3-15【それが一番っスよね。きっと】

 ☆ジョーカー


「ふふふーん」


 道を歩きながら、一人の少女が鼻歌を歌っていた。ザクザクと落ち葉を踏みしめる音が、まるで彼女の指揮で演奏してるかのようだった。


 彼女の手にあるトランプは血で赤く滲んでいるが、それを彼女はとても嬉しそうな目で見つめている。


「いやぁ……試してみたけど……使えるんだなぁ、


 そう言ってジョーカーは何か腕のようなものを取り出して、上に持ち上げる。そこから垂れるであろうものは、すでにもう乾いていた、


 ジョーカーはおそらくこの戦いの中で一番人を殺している。この先もそうなるだろうが……それは、彼女の望んでいることではない。


 早くなんとかしなければ。だが、おそらくあと数人殺すまでは止まることはないだろう。まぁ、それでもいいかと少女は考える。


「でも、コドクってのはやだよね……は耐えられないなぁ」


 ジョーカーはクスクス笑う。彼女の顔はとても愛らしく、可愛らしく、年相応に見えた。しかしどこか諦めているような顔にも見える。


 ガサリ。物音が聞こえてきた。人がいるのかと思い、ジョーカーはペストマスクをかぶる。そうすると、少しだけ力が湧いてくる。


「ま、もう少し殺すかな。として、ね」


 さて、この先には誰がいるかな。ワクワクする気持ちを無理やり抑え、ジョーカーは草木の中からこっそりとその音がしたほうに、視線を向けたのだった。



 ◇◇◇◇◇


 ☆アーチャー


 道中で出会ったクリエイターは、楽しそうに話していた。元々人懐っこい性格だったのだろうかとも思ったが、おそらく違う。


 なるべくしてなったのだろう。生きるための術か、それとも追い詰められてその力が目覚めたのだろうか。


 生きるために必要なもの。それは人を味方につける魅力カリスマだろう。それを、クリエイターは身につけている。


 事実。クリエイターと話すと言うのは、とても楽しい。それに、もっと仲良くしたいとも思えてしまう。


「みなさん、このゲームを壊すための仲間を集めてるんスよね。どんな人たちなんスか?」

「いいものたちだ……皆、脱出のための仲間を集めている。極論、ジョーカーを倒せばそれで終わりだからな」

「でも……記憶とか、願いとかどうするんスか?」


 その話題を振られ、ファイターは口を閉じる。そうだ。もし倒した時、願いを叶えることができ、なおかつ記憶が戻るのはその倒したもののみ。


 おそらくそのことは誰も考えていない。いや、考えられないのだ。もしそのことを考えたら、この空気が壊れてしまうから。


「……俺は、辞退する。そんなことで叶えた願いなんか、いらん。それに大切な記憶……これは欲しいが……正直実感が湧かん」

「そうよね……大切な記憶がもうすでに消えてるんだから、それを取り戻せーって言われても、ねぇ」

「自分もそうするっス……それが一番っスよね。きっと」


 そう言ったクリエイターは納得しようとする。アーチャーも、ファイターもだ。願いは叶えたいが、人を殺してまで叶えてはいけないのだ。


 と、なるとなおさらなぜ自分たちはこの世界にいるのだろうか。そんなことの答えは、出てくるわけがなかった。


(ねがい、か)


 なんでも叶えるなら……結婚相手が欲しい。それがアーチャーの願いのようなもの。何十人との合コンを繰り返し、何十人とも体の付き合いをしたが、最後までたどり着いたものは、誰一人いなかった。


 だから相手が欲しい。いい年齢の女性なら、そう思うのも当たり前だろう。きっと。もしかしたら違うのかもしれないが。


 とにかくいまは、ギャンブラーたちと合流しなければならない。そうすればきっと元の世界に戻ることができ、なおかつ願いを叶えればいい。


 なんとなく今の自分は過去より魅力的になってきたような気がする。多分。だから早くジョーカーを倒さないとな。そう思い気合を入れた。


 その時だ。ファイターが足を止めて、一点を見つめる。そして彼女はゆっくりと口を開けた。


「そこにいるやつ……出てこい」

「……おや、バレちゃったか。やっぱりファイターちゃんは強いなぁ!」


 その声とともに出てきたのは、ペストマスクをつけた魔法少女、ジョーカーだ。彼女はクスクスと笑うような雰囲気でこちらにちかづいてくる。


 その彼女の手に、何かあった。まるで人の腕のようなものを見て、アーチャーは思わず声を漏らした。


「これ?これはねスペクターちゃんの腕。いやあ、こっからスキル使えるんだねぇ。ジョーカー驚いちゃった!」

「なっ——きさまぁ!!」


 ファイターは走り出した。目的はジョーカーを倒すことだろう。あんな行いをしてるとわかって、頭にこない理由はない。


 しかし——


「だめ、ファイター!」


 アーチャーの声は届かない。代わりに彼女は、途端に足を止めた。そして、震えながら、その場に崩れ落ちる。


 彼女の前には腕を前に突き出しているジョーカーの姿があった。彼女は大声で笑いながら、その腕を投げ捨てる。


「これで2回目だけど……片手片手で合計二回が限界みたいだね。でも!いいかんじ!ははは!!さて」

「あ、ぐぐ、ううう……」

「ころすよ?」


 その言葉とともに、ジョーカーはファイターを蹴り上げた。未だに立つことすらままならないファイターはそのまま流れに任せて地面に体を打ち付ける。


 笑いながら、ジョーカーはファイターを持ち上げる。そして、彼女の首にトランプをつけた。そこから赤い血がスーッと垂れていっている。


「まって——!!」


 それを見たアーチャーは前に出る。もう悩む暇なんてなかった。ここで選ぶべき選択肢は、一つしかない。


 おそらくこのままだと皆死ぬ。だからこそ、これしかないのだ。怖い。けど、やる。やるしか、ない。


 ははは。自重気味に心で笑う。あんなに未来のことを考えていたと言うのに、私は今からやることは……


 でも、これでいいんだ。


(力を——私にもっと勇気を——!)


 そしてアーチャーは真っ白な矢を取り出した。その矢を持つ彼女の手は、ガタガタと震えていたが、それをもう片方の手で抑えた。


 白い矢は、終わりゆく朝日の光を浴びて、淡く輝いていたのだった。

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