだろう。だからこそ幸せな記憶。消されてしまった記憶。今思い出すなんて、今からやろうとすることをやめたくなってしまう。
けれど、これは覚悟の道を進んだ結果だ。ソルジャーが教えてくれた、その道をそれる意味なんてない。
「成る程ねー……クリエイターちゃん。死なば諸共ってやつ?」
「逃がさない……っス……絶対!」
「逃げれないよ。レンチがお互い繋いでるし……」
ジョーカーだって生きてるんだ。絶対に死なない事なんて、ありえない。だからこそのこの選択肢だ。
やろうとしてることは単純だ。ジョーカーを改造する。改造内容はただ一つ。彼女を人間爆弾に変えることだ。
自爆を強制する。それに巻き込まれる形でクリエイターは死ぬだろう。しかしそれしか選択肢はないのだ。
クリエイターがこうしなければジョーカーはおそらくこの場にいる他の人間を巻き添えに選ぶだろう。ならば、そうするしかない。
「ク、クリエイター……!」
「くるなぁ!!」
近づこうとするファイターたちを声で止める。きたら、この行動の意味がなくなってしまう。
これをするのは一人でいいんだ。それだけでいい。
「……あっ」
よく見たら周りに結界が張られていた。ガードナーは気づいていたのだろう。こういうことをクリエイターがするということを。
これで邪魔は入らない。もうなにも迷う必要なんてない。だから見ていてほしい、ソルジャー。私の覚悟を。選んだ道を!
「すごいねクリエイターちゃん。本当に覚悟だけでジョーカーを倒すなんてね。ソルジャーちゃんが言った通りだよ。でもさージョーカー殺す意味ないと思うよー?」
「これで終わるんスよ……何もかも、全部……!そんな戯言、聞きたくないっス!」
「思考ロックは怖いなぁ……まぁいいや。ねぇ、一つおしえていいかい?」
ジョーカーが何か言おうとしている。が、そんなこと聞く意味なんてない。なにを言っても、それは全部自分の心を乱そうとするというジョーカーの作戦だ。
クリエイターはジョーカーを睨む。その目を見たジョーカーは確実ににこりと笑った。そして、耳に口を近づけて小さく呟いた。
「————」
「——えっ」
今。なんて言った……?
「それって、どういう……!!」
「あはは!そのままの意味さ。まぁ、私は死ぬし、いいんじゃない?じゃ、その覚悟いいと思うから来世では頑張ってねー!」
「まっ、いや——!それじゃ、自分何のために——!」
「はい!お疲れ様ー!」
ジョーカーは大声で笑い声をあげる。だめだ。ここで終わるなんて、ダメだ。早く、早く伝えないといけない——!
その瞬間。爆音が耳の中に入ってきたと思った時には、すでにクリエイターの体も、ジョーカーの形もすべて消えて無くなっていたのだった。
◇◇◇◇◇
☆轟加奈
「……おかーさん?おとーさん?」
彼女はゆっくりと起き上がる。あたりを見るとあたりが何か大きな爆発が起きたかのように散らばっていた。
それだけじゃない。目の前に転がっている、二つの黒く焦げた何か。それを見た時、認めたくないのに。それの正体がわかってしまった。
ちらりと作りかけていたロボットの方を見る。が、それはもう形がなかった。やけた、鉄のような匂いがそこから漂っていた。
……そうか。全てを理解した瞬間、加奈は膝から崩れ落ちる。パーツというのは勿論使い方を間違えると危険なことになるものもあるだろう。それがたまたまあのマスクの男が拾い、それがたまたま加奈の手に渡り、それがたまたま爆発を引き起こしたのだ。
ピロリン
そんな時メールが届いた。スマホに視線を向けると、そこには一つ。短いが何か文章が書いてあった。
「……願いを叶える……?」
はっきり言って子供のいたずらか何かだろう。しかし、その時の加奈は何かにすがりたい気分だった。
流れるようにタップして、参加のボタンに触る。これで父と母を助けることができるはずなのだ。
ピロリン
またメールが来る。内容は【今から迎えに行きます】とだけ書かれていた。何なのだろうと思った瞬間、なにかが頭にあたる。
上を見るとパラパラと天井から何かのかけらが降って来る。やばい。慌てて逃げ出そうとしたその時。
彼女の世界は幕を閉じたのだった。
◇◇◇◇◇
【メールが届きました】
【すごーい!機械バカがあのジョーカーを倒しちゃった!すごい!これは普通に考えられないことだ!!まぁ二人とも死んだんだけどねー!】
【後は5人だっ!兎にも角にもジョーカー討伐お疲れ様ー!】
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