4-6【どうせ死んでる】

 ☆ブレイカー


 なんだかとてつもなく恥ずかしいことになっているような気がする。ガートナーと手を繋ぐということは、少し前までは想像できなかったことだ。


 悪い人ではないというのは、わかっていた。なんやかんやで結界で守ってくれるし、それだけで信用に値するかと聞かれたら、違うと思う。


 だが、彼女はきっと孤独なのだろう。人は、自分たちと極端に違うものは嫌う。ガードナーは天才でそれを隠さない。妬まれて、嫌われる性格だろう。


 だからこそ、彼女のことは放っておかない。だって……ヤクザの組長の一人娘であるブレイカーも、嫌われていたのだから。


 怖い。周りから見たブレイカーの評価というものはそれの一言に尽きた。いくら小さく、一見無害に見えても、彼女の後ろにあるのは大きな組織だ。


 そんなと仲良くなろうとするような物好きはいない。ブレイカーもそれでいいと思っていたから、女性組長になるためにいろいろなことをやっていた。


 そのために数多くのことを勉強した。女性だからと馬鹿にされるのは嫌だったから、思いつく限り全てを。


 そのために数多くの武術を学んだ。結局身についたものは少なかったが、学校での体育は基本最高評価であった。


 そのために数多くの現場に向かった。もう、死体を見るのも慣れたし、人を殺す瞬間。その時の断末魔も、慣れた。慣れないと、行けなかった。


(……ある意味あなたが羨ましい)


 なんでもできる。訳ではないのだろうが、学力も戦闘力も、そして……死体を前にした時の反応も、全て彼女が上だった。


 だがら、ブレイカーは彼女の横に並びたいと思い始めていた。最初、裏切りを視野に入れていたなんて信じられない。


 とにかくそんな存在が何か思い悩んでいるのなら、力をかさねばならない。そんなことを考えながら、時間はゆっくりとすぎていく。


「——一つ、質問だが」

「……はい」


 ガードナーが口を開けた。ブレイカーは待ってましたと言わんばかりに体制をただし、彼女の言葉の続きを待つ。


「僕らは……現実ではどうなっていると思う?」

「現実……?わかりません」

「……少しは考えろ。答えを他人に求め続けるのは愚か者がすることだ。しかしこの答え……いや、今から言うのはあくまで仮説。信じるかはキミ次第だ」

「いいです。ガードナーさんは、嘘は言いませんからね」

「……ふんっ」


 ガードナーは鼻を鳴らす。照れているのだろうか。少しだけ顔が赤く染まっていた。


 しかし、すぐに彼女は神妙な顔持ちになり、ブレイカーの方を向く。そして、ゆっくりと口を開けた。


「……僕らはすでに……死んでいる」

「……え?」


 何を言っているのだ。と、尋ねたくなった。すでに死んでいるなんて、それは本当なのか?


「……あくまで仮説だ。キミが猫の名前を取り戻した。それはきっと、死に直面したから。ランサーのことも合わせると……彼女は一度死にかけたらしい。つまり、彼女も記憶を取り戻したとも言える。現実で死んでいるイコール……ここで死に直面は、現実に戻ることだから」

「ま、待ってください!……流石にそれは、間違いでは?」

「最初僕もそう思った。しかし……思えば……おかしな点は無限にあった。僕達はなぜここにいる?そもそもこの世界はなんなのだ?そして……なぜ死体を見ても平然としてられる?陳腐だが——ここが、死後の世界と考えると——説明がつくことは多すぎる。消えた記憶……これはおそらく死ぬ直前のものだろうか。こればかりは、まだわからないがな」

「つまり……」

「僕達は生き残りをかけたゲームに参加してたんじゃない……生き返りをかけたゲームに参加していた。言うならば……か」

「どうせ、死んでる……」


 ブレイカーはその言葉を口の中で繰り返す。この世界で死ぬと現実で死んでる本体はそのまま死んでいく。しかし、戦いに勝てば生き返ることができる。


 ……いや、まて。それは少しおかしいのではないか。そうだ、もしそれが正しいのなら——!


「……実質、ジョーカーを倒したものだけのみが生き返りの願いを叶え生き残り……他は、死ぬ。そう言うことだ」

「そんな……それじゃ、私たちがやろうとしていることは——!?」

「誰か一人か二人を活かすために、自ら地獄の穴に飛び込んでそれを塞いでいるだけ、さ」


 その言葉の重みは、ずしりとブレイカーにのしかかる。それが本当なら……全員で助かるなんて、夢のまた夢ということか。


 ……いや、深く考える必要なんてないのではないか?このことを知っているのは私たちだけ。しかもこれが事実かもわからない。


 だったら——


「私達でジョーカーを倒せば……解決ですね」


 大事な人とともに少しでも長く生きることができるルートを選ぶべきだ。ブレイカーはそう考えて、ガードナーに向かって笑顔を見せたのだった。

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