5-10【覚悟もクソもない、ただのガキっス】

 ☆ギャンブラー


 今目の前にいるそれは、人間なのか。魔法少女なのか。それとも、悪魔なのか。もうそんなことわからなかった。


 ソレは、ニヤニヤと笑いながら、ゆっくりとこちらにちかづいてくる。逃げるべきだというのは、わかるが。しかし、足が動かない。


「ぐぅ……逃げないと……!」

「自分が時間を稼ぐっス」


 クリエイターはそういい変身をした。瞬く間に変わっていき、彼女はまたあの時のヒーローのスーツに変わっていた。


 ダンっとクリエイターは駆け出す。ギャンブラーも慌ててサイコロを二つとも転がすが、出た目は2と3。強い効果は望めない。


 クリエイターが刀を振り下ろす。その一閃は確かにジョーカーの片腕を斬り落とした。ぐしゃりと音がなり、ソレは地面を転がる。


 体を低くしクリエイターは拳を突き出してジョーカーを殴り飛ばす。何一つ抵抗を見せることなく、彼女は大きく吹き飛ばされた。


 まるで人形のようにその場に転がるジョーカー。これで終わりかと安心しきった瞬間、ぐんっ!と、ジョーカーは突然立ち上がった。


 自分の斬り落とされた腕の切断面に彼女は手を当てる。すると、一瞬のうちに、そこから腕が生えていた。


「そ、そんな……!」

「ふーん……なるほど、耐久性は大体わかった。んじゃ次は……!」


 ジョーカーは走り出した。いや。飛んだ。と、形容する方が、正しいのかもしれない。一瞬のうちにクリエイターの前に立った彼女は、空中にクリエイターを殴り飛ばす。空を見上げた彼女はニヤリと笑う。


 空に浮かばされたクリエイターに向かってジョーカーは飛ぶ。そのまま、彼女の首を掴み地面に投げ飛ばした。


 ゴシャァ!と、地面をえぐりながら転がるクリエイター。立た上がり刀を構え、ジョーカーを迎え撃つ準備をする。


 トンっ。綺麗な音がなりジョーカーが地面に降りる。そして一瞬の間。空気が頬を撫でる。その間だけ、束の間の休息だった。


 それを破るジョーカー。クリエイターに向かってトランプを突き出す。彼女はそれを刀で迎え撃つ——が、しかし——


 パキンッ


 刀が空中を舞う。それをクリエイターは目で追ってしまった。そして、その瞬間、クリエイターの片腕が斬り落とされた。


「本当に——チェックメイト!!」


 ジョーカーはクリエイターを蹴り飛ばした。ゴロゴロと転がるクリエイターは、やがてベルトが外れて変身が解けてしまう。


 ベルトからは煙が上がっており、もう使えものにならなくなったという事実を淡々と周囲に知らせていた。


「あはは……!そろそろ夜になるし……さっさと殺させてもらおうかなぁ……!」


 ジョーカーは、笑った。


 ◇◇◇◇◇


 ☆クリエイター


「クリエイターさん!!しっかりしてください!!」


 痛い。


 全身がボロボロになり、体がもう悲鳴を上げ続けている。そしてそれは、もうこの状況を打開できるすべがないことを、生々しく伝えていた。


 精神すら改造したはずなのに、だんだんと恐怖に侵されている自分がいるのに気付く。あんなに覚悟を決めて前に進もうとしたのに、だ。


 折れたソルジャーの刀は、また使い物にならない。頼みの綱のヒーローのベルトも壊れてしまったようだ。


「セイバー!とにかくここを抑えるぞ……!」

「……あぁ」


 ファイターとセイバーは立ち向かっていく。彼女達ではきっとジョーカーを倒すなんてことはできない。


「弱すぎる……まぁ、いいや!」


 ジョーカーの一撃がファイターを襲う。彼女たちはもう、ジョーカーに殺されるだけしかないと言うのか。


(もう……諦めていいっスかね……)


 クリエイターは目を閉じる。必死に名前を呼んでくれるパペッターの言葉は無視しながら、ゆっくりと意識を夢の中に落としていく。


 その時、ゆっくりと思い出していった。おそらく消された記憶であろうもの。


 笑っていた。クリエイターの手にあるのは、小さな機械。それを持って自分は笑っていた。あぁ、なんて幸せなんだろう。そう感じ取れた。


「諦めるんっスか」

「……」


 突然声が聞こえてきた。目の前の笑っている自分から、そんな冷たい声が聞こえてきた。夢の中くらい、優しくしてほしいものだ。


「止まるんスか?」

「……もう、止まるしか方法はないっスよ。自分は精一杯やった。だからもう——」

「それでいいのか貴様は」


 自分のじゃない声が聞こえてきた。ガバッとその声がする方を向くと、そこには影があった。その影はゆっくりと近づきながら、口を開ける。


「貴様はそれでいいのか。本当に満足するのか?覚悟の上に、成り立った結果か?」

「……自分は、あんたとは違うんスよ。覚悟もクソもない、ただのガキっス。だからもう——」

「——己が道を作らないと言うならば——」


 その影はゆっくりと歩き出す。クリエイターの横を通り抜けて、それでもまっすぐと。彼女は止まることはしなかった。


 待って。と、声をかけようと手を伸ばす。しかしその手は何も掴むことはなくて、ただただ影が遠くに消えていく。


「——わたしの道を進め」

「っ……!!」

「少なくとも貴様は……本当にこれで終わりでいいと決めたわけではあるまい。ならば、進め!道が見つからないと言うなら先に歩み見つけてやろう!覚悟がないなら、我が見せつけてやろう!!……道、覚悟!あとは貴様の意志だけだッ!どうする、クリエイター!!」

「……自分は……ははっ。そうっスよね。あなたに会ったときから、決めてたっスよね……覚悟を決めるって……進み続けるって……!!だから——!」


 クリエイターは走り出す。自分の姿も。そして、あの影も通り抜けながら。もう、決めたから。進む道も、覚悟も。そして。それをやり遂げるという意思も!だから——!


「そこで見といてくださいっス……!」

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