4-9【今は自分ができることをやるっス】

 ☆クリエイター


「叫び声が……」

「これは……まさか——!」


 クリエイターはあまり知らないが、叫び声が聞こえてきた時、ファイターは慌てて走り出していた。


 どうやらファイターはこの声に聞き覚えがあるらしい。クリエイターももちろん放っておく気は一切ない。少し遅いが、自身も走り出す。


 商店街を突っ切り、そして森の中に入る。声が聞こえるところにいたのは、小さなシルクハットを被った少女だった。


 名前は覚えてない。しかし、彼女以上に目がつくものがあった……それは、胸から血を流し、片腕をなくした一人の魔法少女。顔から生気は消えていて、素人目でももう生きていないということがわかった。


「ギャンブラー!それに、ガンナー……なにがあった!?」


 ファイターの言葉を聞いた少女。おそらくギャンブラー。彼女は叫び声を無理やり止めたあと、肩で荒く息をしながらガンナーを地面の上にゆっくりと横たわらせた。


「見ての通り……私の未熟さゆえに……ガンナーは……!」

「ギャンブラー、俺は正直信じられない。あのガンナーが、こんな目に合うなど。可能なら、なにがあったかを教えてくれないか」

「……ジョーカーに襲われた……そして……」


その後ギャンブラーはポツリポツリと言葉をつなぎ出す。その内容はジョーカーが起こした悲劇を、ありのままに伝えていた。


 クリエイターとて、ジョーカーの恐ろしさは知っている。彼女に会うということは、つまり誰かが死ぬ。ということでもある。


 彼女を倒さないと、このゲームは終わらない。だが、その彼女の戦闘力はおそらく他のどんな魔法少女の遥か上を、さらにその上を歩いている。


「……私は、私が情けない……」

「ギャンブラーさん……」


 なんと声をかければいいのだろうか。きっとここは……何も声をかけないのが、正解なのだ。


 しばらくの沈黙。聞こえる音は木々が揺れる音だけであり、それが辺りに広がり始める。どれくらいの時間が経っただろうか、おもむろにファイターが地面に手を当てる。


「……そんなところで眠るのも、きっとガンナーは望んでない……せめて、土に埋めてやろう……ガンナーの件は、そのあとでやる。いいか?」

「……感謝する」


 ギャンブラーとファイターは土を掘り始める。それをみたクリエイターは、そうだと思い、一声をかけてから商店街に戻る。


 商店街につき、そこにあったスコップを拾い上げる。クリエイターのスキルで、このスコップを改造するのだ。土を掘る速度も上がるはず。


「……今は自分ができることをやるっス。土を掘るのも立派な仕事っスよね」


 そう思いスコップを強く握る。さて、早く戻ろうとした時、誰かの話し声が聞こえてきた。


 もしかしたらまだあってない魔法少女があるのかな?仲間に引き込めるかもしれないという期待を背負い、そこに向かって歩く。


「あのさぁ……!私のお楽しみを奪って、その態度!なんなの!?」

(喧嘩……?でも声は一つしか……)


 物陰に隠れながら、こっそりとのぞいてみる。そして、一瞬で後悔の念に駆られた。そこにいたのは、ペストマスクをつけたあの——


(ジョーカー……!?)


 ジョーカーが、ベンチに座り込みながら、誰かに電話をしていた。電話に集中しているようで、こちらには気づいてない。


 逃げようという思いを無理やり押さえ込む。彼女から何か大きな情報を盗み聞きをする……それが自分が今できることではないか?


「だーかーらー……!そっちの事情なんてこっちは関係ないの!私だって、殺したいって気持ちを無限に抑えてるのに……そこら辺の追加報酬も欲しいくらいだ……えぇ?好きにさせてるから我慢しろ?できないから言ってるの!……全く、お膳立てしてるこっちの身にもなってって話だよ」


 ジョーカーの声は少し離れているクリエイターにも聞こえてくる。どうやら話し相手とは険悪な仲のようだ。


 おそらく会話してるのは……あの時みたゲームマスターみたいな男性だろう。思えば二人ともマスクをつけている。そういう関係性があるのかもしれない。


 やはりジョーカーは運営側の人間なのか。どうやら周りを見れてない様子。このまま大きな情報を落としてくれればいいのだが——


「でもかわいそうだよなぁ……利用されるだけ利用されて死ぬんだし……これ全部のための舞台でしょ?あの子を強くするため……この先の番組を盛り上がらせるための仕込み。私でも思いつかないようなことやるね、本当……前の、ささ……なんとかさんみたいなこと、もうできないから仕方ないか」

(仕込み……?も、もっと詳しく……!)

「蠱毒って言うんだっけこういうの?……うーん。ジョーカーには難しいことわからないな……とにかく、ジョーカーはやりたいようにやるよ。例えば——」


 そこまでいってジョーカーはスマホを耳から離す。そしてゆっくりと視線をこちらに向けてきた。


 びくんと体が殺気に襲われて跳ねる。逃げないと。これ以上ここにいたら待っているのは……クリエイターはそこまで考えながら、一目散に走り出す。


 思考が行動に追いついてない。クリエイターは躓いて転がりそうになっても、決して止まることはなかった。


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