4-16【早くうちも会いたいわ!】

 ☆ファイター


「……あ、二人とも置いて来てよかったのかな……」


 ファイターは城の前について突然そう思い出す。戻ろうかとも思ったが、二人ならきっと大丈夫だろうと決める。


 今はとにかくアーチャーに会いに行きたい。城の中に入る瞬間、薄い膜のようなものに当たった気がしたが、気にせず進む。


 アーチャーはいるはずだ。メールが来てない時点で彼女はまだ生きている。そして生きているなら、ここに来る。彼女はそういう人間だから……きっと。


 一つ一つの階段を確かめるように上る。いたるところに血の跡があり、それを少しだけ嫌なものを見るような目で見る。


 そしてようやくたどり着く屋上。遠慮がちにノックすると「どうぞ」という一言が聞こえて来た。


 意を決してドアを開ける。重く地面を引きずりながらそれは動き、やがて眩しい光がファイターの目を突き刺す。


「……ほう。戦闘力が高そうな奴が来たか。見た目的に脳筋か。脳筋は扱いやすいから大歓迎だぞ」


 突然聞こえて来た悪口に対し、ファイターはムッとした表情でにらみを返す。その顔に対して何も返答はなく、ただ小さな笑い声が聞こえただけだった。


「ちょっ、ガードナーさん。やめましょう、そういうのは……」

「ふんっ……」


 マスクをつけた少女がそう言ってガードナーを諌めていた。彼女は確かパペッターだったか。他にいるのはセイバーと。


「フ、ファイターはんやん、か……あ、会いたかったでほんま」

「……ブースターか。久しいな」


 ブースターはぎこちない笑みを浮かべながら、こちらに近づいてくる。それもそうだろう。ブースターから見たファイターは、最初に襲って来た危険人物なのだから。


 できるだけ会いたくなかったという気持ちが見て取れる。おそらく彼女もファイターと同じような理由でここに来たのだろう。セイバーはここにはいないようだが。


 ファイターも辺りを見渡すが、どこにもアーチャーの姿はない。まだここには来てないのだろうか。


「えぅと……な、なんか色々あったんかいな?」

「アーチャーとはぐれた。が、おそらくここにくるはずだ」

「な!……だ、大丈夫かいな……」

「メールは来てないからな。アーチャーは生きている。ならば、ここにくるはずさ」

「……そうやな。そうに決まっとるな!早くうちも会いたいわ!」


 ブースターは笑う。それにつられて、ファイターも小さく笑った。


 ガチャ


「……あ、ちーっす」


 またドアが開く。そこにいたのは、クリエイターとギャンブラーの二人だ。無事なようでファイターはホッとした。


 クリエイターを発見したパペッターは彼女に近づいて行き、何かを渡していた。ここからはよく見えなかったが、クリエイターは少し驚いたような顔をしていた。


「……ジョーカーとアーチャー以外、ここにいるんやな」


 隣でブースターがつぶやく。アーチャーがここまでくるのが遅いとなると、心配だ。どこかで何か、問題が起きているのだろうか。


 空を見上げてみる。ゆっくりと太陽が傾き狭間、いつのまにか空が赤く染まっていこうとしていたのだった。


 ◇◇◇◇◇


 ☆ガードナー


 集まったのは8人。いないのは2人。話を聞く限り、アーチャーはジョーカーに襲われてそのままはぐれてしまったらしい。


 ジョーカーに襲われて生きてるなんて思えないが、メールが届いてないのだ。どこかで生きているのだろうことは、確定している。


「ガードナーさん。大丈夫ですか?」

「……なにが?」

「少し険しい顔してます。深呼吸しましょう。ね?」


 2人の計画のことを考えると人が増えないほうがいい。どうやらその考えが、少し顔に出ていたようだ。


 ここまで来たならもう流れになるしかない。ガードナーは腕を組む。とにかく、ガードナーか、ブレイカー。どちらかがジョーカーを殺せばいいのだ。


(……この仮説は……違うと思いたいがな)


 ガードナーはそう言ってポケットに入れた紙を一枚ちらりと見る。おそらくだが、全員死んでいるというのは、あっている。


 しかしこの紙に書かれているガードナー個人の仮説は、違うと考えていいだろう。こんなことあったなら、誰を信じればいいのだ。


 全てを疑うべきなのかもしれない。こんな世界だから……しかし、こんな世界だからこそ、人を信じないといけないこともある。


 ブレイカーに感化でもされてしまったのかもしれない。自嘲気味に笑いながら、目を閉じる。


(とにかく……ジョーカーをうまく殺さないといかん、な)


 時計を見るともうすぐ夕方という時間になる。夜までには決着をつけたい。ガードナーはそう考えたのだった。

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