4-2【セイバー達に会いたいねん】

 ☆ギャンブラー


 潮風が辺りに吹いている。その中で、一人の少女がスマホを見てわなわなと震えていた。


「くそっ……キャスターも死んだ、のか……!!」


 届いたメールを読みながら、ギャンブラーは近くにある恐らく倉庫の壁を殴る。痛みはあったが、そんなことを気にすることもできないほどの怒りがあった。


 話を聞くと息巻いといたのに、何も聞かずに、見す見す3人も死なせてしまった。ランサー、ヒーロー。そしてキャスター。死んだ原因は私にもあるのではないかと、ギャンブラーは思い続ける。あの場から立ち去らなければ、きっと助けることができた。


 あの時、突然思い出した記憶。それはなぜ忘れていたのかと疑問に思うほどの内容だった。有り体に言うならば、自身のトラウマ。


 そんなもの、よほどのことがない限りは、自身の一番の記憶として扱われるはず。トラウマはあるだけで、自身の行動にいくつもの禁止事項を与えるのだから。


 しかし、今はギャンブラーはサイコロを投げることができなかった。あの時思い出した記憶が、ギャンブラーの動きを邪魔するのだから。


 サイコロを握りしめる。肉の間に、角が刺さりとてつもない痛みを感じる。本当は、そこまで痛くないとわかってるのに。


(あの記憶は……本当だろう……私が振ったサイコロのせいで……くそ……っ!)


 あの記憶が本当に正しければ……ギャンブラーはここにくる前に、大規模な賭博に参加していた。らしい。


 101人の参加者。その中から主催者とギャンブルすることになったのは、自分。掛け金は多額であり、総額一千万円。チップ一つ十万だ。


 相手の手元には100枚のチップ。しかしこちらの手元にはチップはなかった。代わりにあったのは、参加者の名簿。


 ……そう。ギャンブラーのチップは自分以外の参加者だった。ふざけてると叫びたかった。しかし、そんな言葉が出るほどギャンブラーの肝は座ってはない。


 結局ギャンブラーはギャンブルに負けた。減った金はなかったが、代わりに多数の参加者を殺してしまった。


 思えば、この日から現実のギャンブラーは賭け事をしなくなったと思う。その事件が起きるまで賭け事しかしてなかったのだから、どうやって生きればいいかわからなかったが。


 ……恐らく、この体はもう綺麗じゃなくなっている。現実に戻ってもきっと、まともな生活を送ることはできないだろう。


(……私は……どうすればいい……!?教えてくれ……誰かッ!)


 ギャンブラーは心の中で叫び声をあげる。あの時のように、声を出すことはできなかった。


 ◇◇◇◇◇


 ☆ガンナー


 ギャンブラーの動きが止まった。ペイント弾をつけたガンナーにしかわからないギャンブラー専用の脳内マップ。そこのマーカーで、ギャンブラーの動きが止まったのだ。


 場所は港。かなり遠くまで走ったのだな思うと同時に、いやあまりにも早すぎるという思いもあった。


 まぁそこらへんは後で考えればいい。今することは、とにかくギャンブラーと合流することだ。


「…………」


 気になる点は、一つ。メール画面を見ながら固まっているブースター。その人だ。彼女とキャスターは仲が良かったようには見えないが、深い関係はあったのだろう。


 聞くべきか、否か。だが、なんと言われても気の利いた答えを返せる自信がないため、まぁいいかとも考えていた。


(何はともあれ合流ですネー……ファイター達にも速く会いたいですシー)

「……なぁ……」

「アハァン?」


 声をかけられてブースターの方を向く。彼女は暗い顔をしてはいるが、何か決心したような顔に見えた。


「ウチ、ここで別れてええか?……セイバー達に会いたいねん」

「……しかし……」

「大丈夫やて!キャスターに操られたままのうちが最後のセイバー達の記憶なんて嫌なんや。せやなら……頼む。後で絶対合流するさかい」

「……OK。わかりましター……仲直りできるといいですネー」

「堪忍な!……ほな、また!」


 ブースターはそう言い残し飛んで行く。ガンナーはそれを見送ることしかできず、そういえばブースター無しでどうやってファイター達の合流するのだろうと考える。


「……ま、なんとかなるでショー」


 ガンナーはあくまで気楽に。とにかく、ギャンブラーに会えるということを楽しみにしながら、歩き出したのであった。

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