5-7【この僕の手を煩わせるなんて、な】
☆ファイター
「あはぁ……♡久しぶりだよ、ここまで強く興奮する戦いは!さすがここまで生き残っただけはあるね、ほとんどの子が次のステージは足を運んでる!」
ジョーカーは笑う。あくまで普通の笑顔を保ち、歩きながら。きっと彼女にとって、殺人という行為は日常的なものなのだろう。
赤く染まるその姿は、彼女の顔とはちぐはぐであり、不気味でそして恐ろしく。しかしどこか美しく見えた。
「……ねこ女……」
ガードナーがつぶやく。ジョーカーに大ダメージを与えられたブレイカーは確かに心配だ。だが、メールが来てない時点で、彼女は無事だということはわかる。
ガードナーとブレイカーは仲が良く見えた。心配でガードナーは気が気ではないはず。だからこそ、ブレイカーを助けなければならない。
早くジョーカーを倒して現実に帰ることができれば、或いは……ファイターは息を吐き、そして拳を構えた。
「……そうか、そうだろうな。仕方ない……」
ガードナーは小さな声でそうつぶやきため息をこぼす。何が仕方ないのか、そのことを尋ねようとしたが、彼女なりの考えがあるのだろうだから、やめた。
今は戦いに意識を集中しなければ。セイバーたちと力を合わせればきっとジョーカーを倒すことも可能だ。
ジョーカーが近づいて来るタイミングで、ファイターも一歩踏み出そうとした。その時だ。
「この僕の手を煩わせるなんて、な。恥を知れ……猫畜生」
ガードナーがはっきりとそう言葉を述べる。その瞬間、世界が揺れたのだった
◇◇◇◇◇
☆ブレイカー
痛い。体が熱く、まるで燃えているかのような感覚にとらわれている。このまま死ぬのが、行き着くゴールなのだろう。
功を焦りすぎた。と、今ならそう語れる。そりゃもちろん死ぬのは怖い。死にたいと思う人間なんて、いないのだから。
「くっ、けほっ……が、うぅ……くぅう……あぁう……」
どうやらガードナーの結界内で死ぬことはないようだ。こんな中でも、彼女の小さな優しさにブレイカーは思わず笑みがこぼれる。
目を閉じる。思い出し始める過去の記憶。本当に死に直面すると、記憶が戻るのだな。ガードナーの仮説はほとんど正しいといえる。
最悪な死に方だった。抗争に負けた組が待っていることなんて、一つしかない。ブレイカーみたいな少女でも、その結末を用意されていた。
全身がどろりと溶けていくような記憶。もう見たくないと目をそらすことは、できなかった。つまりもう終わりなのだろう。
だったら、もう。いっそのこと一思いに……
(この僕の手を煩わせるなんて、な。恥を知れ……猫畜生)
その時小さな声が耳に入って来た。幻聴だとは思うが、なぜだかその言葉を聞くと、少しだけ体の痛みが引いていく。
「……ありが、とう……」
ブレイカーは目を閉じる。瞬間、世界が途端に大きく揺れ始め。そしてブレイカーの世界は消えていくのだった。
その時最後に聞こえた爆音は、まるで花火を聞いてるようで——少しだけ、幸せだった。
◇◇◇◇◇
【メールが届きました】
【なんでも破壊しようとする女の子は結局自分が破壊されちゃった。悲しい?悲しいのかな?そんな感情すら破壊されてるみたいだね!】
【後は7人だっ!次は誰が死ぬかなー?】
◇◇◇◇◇
☆ガードナー
「……ふん」
「ガードナー!?な、なにをしたっ!!」
ファアターが掴みかかってくる。倒すべき相手は自分ではないはずなのに、彼女の目はまるでガードナーが悪の親玉だと言いたげになっていた。
——普通に考えて、仲間を爆死させたこの行為は正しいとは言えないだろう。してはいけないことだ。しかし、ブレイカー相手では、違う。
彼女は爆死させてやるのが、あの瞬間一番の幸せだった。ガードナーはそう言い切ることができた。
「……ほら、ジョーカーがくるぞ。構えなくていいのか脳筋」
「キサッ……なにをしたか、わかっているのか!?」
「なにをした?つまらん事を聞くな……猫娘を殺した。それだけだろう?」
「仲間だろう!?助けることもできるのに、なぜ!そう簡単に殺すことができた!!」
「……つまらん。本質を捉えることができない猿ほど、つまらないものはない」
「な——!」
ファイターはさらに文句を言おうと口を開けようとする。これいじょうこいつの言葉を聞くのはうんざりだった。
「……ならば君は、あの猫女ををずっと放置すると言いたいのか。あの状態で」
「違う!ジョーカーさえ倒せばそれで——!」
「そうだ。僕らの目的はジョーカーを倒すこと、だろう。ねこ女が死んだ事を嘆き、悲しみ……そして、そうするきっかけを作った僕を責めることではないだろう……それに一つ、教えてやろうか」
ガードナーはそう言ってファアターの服の首元を掴み持ち上げる。彼女の体を浮かばなかったが、ずいっと体がガードナーの方による。
「ブレイカーの気持ちを代弁していいのは僕だけだ。君なんかが、口を出すな」
「——ッ」
「……それにほら、ジョーカーは来るぞ。なに、僕も手助けをしてやろう」
そう言ってジョーカーに向かってガードナーも腕を構えた。もう戦う目的なんてない。強いて言うなら……そう。
彼女のために土産話でも仕入れなければならない。それだけだ。
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