4-17【進む\戻る】

 ☆クリエイター


「じゃ、クリエイターさん。お願いします」

「……任せるっスよ」


 パペッターに渡されたものを見ながら、クリエイターは口を開ける。パペッターから任せられたのは、一つの仕事だった。


 クリエイターの手にあるのは、ヒーローのベルト。これを改造してくれというものだった。ヒーローが変身した時の恐ろしさは、クリエイターも知っている。


 2人の魔法少女を、殺すことができる力。それがクリエイターの手にある。しかしこれは、当たり前だが……本来ヒーローにしか扱えないもの。


 だからこそ、クリエイターが改造する。誰にでも使えるように。誰にでも魔法少女を殺せるように。


(……これじゃジョーカーを救うことなんて、できないんスかね)


 クリエイターは……ここまで来ても、ジョーカーを助けようと考えている。しかし、それが本当に覚悟なのだろうか。


 ソルジャーに言われたことを思い出す【ジョーカーも生きている。が、この戦いから勝つ方法は、ジョーカーを殺すことのみ。この矛盾の構造に貴様は太刀打ちできるのか?覚悟はあるのか?】と。


 ……正直、まだ強い覚悟はない。ジョーカーを救いたい。というのは、本当に本意なのだろうか。


 あまちゃん。おそらく今の自分を一言で表すと、そうなのだろう。あまちゃんで子供。そんな自分が、こんなことをしていいのだろうか。


 ジョーカーは確かに何人も人を殺した。だからと言って、殺していい理由はならない。泥棒が盗んだものを泥棒していいわけではないのだから。


 だが、ジョーカーは許されない行動を多く繰り返している。何人も殺し、何人も殺しかけ、何人も殺そうとした。そんな人間に優しさなんて、いるのだろうか。


(どっちがただしいんスかね……)


 もし多数決を取ったなら、ジョーカーは死ぬべきの方に票が多くきて、少数派の意見は打ち消されるだろう。


 そういう視点で見たら、ジョーカーを殺す方が正しいのだろう。でも、しかし……


(……もしかして、覚悟ってジョーカーを殺す。とか、生かす。とか……違うのかもしれないっス……進む。ことが、大事なんすかね。ソルジャーさんも、最後そう言ってたし……)


 今の自分は、立ち止まっている。進めてないのだ。とにかく、前に進むしかないのか。ならば、すすもう。


 それが私の覚悟につながるのなら。クリエイターはそう考えて、ヒーローのベルトにスキルを発動したのだった。



 ◇◇◇◇◇


 ☆ギャンブラー


 クリエイターがヒーローのベルトを前にウンウン唸っている姿を見つつ、ギャンブラーはため息をつく。彼女の視線には二つのサイコロがあった。


 彼女はこれを今、振ることはできない。単純な理由。これを振ると人が死ぬと思ってしまってるから。心の底に住み着く、トラウマによって。


 しかし、ガンナーは死んだ。サイコロを振らなくても、人は死んだ。その事実を無視できるほど、ギャンブラーは子供じゃなかった。


(私は……どんな顔でガンナーに会いに行けばいいのだろうか)


 彼女は今。立ち止まっているのだろう。進むことを放棄した、もはや生きているだけの人間とかしている。そんな人間をガンナーは認めてくれるのだろうか。


 答えは否だ。


 わかっている。わかっているのに、なぜサイコロを振るということすら、できないのだ。ただ見つめることでしか、サイコロと向き合えない。


 どうすればいい。その言葉にガンナーは自分で決めろと返してきた。そう。決めるしかないのだ。覚悟も、自分が歩く道も。


(進めるのか……いや、違う……私は以前は……サイコロを振ることができた……!つまり……正解は……!)


 ギャンブラーは決めた。進む道を。自分が歩く所に道ができるという言葉が正しいのならば、もう道はできているのだ。


 過去の私はサイコロを振ることができた。今の私はサイコロを振ることができない。ならば、戻ろう。あの過去に。


 問題はない。過去に戻り、自分の問題を見つめ直す。そうすればきっとこのサイコロを振ることができるはずだ。


(……どちらにせよ……ガンナーとギャンブルするためには……直さないといけないのだからな……!)


 ギャンブラーはそう思い。サイコロを拾いポケットの中に入れる。誰かと会話してコミュニティでも築こうとした。その時扉がゆっくりと開いた。


「……だいたい集まったみたいだな」

「セイバーや!」


 セイバーが扉をあけて中に入ってきた。彼女を見つけて瞬間、喜びの声を上げてブースターは飛んでいく。


確かブースターはセイバーに会いたいと言っていた。感動的な再会に見えて、ギャンブラーは思わず、小さく微笑んだ。


 だんだんと日差しが夕日に変わり、それが赤くこの屋上を染めていく。それと同時だった。この場が、さらに鮮明に染まっていく。


 視界が。世界が。真っ赤に染められていく。ぴちゃりとあたりを彩る赤い絵の具は、少しずつ広がっていった。


「……えっ?」


 ブースターの言葉が小さく聴こえた。そのあと、世界がゆっくりと。そして確実に赤く染まっていく。夕日だけじゃない。この赤いものの正体は——


 ピロリン


 その考えが正解だと言いたげな、メールの通知音が全員のスマホから鳴り響く。この機械音は、少しだけギャンブラーたちをあざ笑っているように聞こえたのだった。


 ◇◇◇◇◇


【メールが届きました】

【空飛ぶだけしか能がないブースターは、新撰組の人斬りになろうとしてるセイバーに一刀両断されちゃった!】

【もう9人!?いつのまにか半分だね!】

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