夕方
5-1【間違ってるのはお前たちだ】
☆ガードナー
「……なっ……」
何が起きたか理解できなかった。突如、セイバーを見て喜んだブースターが飛んで行き、そしてセイバーに両断されていた。
ブースターは肝に事切れていて、血がゆっくりと広がるだけである。なぜこうなった。セイバーはブースターに対して殺意を抱いていた、というのか。
しかし、斬りかかる瞬間。そんな風には見えなかった。むしろセイバーも少し嬉しそうに、あの無表情の仮面が緩くなった。そんな印象も受けた。
だが、彼女は今死体となったブースターを無表情に見下ろしていた。何が起こったかをもう一度理解しようとした時、おもむろにセイバーが口を開ける。
「……なぜ、ここにこいつがいる」
「ブースターさんは……私たちの声に賛同してくれた人で……」
「パペッター。忘れたとは言わせない……こいつは、ランサーをあそこまで痛めつけた張本人……いわば、敵。だ」
その言葉で、ガードナーも彼女の行動の意味を理解する。セイバーは敵だと判断したブースターを処理したに過ぎない。
安全な土地にやって来た害虫を駆除した。それくらいの感覚だろう。だからこそ、行動は理解する。しかし——
(……なぜ、わざわざ殺した——?)
理解はする。されど、納得はできない。殺す理由はあっても、殺すことはないはずだ。少なくともいつものセイバーなら、突然ではなく、ある程度話を聞こうとするはず。
「なぜ、殺した」
その疑問を抱いたのは、ガードナーだけではないようだ。ファイターがつかつかとセイバーに掴みかかり、どすの利いた声をだす。
「理由はさっき言った……これ以上はいらんだろ」
「少しくらいは話を聞くべきだ……!判断は、それからでも遅くないはずだ!!」
「そうっス!突然なんて……あんまりっス!」
「……私は間違ってないぞ。間違ってるのはお前たちだ。この世界で、一度裏切った相手をすんなり信用なんて、できない」
セイバーはそう言ってサッとファイターの横を通り過ぎて、パペッターの前に座り込む。
広がる異様な空気。ガードナーは舌打ちとため息を混ぜたような音を口から出して、頭をかいた。
ちらりとブースターの方を見る。ファイターとギャンブラー。そしてクリエイターが彼女の埋葬をしようとしていた。
埋めるわけにもいかないのだろう。下の階に行ってベッドか何かに寝かせて、安静にして、満足する気か。
クリエイターは口を抑えつつ、半分になったブースターの体を持ち上げようとした。しかし、血でずるりと体が床に落ちる。
ガードナー、ブレイカー。そしてパペッターとセイバーはその場から動かなかった。
ゆっくり時間をかけて、クリエイターたちは下に降りて行った。残された4人は、その異様な空気を全て受け入れるしか、できなかった。
◇◇◇◇◇
☆ファイター
「ブースター……」
ブースターは、いいやつだった。
彼女はこの場でも笑顔を絶やさない、そんな優しい子だった。会いたかった人に殺される様な最後なんて、あってはいけない。
でも、会ってしまった。誤解による歪んだ認識により、ブースターは両断された。二つに分かれたブースターは、人間一つ分より重みがあった。
「……ここから、抜け出す」
「…………」
「それがきっと正しいんスよね」
クリエイターがポツリと呟く。そうだ。この場に残るのは、あの殺人鬼セイバーと共に戦うと言うことになる。
セイバーの言葉を引用するなら、すんなり信用なんてできない。だから、逃げ出す。なるほど、それは正しい選択だろう。
「でも……自分は逃げないっス」
ベッドの上にブースターを寝かせた。上手く調整して、二つの体を一つにする。そこに毛布をかぶせて、3人で目を閉じて黙祷を捧げた。
「……自分は進むっス。前に、前に……ここで立ち止まることは、ソルジャーさんは許してくれないと思うっス。ブースターさんにもきっと……」
ジョーカーを倒し、このゲームを終わらせる。それがファイターの目的だ。だからこそ、ここから立ち去るわけにはいかない。ジョーカーを倒す、道が断たれてしまうのだから。
「俺も……そう思う。はやく、ジョーカーを倒さなければ、な」
「うんうん。ジョーカーもそう思うな」
「そうだ……俺たちは……つ!?」
ドッと流れ込んでくる寒気と恐怖。ファイターは目を慌ててあけて、後ろに大きく飛んだ。3人で黙祷を捧げていたはずなのに、今は1人増えている。
「はぁい。お・ひ・さ♡」
ペストマスクをつけた悪魔が、キャリーバックに肘をつけながら、こちらに手を振っていたのだった。
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