4-7【それだけでも充分合格ラインデース!】

 ☆ガンナー


 ギャンブラーの覚悟を確かめるために、彼女を一人にした。その結果、彼女はまた救える命を失ってしまったのだ。


 港の防波堤の上に座り込んでいるギャンブラーの姿はどこか痛々しく見える。しかし、ここで無闇に声をかけるのは、違う。


 彼女の覚悟を見るのが、ガンナーが今一番やるべきことなのだ。で、ないと今までのことが全て無駄になる。


(ミーが愛した人が……こんなところで諦めたりしませんよネー?)


 愛に性別なんて関係ない。ガンナーが好きになった人がたまたま女性なだけであるのだ。


 ガンナーが惚れたのは強いギャンブラー。あの時、ソルジャーが死んだというメールを見たときのような姿なんて、見たくない。


 自己中心的な性格だとは、自分でもなんとなくわかっている。しかし、仕方ないだろう?命の危機になっても、交渉を持ち込んだり。ジョーカーに襲われても打開策を見出すような少女が——弱いなんて、嫌に決まっている。


 ギャンブラーがもしこのまま海に身投げでもしたら、もうガンナーは彼女のことなど放っておくつもりだ。


 しかし、一歩でも進もうとするなら……それの後押しくらいはしたい。だから今は、タイミングを見計らっている。


「…………」


 時間は結構すぎた気がする。が、ギャンブラーは一歩も動こうとはしない。逆に奇妙に見えて、実はもう死んでるのではないか?とも思ってしまう。


 メールが届いてないから、そんなことはないと思うが。声をかけるのは、ギャンブラーが行動を起こしたとき。と、決めているのだから。


 その願いが通じたのか、ギャンブラーはゆっくりと立ち上がる。そして、意を決したようにたんっと飛び出した。


「——な!?」


 ガンナーは思わず海に向かって走り出す。身を乗り出して下を見るが、そこには誰もいない。ギャンブラーは沈んでしまったのか?


 本当に身投げをしたのか?いや、ギャンブラーはそんなことをするとは思いたくない……となれば答えは……


「……成る程。してやられましたネー」


 ガンナーはもうギャンブラーの姿がどこにあるが、わからなくなっていた。そのことに気づいたガンナーは大きく息を吐いて、その場に座り込んだのだった。


 ◇◇◇◇◇


 ☆ギャンブラー


「はぁ……はあ……」


 海中を泳ぐギャンブラー。水で服が重くなるが、そんなこと気にする暇はない。こうしないとガンナーの追跡を振り切ることができないから。


 ここで生活して、少しそういう感覚が研ぎ澄まされていったのだろう。なんとなく誰かがついてきていてその誰かがなんとなくガンナーな気もしていた。


 確か彼女のスキルはペイント弾……ペイントと言うくらいなら水で洗い流せることができるはずだ。このまま泳げるところまで泳いでやる。


 正直今は誰にも会いたくなかった。あったとき、何するかがわからない。自分のあり方に疑問を抱き始めてる今、前と同じように接することができる自信がないのだ。


 過去に大量に人を殺したのだ。頭のおかしい金持ち相手だとしても、その事実は変わらない。


(そろそろ……か)


 ギャンブラーがそう思うと同時に、彼女は森の中に立っていた。あの時見つけた、マップの外に行くとワープすると言うのは、海の上でも起きるらしい。


 濡れた服をさてどうするかと思い触ってみる。びちゃりと手にあたり、水が染み出していく。放っておけば乾くとは思うが。


「魔法少女だ……風邪になる。と言うことは……おそらく、ない……っ……とにかくなるべく誰にも会わないように……うごく……っ!」


 少なくともこの手にあるサイコロを振ることができるようになるまで……誰にも会わないようにしたい。


 その時、木々の向こうから人の気配を感じとる。隠れながらも——少しの好奇心のせいで、ギャンブラーは顔をのぞかせてみる。


(あれは……?)


 そこにいたのは、ご機嫌のように鼻歌を歌っているジョーカーの姿だった。どこで拾ったのやら大きなキャリーバッグをコロコロと転がしていた。


 顔を見ただけでわかる。これは逃げるべきだと……だがしかし。ここで彼女を前にして逃げてもいいのか?


 いや、もうすでに——


「そこにいるのは誰だい?」

「……っ!」


 逃げることは、できない。


「……誰かと思えば、ギャンブラーちゃんか。なに?戦うの?」

「…………」

「まぁ……ふふ。ジョーカーと戦ってもいいけど、ギャンブラーちゃんサイコロ振れるの?あんなこと思い出したのに?」

「なっ……お前は……知っているのか……!?」

「はっは!勿論!君が頭のおかしい金持ち相手にギャンブルしたことも。両親もギャンブルに依存してて、その結果小卒なのも……そして……いや、この先はやめておこうかな」

「小卒……?」

「あれ?それまだ思い出してなかった?あー、ごめんねぇ!……でもまぁ、早めにしれてよかったじゃん?」


 ジョーカーはそこまでいってクスクスと笑う。彼女がここまで自分のことを知っているということは、おそらく他の参加者の事も知っている。


 知らないことを知られている。そう思うと、なぜかとても気持ち悪く感じてしまう。なんとか逃げる方法はないかと頭を回らせるが、そんなこと御構い無しに、ジョーカーはトランプを取り出した。


「まぁ、一人くらい役がかけてもいいよね?……それじゃーね!」


 ジョーカーはトランプを投げる。ギャンブラーは慌てて避けるが、そのトランプは木を一つ切り倒した。


 あんな物に当たったら、助かるわけがない。ギャンブラーは逃げるために動こうとしたが、なぜか足がうまく動かない。


 腰が抜けた?いや、そんなわけがない。何故か足が固定されたように動かないのだ。


 ……理由は単純。本能と理性が反発している。逃げないといけないという気持ちと、逃げてはいけないという気持ちが、ぶつかり合ってるのだ。


「よけたね!……まぁでも、もう外さないよ」

(——南無三!)


 ジョーカーのトランプがギャンブラーに向かって飛んでいく。ギャンブラーは目を閉じることなく、そのトランプを見つめていた。


 その時だ。


 パァン!


 乾いた銃声とともに、トランプがハラリと下に落ちていく。銃声が聞こえた方にゆっくりと顔を向けると、そこには一人の魔法少女がいた。


「やれやれ……まさかと思って泳いできましたガー……ジョーカーに絡まれてるなんて、運がないですネ。でも……ユーはジョーカーを目の前にしても逃げなかった。それだけでも充分合格ラインデース!」

「お、お前は……!」

「ハァイ!お久しぶりですネー……ギャンブラー」


 そう言って彼女——ガンナーはニコリと笑った。なにをするかわからないとさっき考えたが——ギャンブラーは思わずガンナーに抱きついていた。


「ホワァイ!?」

「ガンナー……感謝……それしか言えん……!こんな私を……助けてくれるなんて……!」

「……話は後、デース。今は、この場を切り抜ける方法を探しまショー」


 その言葉とともにガンナーはギャンブラーから離れて、銃も構える。ジョーカーは笑い声をあげながら、トランプを数枚取り出す。


 その時、風が吹いた。体に張り付いた服の冷たさが全身に駆け巡る。しかし、体に走る寒気がは濡れた服のせいだとは、なぜか思えなかった。


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