5-9【ジョーカーは勝ち筋を追いかけるよ】

 ☆クリエイター


 大丈夫。大丈夫——


 クリエイターは物を改造するというスキルを見た時、最初にこう考えた。人間も改造できるのではないか、と。


 できるのか?という疑問はだんだんとできるはず。というところに行き着いていく。そしてやって見た結果、あっさりと成功した。


 ——いや、あっさりと成功はしてはいない。自分に一度レンチを入れて見た時、身体中に走る悪寒と違和感。


 それが落ち着いてきた後は、まるでインフルエンザにかかったかのような感覚に襲われる。頭痛に吐き気。そしてうまく立つことすらできない。


 今でもそうだ。気を抜いた瞬間、体がバラバラになっかしまうようなそんな感覚が、ある。しかし、逃げるわけにも諦めるわけにも行かなかった。


 だって。立ち止まることはできなかったから。それは許されないのだ。ソルジャーの刀を構えながら、クリエイターは息を吐く。


「……みんな、ここからは……自分に任せて……くださいっス……」

「そんなことできるか!一対多数の方が圧倒的に有利!俺たちとともに戦お——」


 息まくファイターの肩をガードナーは叩く。彼女はわかってくれたようだ、多数で戦う意味のなさに。


 クリエイターの強さは今、自分自身でよくわかる。おそらく——今この場にいる全ての魔法少女より強くなっている。


 だから言い方が悪いが……初めて戦闘するクリエイターからしてみると、共闘というのはなんともやりにくいことになる。つまり、邪魔だというわけだ。


「ははぁ……♡いいよいいよ……クリエイターちゃん……もっとジョーカーを楽しませてよぉ!!」


 ジョーカーは息を吐いた後、一瞬で駆けだす。視界から消えたその間だけで、ジョーカーはクリエイターの前に現れていた。


 振りかぶり、そのまま振り下ろされるジョーカーのトランプ。クリエイターはそれを刀で受け止める。


 刀が揺れて、トランプが出してはいけない音を出した。振動はクリエイターの前進に駆け巡り、刀を持つ手が痺れる。


 思わず手を離しそうになるが、それを気合で堪えるクリエイター。そのまま、刀でジョーカーを弾き飛ばす。


 ジョーカーは空中で器用に回転し、地面に降り立つ。接近戦は叶わないと踏んだのか、距離を取りつつトランプを投げてくる。


 それら一枚一枚を刀で弾く。弾くことができなかったトランプはクリエイターのスーツの装甲に傷をつけてしまう。


 もしスーツを着てなかったらと考えるとゾッとする。痛みはないが、しかし。十分な恐怖心は与えれた。


 ——と、ジョーカーは考えているはずだ。しかし、違う。クリエイターは身体能力じゃない。精神すら自己改造を施してある。


 つまり恐怖心すら、彼女にはない。あるのは、前に進むという精神のみ。刀を構えながら、クリエイターは走り出した。


 無数のトランプの弾幕はクリエイターにまっすぐと進んでいく。装甲に傷はつくが、ダメージはない。ならば、進まない道理はない。


「やるね!クリエイターとヒーローとソルジャーの力が合わさって最強に見えるよ」

「減らず口を叩く暇はあるんス……か!」

「ないねぇ……だからこそ、ジョーカーは勝ち筋を追いかけるよ」


 ジョーカーはそう笑いながら、トランプを投げるのをやめてトランプを構えて飛び上がる。空中から飛び降りながら振り下ろすトランプの一撃。


 それをクリエイターは後ろに飛びのき避ける。地面をえぐるトランプは、その土でクリエイターの視界を遮る。


 しまったと思った瞬間、クリエイターの体に衝撃が走る。突き刺さっているのはジョーカーの足。蹴り飛ばされたクリエイターは、地面を転がり飛ばされる。


 立ち上がろうとしたタイミングでジョーカーはクリエイターの足を払う。バランスを崩し倒れ、地面に顔を打ち付けた。


 ジョーカーはクリエイターの首筋にトランプをつける。彼女のトランプが鋭利なことは、誰でも知っている。もしこのまま横に斬られたとしたら——このスーツも耐えられないだろう。


「チェックメイト——!?」


 しかし、クリエイターからは恐怖心は消えている。焦りも何もなく、ジョーカーの腕を掴んで、そのまま投げ飛ばす。


「ぐぅ……しまっ——!」


 ジョーカーが立ち上がる前にクリエイターはソルジャーの刀を彼女の胸に突き刺した。生々しい感覚。それとともに、ジョーカーは口から血を吐き出した。


「とどめぇ!!」


 踏み込み、そして切り上げる。弧を描く血が、あたり一面を赤く染めていき、ジョーカーはふらふらになりながら、赤い道を作り始める。


 そして最後に小さく血を吐いた後、ジョーカーはその場に倒れ込んだのだった。


 ◇◇◇◇◇


 ☆ギャンブラー


 圧倒的だった。クリエイターの前に、あのジョーカーはいともたやすく仕留められていた。どくどくと広がる血がジョーカーの寿命を表していた。


「……やった。やったんだな……!クリエイター……!」


 ギャンブラーはクリエイターの肩を叩く。クリエイターは変身を解いて、小さく笑って、彼女の目からは光は少しだけ消えていた。


「……ええ……これで、おわり……」


 ずるりとクリエイターは座り込んだ。彼女は激しく咳をしながら、大粒の汗を辺りにこぼし続けている。


 そこまで負担がかかることをしていたのか。ギャンブラーはちいさく「すまない」と謝る。クリエイターは「大丈夫」とだけ言葉を返した。


「……本当、お疲れ様だ……これで俺たちは帰れる」

「そうだな……今回ばかりは、僕も素直に褒めてやる」

「はい……はい!これで私たち元の世界に……えぇ、ランサーさんたちもきっと喜んで……」






「なんのことかなぁ……!!」






 突如全身がブルリと恐怖で揺れる。聞こえてはいけないこえが、聞こえてきたような気がした。いや、気のせいではない。


「……ちゃんと、トドメを刺さないと……だめだよぉ……!!」


 ジョーカーはそこにいた。全身から流している血はすでに止まっており、逆に彼女の体にはクリエイターのレンチが突き刺さっている。


「いいねぇ、いいねぇ……全身から力が湧いてくる……!!」


 ジョーカーは自分の斬り落とされかけていた体を撫でる。するとそこは、スゥッと手品のようにつなぎ合わされていた。


 ジョーカーは笑う。大声で今の楽しさを噛み締めているように。しかし、ギャンブラー達は、確実に絶望を味わっていたのだった。

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