5-6【やった、か……?】

 ☆ファイター


「ギャンブラー……!」


 ファイターはギャンブラーを抱え上げる。彼女は血を流してはいるが、傷は浅いらしくやがて治癒されていくであろうことは、わかった。


 しかしそれでもギリギリで生きているということには変わらない。ガードナーに目配せをして、ギャンブラーの周りに結界を張ってもらった。


 ギャンブラーのことはガードナーとパペッターに任せ、ファイターは一歩前に出る。遠くて上手く聞き取れないが、おそらくクスクスと笑っているジョーカーはとても奇妙であった。


「さてさてさて。どうする?死ぬ?それとも、死ぬ?」

「生憎だが……アーチャーの前で無様な姿は見せられないからな……!」

「……なるほどね」


 ファイターが選んだ道。それは、アーチャーとともに歩くという道。言い方を変えれば……アーチャーの死を引きずってるといえるだろう。


 しかし、彼女はそれで良いと判断していた。アーチャーが横にいると常に想定して戦う。それで、いいじゃないか


「まぁ……ジョーカーとしては、ファイターちゃんと戦えるなら、それでいいや。こっちからいくよ——!」


 ジョーカーが地面を踏み込み、飛び出してくる。手にあるトランプから赤い線が伸びていき、それが道になる。


 ファイターは息を吐き、そして構える。拳を握り、ジョーカーの動きを観察する。彼女の動きはただまっすぐ突っ込んでくるだけにしか見えない。


 自分の力量に自信があるのだろうか、それとも考えるのが苦手なだけか。彼女の攻撃は単調に見えた。


 ならば捉えるのも可能、か。ファイターは一度、体をずらしジョーカーの攻撃を避ける。風どころか空間すら切り裂いてるのではないかと思うほどの、トランプの一撃。真正面から受け止めたら、こちらの体が持たない。


 一、二。そして三。避けることに専念したため、当たることはないが、それでも目の前から迫り来る恐怖は、心優しいものじゃなかった。


 ジョーカーのトランプが眼前に迫り来る。その瞬間が、チャンスだとファイターは一瞬のうちに考える。腰をダンっと低くしてジョーカーの司会から自分の姿を消す。


 そのまま、突き上げるようなアッパーを繰り出す。まっすぐと狙うのは、ジョーカーの肘だった。ゴギリと曲がるような音がして、ジョーカーが苦しそうな声を出した。


 あらぬ方に曲がるジョーカーの片腕。怯んだ隙を流すわけがなく、そのままファイターはジョーカーの折れた片腕をつかんで、そのまま投げ飛ばす。


 それはそのまま後方に飛んでいく……ことはなく、すぐに何かにぶつかって止まる。そしてジョーカーが止まった距離、そして場所。それらはファイターが全力を出せる距離だった。


「うぉおおぉぉおぉぉ!!」


 ファイターはそのまま空中に止まっているファイターの顔を殴りぬける。バリン!と割れる音が響き、そのままジョーカーは血を流しながら、飛んでいく


 あたりにはペフトマスクのかけらが散らばっていて、その先にあるジョーカーはケホッと苦しそうな咳を一度して、そのまま動かなくなった。


 ◇◇◇◇◇


 ☆ガードナー


「……やった、か……?」


 吹き飛ばされそうになったジョーカーの後ろに弱い結界を張り、そのままファイターの攻撃に繋がさせたのは、我ながら機転が利いたと思う。


 しかし、ファイターがとどめをさしていたとするなら、これは問題だ。まぁ、メールは来てないため、ジョーカーはおそらく気絶しただけだろうが。


「……!わ、私、少し見てきます!」


 ブレイカーが突然そう宣言する。おそらくそのままとどめに持っていく気なのだろう。他のメンバーは誰も彼女を止めようとしない。


 それもそうだ。もしここで止めてしまったら、自分は願いを叶えようとしてますと宣言してるようなもの。消えた記憶に関しては、かなり皆淡白なようだ。


 ドクン。と心臓が跳ねる。このままいけば、この戦いの勝者は我々になる。一つ、気がかりな点があるが、それは後でわかることだ。


 あれほど自分たちを苦しめたジョーカーがここで死ぬ。こうもあっさりいくとなると、少し物足りないものがあるが。


 ……いや、待て。あのジョーカーがクリーンヒットしたといってたかが一撃で気絶するのか。


「っ!待——!」


 瞬間だった。ブレイカーの体が突然ピタリと止まる。そして一拍間を開いたのちに、彼女の体から血の噴水が湧き上がる。


 首から多量の血を流しつつ、ブレイカーは膝から崩れ落ちた。そしてその赤いシャワーを浴びながら、ジョーカーは起き上がる。


「きぶんそーかい!……いやぁでも、赤い夕焼けでも、血の色はごまかせないんだね。自慢の白髪が赤くなっちゃった」

「……ちっ」


 ペストマスクがなくなったジョーカーの顔は、とてつもなく普通だった。普通の顔で、普通の笑顔でそしてその顔で……今まで人を殺していたのか。


 ガードナーはブレイカーの周りに結界を張る。ジョーカーはそれを壊すことを選択せずに、ゆっくりと歩き出す。


「さて……さてさてさて。みんな、殺すよ」


 ジョーカーは穏やかな顔でそう告げた。その顔だけで、この辺りには絶望がジワリと広がっていくのを、ガードナーは肌で感じていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る