4-8【ミーは——認めない】
☆ジョーカー
「息巻いてる所悪いけど……ギャンブラーちゃんたちは、ジョーカーに勝てるの?」
ジョーカーは極めて冷静に口を開ける。自身がのいってることは、間違いはない。ギャンブラーとガンナー。二人が手を組んでも、ジョーカーに勝てる未来は見えないはずだ。
そんなこと言われなくてもわかっているだろうが。そもそも今、ギャンブラーはサイコロを振ることができない。
ギャンブラーの戦闘力は今ではおそらく子猫より弱い。サイコロを振ること=他人が死ぬ。と、いう式が出来上がっているのだ。これはきっともう消えることはない。
バフデバフのサイコロは厄介だが……ジョーカーを縛れるのは6の目だけだ。そんな幸運あるわけがない。
「あ、もし作戦考えるなら時間あげるよー!それくらいのハンデは問題ないし」
「残念ですガー……ハンデなんて必要ないデース!」
ガンナーか銃を乱射する。それはまっすぐとジョーカーに……は、向かって行かず、土煙を上げながら、地面が削れていく。
煙が二人の姿を隠していく。なるほど、これで木々にまぐれてガンナーが攻撃するのだろう。一撃は軽いが……ジョーカーを倒すには1000発くらいいる。と、思う。
どこかには自身の銃の音を消せるスキル持ちのガンナーがいるかもしれないが、ここのガンナーは違う。ただのペイント弾。
無色透明で痛みもない。しかし、それをつけられた存在はガンナーから逃げることはできないという何かと厄介なスキルだ。
まぁ確か水で簡単に落ちるのだが。風呂好きの魔法少女なんていたら、この攻撃の効果はないだろう。
そんなことを考えていたら、いつの間にか土煙がはれていた。さて、今から鬼ごっこのスタートかな?と、ジョーカーはトランプを構える。
ペストマスクから左右を見渡す。小さな変化も見逃せないのだから、例えばあそこのように、草木が揺れたりとか。
ダンッ。踏み込み駆け出す。一瞬で距離を詰めて何かを掴みそのまま木に叩きつける。勢いを殺すことはなかったため、その何かは口から唾を吐き出した。
「あら……ギャンブラーちゃん?」
「か、は……くぅ……」
こちらを狙っていたのは、どうやらガンナーではないようだ。ギャンブラーは今戦えないのだから……これはもしかして。
「ガンナーちゃん、逃げちゃった?あはは!おもしろーい!」
「……ぬわぁ!!」
その一言ともに、ギャンブラーはジョーカーを振りほどく。そのまま彼女は逃げるように……いや、事実逃げ始めた。
ジョーカーはすぐに追いかけない。ゆっくり、ゆっくりと歩き出す。どうせすぐに仕留めれることができるのだ。
トランプが血を求めてるーとか、そんなことを言って笑う。まあ、血をまとめてるのは、ジョーカーじゃなくてあのゲームマスター様だが。
走り続けたからか、ギャンブラーがこける。そこまで見て、ジョーカーは小さく笑いそしてトランプをギャンブラーの首元を狙う。
「さぁて……ふふ。死ね」
◇◇◇◇◇
☆ギャンブラー
正直これしか思いつかなかった。しかし、ここまでうまくいったのは、ジョーカーに追われる恐怖を上回るほどの喜びがあった。
場所、タイミング共に最高だ。ガンナーが土煙を上げた時、この作戦の打ち合わせをした。もちろん、今サイコロを振ることができないことも伝える。
ガンナーは渋ったが、最終的にはOKを返す。これしか、手がないことはお互いに知っていた。
ジョーカーの足音が聞こえてくる。さぁ、舞台は整えた……後は任せたぞガンナー!ギャンブラーは目を閉じる。
これならばきっと——
「勝てる?」
ジョーカーの声が響く。その声と共に彼女の腕が伸びてそれはギャンブラーを通り過ぎてそのまま突き進む。
何かをつかむ音がした。そしてその音ともに空を撃ち抜く弾丸の音と、引っ張り上げられているガンナーの姿があった。
しまったと思った時にはもう遅い。ガンナーの片腕は一瞬のうちにジョーカーに切り落とされていた。
「なぜ——!」
「あのねぇ……ワープできるかなんて、流石にジョーカーはわかるよ?大方この向こうにガンナーちゃんが隠れてて、タイミングを見てジョーカーを撃とうとしたんでしょうけど……」
詰めが甘いなぁと笑い、ジョーカーはガンナーの腹を蹴飛ばす。ゴロゴロと転がっていき、赤い道が出来ていく。
「まだ……終わりじゃないデース!」
ガンナーは苦痛に顔を歪めつつもジョーカーに向かって弾丸を放つ。しかしそれは、彼女に当たることはなかった。
奇襲が失敗した今、ギャンブラーにのしかかるのは敗北の二文字。このまま死ぬしか選択肢がないのか——?
「ギャンブラー!!」
「っ!?」
「諦めてんじゃねぇデース!ユーは……ユーは!こんなことで敗北を認めるほど弱いんデスカー!」
「だ、だが……!」
「ミーは——認めない。認めまセーン!まだ、手は残されてマース!」
ガンナーはそう叫んでポケットからサイコロを取り出し投げる。出た目は……5。その数字の力は、ガンナーの能力を飛び上がるほど強化する。
ダァン!響く、銃声。それはジョーカーの脇腹を擦り赤い血を飛ばす。ジョーカーは笑い声を止めて、血を触る。
「へぇ……やるね」
ジョーカーはトランプをガンナーに投げつける。それをガンナーは転がり避けてそのまま銃を撃ち続ける。
ガンナーの攻撃をジョーカーは冷静に弾く。しかし、ガンナーの攻撃は止むことを知らない。
無限とも思われる二人の攻防。ガンナーの攻撃は弾かれ、その間にジョーカーはトランプを投げる。
——もし
もしこのタイミングで……サイコロを投げれば……きっと、ジョーカーから逃げることも可能だろう。だがしかし——
サイコロを投げると——人が死ぬ。
その一瞬の迷い。サイコロを投げれなかったかその瞬間、それだけでもジョーカーにとっては充分だったのだろう。
「しまっ……!」
銃の弾丸は無限ではない。それはやがて尽きてしまい、弾丸を詰め込むその一瞬。それが、勝負だった。
間合いは一瞬で詰められて、ガンナーの銃は蹴りあげられる。空を舞うその銃に視線を奪われた時には、すでにガンナーの胸はジョーカーによって貫かれていた。
「——かはっ」
「はい、一丁上がり」
一瞬何があったかは分からなかった。ただ、そこにあったのはガンナーの背からジョーカーの腕が見えている光景だった。
「ガ……ガンナーァァァァァァ!!」
ガンナーの胸から血が飛び散るのと同時に、彼女の銃が地面に落ちた。ガンナーの体はゆらりとゆれて、そのまま地面に倒れこむ。
ギャンブラーはもう一度ガンナーの名前を呼んで彼女に近寄る。彼女はだんだんと顔から生気が消えていくのがわかった。
「……さぁて、トドメを……って、ん?」
ジョーカーは突然スマホを取り出した。そしてそこにきているメールでも見たのか、何かぶつぶつ文句を言いながらその場から去っていく。
「ガンナー……なぜ……!」
「ギャンブラー……ユーは最低デスネ……」
そう言ってガンナーはギャンブラーを胸を殴る。力がないが、その一撃はとても重く感じた。
「……ハハ……そうだ、私は……最低だ……最低な人間だよ……」
「イエス……だからこそ、ユーに呪いかけマース……」
そう言ってガンナーはギャンブラーにサイコロを取り出してそれを渡す。ギャンブラーはそれをゆっくりと受けとる。
「ユー……サイコロを振って人が死ぬ……でも……サイコロを振らなくても……人は死にマース……」
「……………………」
「そしてユーがサイコロを振らないせいで……ミーは……死ぬ……一生後悔しなサーイ……でも……」
「……ガンナー……」
「ミーは……後悔してまセーン……」
ガンナーは小さく笑う。彼女は小さく口を動かした。掠れるような声で聞き取れることはできなかったが、何となく。言ってることは理解でき、そのままガンナーは動かなくなった。
「ウォォオォォォオォォォ!!!」
ギャンブラーは大声で叫び声をあげる。それは今の悲しみに対する咆哮か、それとも己の弱さに対する叱責か。
その声は永遠にこだまし続ける。スマホの通知音をかき消すほどには。
!
◇◇◇◇◇
【メールが届きました】
【バーンバーン!大きな音を出す騒音おばさんは正義の味方のジョーカーに粛清されました!やったね!】
【あと10人だ!そろそろもっと盛り上げないとね!】
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