5-11【今日のご飯何にしようかなー】

 ☆ガードナー


「…………それは本当か?」

「こんな場で、嘘を言うほどユーモアに富んでる自信はないっス」


 クリエイターはそう言って震える足を叩きながら立ち上がる。彼女は目が覚めて一言「勝ち筋を見つけた」と、宣言していた。


 内容は聞いても、彼女は答えてくれない。あぁ。と、ガードナーはどこか遠く納得している自分に気づいた。


「……なにをするつもりかはわかりません。けど——」

「止めないでくださいパペッターさん……もう、決めたんス。自分は進むって」


 クリエイターはそういいながら、落ちているレンチを拾い上げた。彼女はそれをじっと見つめていた。体も震えているようで、大粒のあせも流していた。


「クリエイター。今ならまだ戻れる。そんなことはやめろ」

「優しいっスね、ガードナーさん……あの子とお似合いなのに」

「……お生憎様。僕はノーマルなんでな。そういうのはお断りさ。それ以前に、あんなクソ猫、仲良くする気なんてない」

「……ふふ。一回も、クリエイターさんのことなんて、言ってないっスよ」

「……」


 クリエイターはにこりと笑う。そんな彼女に目を合わせれることはできずに、ガードナーは視線をそらす。


「自分がこれをしないといけないんス。だって他の人に押し付けるなんて……できないから。だから……」


 ◇◇◇◇◇


 ☆ジョーカー


 圧倒的すぎた。何もかも、全てが。


 傷は五秒で元通りになり、敵の動きはすべて目で追うことも可能。さらにそんな敵より早く、敏捷に、動くこともできた。


 つまらない。チートを使って勝ってもなにも楽しくないように、ジョーカーはだんだんとかの戦いに楽しみを見出せなくなってきた。


 最初はハイになっていた。圧倒的な力を手にした時、すべてが下に見えて優越感に浸れていた。しかし、それが終わった後。残るのは虚しさだった。


 ファイターとセイバー二人の攻撃、当たっても痛みは一つも感じない。焦りもなく、ただただ作業をしている。という感覚に襲われるだけ。


(あー……今日のご飯何にしようかなー)


 戦闘と全く関係ないことを考える。それくらいなのだ。ジョーカーにとっての今の戦いというのは、その程度のことなのだ。


 セイバーの一太刀。ファイターの一撃。避けるか避けないか、考える意味すらない。なんせどう転んでも意味はないのだから。


 もうめんどくさい。全部さっさと終わらせよう。ジョーカーはそう考えた。その時だった。


 風を切り裂いて、何かが飛んでくる。ジョーカーはそれを思わず掴んでしまっていた。瞬間、体に走るピリリとした感覚。


「——へぇ」


 その手にあったものをジョーカーは握りつぶす。飛んできたのはとても小さくなってはいるがどう見てもブレイカーの武器だった。


 自身の強さは実質クリエイターのスキルによるもの。なるほど確かに、これでジョーカーのスキルを剥ごうという作戦なのだろう。


 だが残念。全てを剥ぐことなんてできなかった。ジョーカーはそれが飛んできた方に視線を向けると、そこにいたのはあの少女だった。


「クリエイター……!クリエイターちゃん!!」

「はぁ、はぁ……あんたを倒すのは自分っス……!」

「いいねいいねいいねいいねぇ!!クリエイターちゃんならこの胸の感じ、ムラムラ!イライラ!!全部!!!解消させてくれるよねー!!!!」


 ジョーカーは走り出す。少しだけスキルの効果は減ったが、それだけだ。もとより大した差はない。


 クリエイターに向かってトランプを振り下ろす。その攻撃で、クリエイターの片腕は切り落とされた。これにより、クリエイターはもう両腕がなくなる。


 なぜ避けない——?


 疑問が出てくる。片腕しかないならば、そこを死守するだろう。なぜ、そうやって自分が不利な状況を作る意味は、あるのか?


「つまらないなぁ……期待だけさせといて……!!」

「本番は、これから……!」


 クリエイターは叫ぶ。そして、ジョーカーに頭突きを繰り出した。そんな攻撃耐える事なんてない。痛みは薄い。


 しかし、全身に違和感を感じる。まるで自分の体に、なにか違うものを入れられているかのような。この感覚は——


「……なるほどねー」


 下を向く。彼女の足から何かが生えていた、いや、生えるように設計したのか、自己改造で。


 レンチ。それがジョーカーの体に深々と突き刺さっていた。なにをしようとしてるのか、それは次の瞬間にわかったのであった。

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